Words3|ワードゲームやクロスワードといった既存ゲームモデルを、「Optimism×MUD」ベースのオンチェーンゲームに進化させた事例を概観

どうも、イーサリアムnavi運営のでりおてんちょーです。

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今回は、Small Brain Gamesというチームが開発しているオンチェーンゲーム「Words3」について、解説していきたいと思います。

以前、MUDやECSパターンを用いたオンチェーンゲーム事例を紹介する以下の記事の中で、Small Brain GamesやWords3については少しだけ触れていましたが、今回改めて単独記事として解説していきます。

さて、「オンチェーンゲーム」と呼ばれるプロダクトの中には、『その概念が誕生してから生まれたゲーム』と『既存のゲームや概念をオンチェーン仕様に作り直したゲーム』の2種類に大別できます。

今回ご紹介する「Words3」は後者に該当するものであり、既存のワードゲームやクロスワードといったゲームモデルを、オンチェーン仕様に進化させたものと言い換えることもできます。

これからオンチェーンゲームを開発したいと志す方にとっては、既存のゲームや概念を『どうすればオンチェーンゲームとして面白くできるだろう?』というアプローチで考えた方がやりやすいと思います。そして、そういった意味でも「Words3」の事例は、参考になる部分や含蓄が多分に含まれている事例なのではないかと考えます。

ということで本記事では、Optimism上で展開されているMUDベースの「オンチェーンPvPワードゲーム」であるWords3についてご紹介し、既存ゲームジャンルとして確立されているワードゲームやクロスワードについても概観しながら、Words3やオンチェーンゲームの事例について理解を深めていただくことを目指します。

でははじめに、この記事の構成について説明します。

STEP
ワードゲーム/クロスワードについて概観

まずは、前提知識として既存ゲームジャンルとして確立されている「ワードゲーム」「クロスワード」についておさらいし、Words3に対する理解の促進を図ります。

STEP
「Words3」とは

続いて、MUDベースのオンチェーンPvPワードゲーム「Word3」について解説しながら、そこで用いられているメカニズムや運営チーム等についてもご紹介していきます。

STEP
筆者の論考・考察

最後に、コミュニティ主導でWords3関連のプロダクトが創出された事例についてご紹介し、クリプトゲームやNFTプロジェクトにおける「ボトムアップ型開発」をテーマに、筆者の私見を交えながらWord3の今後の発展可能性などについて述べていきます。

本記事が、Words3の概要やゲーム性、オンチェーンゲームにおけるボトムアップアプローチの考え方や可能性などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。

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目次

ワードゲーム/クロスワードについて概観

「Words3」というオンチェーンゲームについて説明し始める前に、序章では「ワードゲーム」と「クロスワード」の基本的な概念を確認することで、皆さんがWords3の理解を深めるのをより容易にしたいと思います。

まず前提として、「ワードゲーム」と「クロスワード」は、どちらも言葉を使ったパズルやゲームですが、その内容と目的に違いがあります。

  • ワードゲーム:
    • 言葉やアルファベットを使って遊ぶゲームの総称
    • 例えば、アナグラム[anagram](文字の並び替えゲーム)・しりとり・スクラブル[Scrabble](英単語を作るボードゲーム)など、様々な種類のゲームが含まれている
    • 言語力を鍛えたり、友人や家族と楽しんだりするためにプレイされることが多い
  • クロスワード
    • 言葉を縦横に交差させる形で格子状のマスに埋めていくパズルの一種
    • 各マスには、提示されたヒントに基づいて解答を入力していく
    • 言語力や語彙力を試したり、一人で楽しんだりするためにプレイされることが多い

つまり、ワードゲームは言葉を使ったゲームの幅広いカテゴリを指し、クロスワードはその中の特定のタイプのパズルゲームを指すという意味で別物なのです。

一般的に、日本ではクロスワードの方が馴染みが深いかと思いますが、その要因としては主に以下のようなものが挙げられています。

  • パズルと謎解きの人気
    • 日本では元来、数独・将棋のようなパズルや謎解きゲームが非常に人気
    • クロスワードパズルもまた、言葉を用いたパズルとしてその人気を享受していると考えられている
  • 利便性
    • 新聞や雑誌、さらにはモバイルアプリなど、様々な形式で利用できる環境下にある
    • また、さまざまなレベルの難易度があるため、初心者から上級者まで幅広く楽しめる
  • 多様な遊び方
    • 自分のペースでパズルに取り組むことができ、他人と競う必要がないため、ストレスフリーで楽しめる
    • 一方で、友人や家族と一緒にントを共有したり、互いに助け合ったりすることで、社会的なつながりを深めることも可能

一方で、海外(英語圏)ではワードゲームの知名度が高く、Wordle(左写真)やScrabble(右写真)などが人気コンテンツとしてよく知られている事例です。

そして、次章でご紹介するオンチェンゲーム「Word3」も、上記のWordleやScrabbleのようなオンチェーン版のPvPワードゲームとなっています。

そのため、WordleやScrabbleの概要やゲーム性を理解しておくことで、Word3に対する理解が深まると思います。

興味がある方は、上画像に添付してある出典記事をご参考ください。

出典:latimes.com/opinion/story/2022-01-21/op-ed-wordle-game-minds-play

ちなみに、Wordleの成功の要因に関しては、アメリカのユタ大学教授(哲学者)であるC Thi Nguyen氏が、以下のように考察していました。

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参考までに、筆者による要約及びその出典元記事リンクを掲載しておきます。

【※以下、筆者による要約パート

プレイヤーは最初、Wordleのことをシンプルな「文字を推測するだけのゲーム」だと思うかもしれません。しかし、次第に文字というものの可能性を探索したり、特定の文字が使用される頻度について考えるようになり、また自分が想像以上にゲームに影響を及ぼすことができる事実に気付くでしょう。これは、自分の影響力を広げる体験ができるという意味で、リミットポーカーのようなゲームに似ています。

ただ、Wordleの最も素晴らしい点は、その「ソーシャル性」にあると考えています。プレイヤーは、友達がtwitterなどに投稿した「ボックスチャートのグラフィック」を通じて、Wordleの存在を知るのです。実際、WordleはSNS上で大きな存在感を持っており、その共有可能なチャートのグラフィックデザインは見事だと思います。

また、他のゲームとは違い、Wordleでは他人の試行錯誤がどのように進行したかがすぐにわかるようになっています。そして、これは全員が同じ単語で競い合うことと結びついて、皆が共有する戦いを形成し、互いのドラマチックな過程をすぐに見て理解することができます。つまり、他の人の行動経験をシャープで鮮明で素早く覗き見ることが可能です。これがWordleの革新的なポイントです。

出典元記事:Op-Ed: The word on Wordle: It is bringing people together by letting us see into each other’s minds

クリプトのプロジェクトでも「ソーシャル性」は切っても切り離せない要素なので、Word3というプロダクトを見ていく上でも氏の考察には、参考になる要素が多分に含まれていると思います。

以上を踏まえて、次章からはオンチェーンゲーム「Words3」について解説していきます。

参考資料:
Op-Ed: The word on Wordle: It is bringing people together by letting us see into each other’s minds
twitter.com/add_hawk/status/1481386437559795713
ワードゲーム『Wordle』が世界中で流行! その理由とは?
クロスワードパズル – wikipedia
クロスワードの日(12月21日)|意味や由来・広報PRに活用するポイントと事例を紹介

「Words3」とは

出典:twitter.com/0xsmallbrain/status/1639331217052176384

概要

出典:words3.xyz

Words3は、Optimism上で展開されているMUDベースの「オンチェーンPvPワードゲーム」です。

プレイヤーの目的は『収益性の高い単語を作ること』にあります。

ルールやゲーム性などは後述しますが、以下ツイートのように各プレイヤーは「価格が変動する文字(A~Z)」を用いて、無限に広がるグリッド上に単語を配置しながらポイントを獲得していきます。

ゲーム開始時は、グリッドの中心に1つの単語infiniteが書かれた状態となっており、そこから参加者はグリッド上に文字を入力し、縦横マスで意味を持つ単語を形成することができます。

ちなみに、ユーザーが入力した単語が「縦横マスで意味を持つかどうか」の判別は、MercleProofを用いたverifyWordProof関数で決定されているそうです。(処理内容の詳細はこちら
 => MercleProofの詳細については、こちらの記事などをご参考ください。

出典:words3-visualizer.vercel.app/

このときポイントとなるのは、『使用される各文字に対してコスト(ETH)がかかる』という点です。

要は、既存ワードゲームのように思いついた単語(例えば、上写真のFに繋がっているfrequency)を0コストで入力できるのではなく、R, E, Q, U, E, N, C, Yに対してそれぞれ相応のコスト(ETH)が必要になります。

出典:twitter.com/therealbytes/status/1595408356046422020

上写真の左下部にあるように、それぞれの文字(A~Z)には変動する価格が設定されており、USD建て変動価格が表示されていることが分かります。

上写真のタイミングであれば、使用コストが1番高い文字はQで0.852148 USD、逆に1番安い文字はGで0.283015 USDとなっています。

このように、プレイヤーは人気度や需要によって価格変動する文字を巧みに使いこなしながら収益性の高い単語を作り、より多くのポイントを獲得してETHを稼ぐというのが、Word3というオンチェーンゲームの大まかなゲーム性になります。

ちなみに、この各文字の変動価格を決めるメカニズムは、後述する「VRGDA」という仕組みがベースとなっています。

一般的な戦略を概観

出典:words3.xyz

では、プレイヤーはどのようにして「収益性の高い単語」を作れば良いのでしょうか。

結論から言うと、プレイヤーが利益(ETH)を得られるタイミングは「ポイントを獲得した時」と「自分の単語の一部を他の人が使ってくれた時」の2点になるので、このどちらかにフォーカスした戦略を立てて実行することが望ましいと考えられます。

まず前提として、単語を入力するためには先述の通り「文字を購入する必要がある」のですが、ここで使用されたETHは全て報酬プール並びにワード報酬へと流れます。

このとき、Words3の運営チームは手数料を一切取らない設計となっています。プレイヤーがゲームに投入した資金はすべて(ガス代を除いて)、賞品やワード報酬を通じて最終的(ゲーム終了時)にプレイヤーに分配されます。

以上を踏まえて、プレイヤーにとっての「収益性の高い単語を作るための効果的な戦略」は、以下2点に集約できます。

  • 安価な文字を使って多くの得点を稼ぐ
    • できるだけ多くのポイントを、できるだけ安く獲得する
      • VRGDAによる文字価格がまだ安価な(≒需要が低い)うちに、早めに単語を作っておく
    • 例えばsという文字は三人称や複数形として単語の語尾に付けやすい
      • 一文字分の料金を支払うだけで単語全体の得点を得られるので、かなりお得
  • ワード報酬で稼ぐ

後者の「ワード報酬で稼ぐ」に関して、少しだけ深掘りしておきます。

まず先述の通り、各ワード(単語)にかかるコストの25%が、ワード報酬として支払われます。

各文字の右上に小さく書かれている数字が「文字に与えられたポイント」です。また、各プレイヤーには10色のうち1色が割り当てられるため、それぞれ文字の色が異なって表示されています。

そのため、例えば1ワードあたりの平均価格が同じであることを想定した場合、1つのワード(ex: 上写真緑枠線部のjazzy)から、3つのワード(musquash, zephyr, balcony)が作られた際には、a,z,yそれぞれ3つから得られるワード報酬の全てが、jazzyを打ち込んだプレイヤーの利益となります。

なので、大きな単語を早めに入力しておいて、少なくとも他の3人にその単語を使ってもらうことを目指すのは、有効な戦略となるでしょう。

このように、プレイヤーは賞金プールを獲得するためのポイント獲得と、利益を生み出すためのETH消費を最小限に抑えることのバランスを取りながら、総利益の最大化を図ります。

(プレイヤーの総利益)=(プレイヤーの獲得した賞金)+(プレイヤーの得たワード報酬)ー(支出額 ※ガス代も含む)

ちなみに、Word3ではトランザクションごとのガス代を削減するため(プレイヤーの支出額を抑えるため)に、Optimismチェーンが使用されているそうです。

VRGDA (Variable Rate Gradual Dutch Auction)について

出典:paradigm.xyz/2022/08/vrgda

先述の通り、Word3において各文字の変動価格を決めるメカニズムは「VRGDA」という仕組みがベースとなっています。

VRGDAは、Art GobblersというNFTプロジェクトのために設計されたトークン発行メカニズムであり、0xMonacoでも用いられている仕組みです。

VRGDAを簡単に説明すると、予定より売れ行きが良いときには価格を上げ、予定より売れ行きが悪いときには価格を下げることで、時間をかけてカスタムスケジュールに近い形でトークンを販売することができるようになる仕組みです。

先の戦術の節でも述べた通り、プレイヤーは「安い文字を使って多くの得点を稼ぐ」ことで効率的にゲームを展開したいので、この仕組みはプレイヤーのニーズを満たすものになると期待できそうです。

本記事ではVRGDAの詳細は割愛しますが、興味があるという方はParadigmの記事「Variable Rate GDAs」をご覧ください。

運営

出典:twitter.com/0xsmallbrain

Word3を運営しているのは、Small Brain Gamesというオンチェーンゲーム開発チームです。

オンチェーンゲーム開発における彼らのコアバリューは、以下3つであると言及されています。

  1. 4音節以上の単語を使わないこと
    • Small Brain Gamesが作るゲームは、140文字で説明できるものでなければならない
    • 超シンプルなゲームであることが大事
  2. NFTを使わないこと
    • クリプトのプロダクトマーケットフィットという点で、nftsはまさにその代表格だと思う
    • しかし、Small Brain Gamesが目指すものとは正反対なので、すべてのゲームにNFTを入れないというスタンスをとっている
  3. とにかくゲームを作って最速でローンチすること
    • Small Brain Gamesチームは、文字通りSmall Brain(物事を知るための容積がない)
    • なので、知見を得るための有効な方法は、最速でゲームを作ってローンチしてみること
    • 実際、Words3は2週間で作り、世に送り出した

また執筆時点において、Small Brain GamesはWords3以外にも『Dark Seas』と『Ape’s Gambit』といったオンチェーンゲーム開発を同時に進めています。

現在のステータス

出典:words3.xyz

執筆時点では、「Words3 “のこのラウンドは終了しました。Words3は再び開催されます。」と記載されている通り、Words3をプレイすることはできない状況です。

Discordの情報によれば、Words3は現在「MUDからMUD 2へ移行中」となっているため、開発作業が完了すれば再びプレイできるようになると思われますが、時期的にいつ頃になるのかは未定です。


最後に次章では、コミュニティ主導でWords3関連のプロダクトが創出された事例についてご紹介し、クリプトゲームやNFTプロジェクトにおける「ボトムアップ型開発」をテーマに、マニアックな考察を「定期購読プラン」登録者向けにまとめています。ご興味あればご覧ください。

筆者の論考・考察

出典:twitter.com/mita_norifusa/status/858629569519075328

この続き: 1,941文字 / 画像3枚

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まとめ

今回は、Optimism上で展開されているMUDベースの「オンチェーンPvPワードゲーム」であるWords3についてご紹介し、既存ゲームジャンルとして確立されているワードゲームやクロスワードについても概観しました。

本記事が、Words3の概要やゲーム性、オンチェーンゲームにおけるボトムアップアプローチの考え方や可能性などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。

また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。

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