今回は、2024年6月に閉鎖予定であることがアナウンスされ注目を集めている、OP StackをベースにしたL2ネットワーク「Public Goods Network(以下PGNと表記)」について解説していきたいと思います。
PGNは、「公共財への持続可能な資金提供」を目指し、将来的には「GitcoinのためのAppチェーンになる」ことを目標に掲げていましたが、技術的および運営上の課題から、徐々にサービスを縮小する方針が発表されました。
Today, we are sharing a bittersweet update on PGN's future.
— Public Goods Network | 🟢 (@pgn_eth) January 17, 2024
Since launching the Public Goods Network in July '23, our journey has been one of building and learning, fueled by the incredible support of the Public Goods Alliance, our community, partners, and of course @gitcoin.
筆者個人としては、いつの日か「公共財への持続可能な資金提供を実現するシステム」が確立されることを願い、PGNがその起爆剤となることを期待していたのですが、さまざまな課題により持続困難な状況に陥ってしまったようです。
課題解決のためのアプローチとしては素晴らしい試みであったにもかからわず、なぜPGNが持続可能なシステムを構築できなかったのか、そしてそこから得られる教訓にはどのようなものがあるのか。本記事では、これらについて網羅的に取り上げていくことで、PGNの取り組みを一人でも多くの方に知っていただき、次のチャレンジに繋がる重要な教訓を一つでも得て頂くことを目指します。
また、「失敗」という一般的に腫れ物扱いされやすいテーマとして取り上げ、PGNが果たした役割や、今後のプロダクト開発に必要な心構えについても考察を展開します。
でははじめに、この記事の構成について説明します。
まずは、PGNとはそもそも何なのか、そして、どのようなスキームで「公共財への持続可能な資金提供を実現するシステム」を構築しようとしていたのかについて、解説します。
続いて、公共財ネットワークPGNの閉鎖予定アナウンスの内容を要約し、その要因について一つずつ詳しく見ていきます。
最後に、「GitcoinのためのAppチェーンになる」ことを目指したPGNが果たした役割を深堀りし、Gitcoinの創設者Owocki氏の反応、PGNの実験価値、そして進歩を促す失敗と学びの重要性について考察を展開します。
本記事が、PGNの概要や閉鎖アナウンスの詳細、そして失敗と学びの重要性などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。
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PGN(Public Goods Network)とは
概要
PGN(Public Goods Network)は、EthereumベースのL2ネットワークであり、「公共財への持続可能な資金提供」を目的としています。
将来的には『GitcoinのためのAppチェーンになる』ことを掲げ、低コストで安全、かつ効率的な取引を実現しつつ、公共財の資金調達を促進することを目指していました。
PGNの用途としては、「公共財のために、持続可能で多くの収入源を提供したい場合」に適していると記載されています。
例えば、L2上でdAppsを構築・使用することにより、それを構築する組織やアライアンスに収入が生まれますが、PGNはこの収入の大部分を「公共財の資金」に充てる仕組みを提供します。
つまり、『ユーザーは対象のネットワークを利用するだけで、公共財やそのプロジェクトを支援することになる』という仕組みです。
では、PGNはエコシステムに存在するそれぞれのエンティティに対して、どのようなメリットを提供していたのでしょうか。ドキュメントの内容をもとに簡潔に図解すると、以下のように表すことができます。
まず、ユーザーに対しては、Ethereumのセキュリティを保ちながら、低い取引コスト提供します。また、アプリケーション開発者に対しては、L2のセキュリティ、安定性、拡張性が提供されます。そして、公共財を重視する人々に対しては、追加の財務的コミットメントなしに、公共財への安定した資金提供が可能になります。
詳しくは次章で述べますが、今回サービス終了発表に至った理由について、この3つ目の『公共財に対しての確実で定期的な資金提供』が当初の試算通りにならず、持続困難であったと語られています。
PGNの資金調達方法
PGNがどのようにして、『公共財に対する定期的な資金提供』を実現しようとしていたのか。大きく分けると、「シーケンサー料金」と「CSR(Contract Secured Revenue)」の2つから資金確保しようとしていました。
まず、PGNでは、PGNネットワーク上での取引から生じるシーケンサー料金の大部分を、公共財プロジェクトの資金に充てようとしていました。
また将来的には、PGNはCSRを活用して、開発者の持続可能な収入源をサポートする予定となっていました。
CSRは、「スマートコントラクトの開発者が、ユーザーがそのスマートコントラクトを利用する際に支払う取引料金の一定割合を請求できる」というものです。これにより、PGN上で構築されたdAppsやそれらを利用するユーザーが増えるほど、開発者と公共財のための収益が増加する流れを生み出そうとしていたのです。
なお、ネットワーク立ち上げから6ヶ月後に、シーケンサー料金が評価され、累積データに基づいて公共財プロジェクトへの割り当てが行われる予定となっていましたが、残念ながら次章で詳述するように、2024年6月に閉鎖することがアナウンスされてしまいました。
本章の参考資料:
docs.publicgoods.network
publicgoods.network
公共財ネットワークPGN、2024年6月閉鎖へ
アナウンスの内容を要約
- 閉鎖の背景と決定
- PGNは、2024年6月に閉鎖予定
- 「公共財への資金提供目標の達成が困難」との評価に基づき、段階的な縮小が決定された
- 技術的および運営上の課題
- Contract Secured Revenue(CSR)の実装を、Superchain上で単独で実装することは不可能だった
- Superchainの相互運用性インフラと開発者ツールがまだ開発中であり、小規模なチームにとっては特に困難な環境であった
- トランザクション量が目標を下回り、十分な収益を生み出せなかった
- 閉鎖に向けた今後の展開
- 閉鎖計画、ユーザーサポートシステムの詳細は近く公開予定
- 資産引き出しは2024年6月までhttps://bridge.publicgoods.networkを通じて可能
①閉鎖の背景と決定
2023年1月18日に出された「Announcing the spin down of PGN (EoL June 2024)」によると、『公共財への資金提供目標の達成が困難である』との評価に基づき、PGNは2024年6月に閉鎖予定であると発表されました。
また、6月にいきなりクローズするのではなく、今後6ヶ月間で段階的に縮小していく旨が記載されています。
②技術的および運営上の課題
主な閉鎖理由の一つとして、「Contract Secured Revenue(CSR)の実装が技術的制約により不可能になった」ことについても述べられています。
前章で示した通り、PGNにおいてCSRは『PGN上で構築されたdAppsやそれらを利用するユーザーが増えるほど、開発者と公共財のための収益が増加する流れ』を生み出すための重要装置として位置付けられていました。
しかし、CSRはOptimismのSuperchain上で単独で実装できる技術ではないことが判明したため、運営を続けることが困難であると判断したようです。
また、閉鎖に至ったもう一つの大きな理由として、今日までのPGNネットワーク上のトランザクション量が目標を下回り、十分な収益を生み出せなかったことを挙げています。
これに関して、Gitcoinコアチームメンバーのkyle氏は、技術的な実現可能性・ネットワークを運営することの予想以上のコストの高さ・流動性の低さ・基本コンポーネントの欠如などが要因であると同時に、「トークンのエアドロップの約束がなく、他のL2ネットワークよりもトラフィックが少なかった」ことも影響したと言及しています。
確かに、2024年は多くのL2エコシステムでトークン発行イベントが行われるのではないかと期待が膨らんでいる中で、あえてトークンの発行を行わず(「我々はトークンを作りたくなかったし、OPがSuperchainを管理しているから。」と言及)、寄付に特化したプラットフォームに人や資金を集めることは相当ハードルが高かったのであろうと推測できます。
こういった技術的および運営上の課題が蓄積し、『PGNを成功させるために必要な要件と資本は、Gitcoin Foundationだけでは賄えないほど大きい』と判断され、最終的に閉鎖することになりました。
③閉鎖に向けた今後の展開
現在の計画では、PGNは2024年6月にサービス終了する予定であり、その時期が近づいた段階で詳細をお知らせすると述べられています。
また、それまでの間にPGNへのブリッジを無効にし、ユーザーにはPGNから必要なアセットを取り出すことを奨励しています。
ただし、「PGNを財政的に支援したい」「ネットワークを引き継ぎたい」という方がいたら連絡を取りたいという旨も同時に記載されているため、そういった方の出現次第ではネットワークが存続する道もあるのかもしれませんが、現段階ではPGNというネットワークは終焉を迎えるというシナリオが濃厚となっています。
最後に、本章の初めに掲載したTL;DRをもう一度貼っておきます。
- 閉鎖の背景と決定
- PGNは、2024年6月に閉鎖予定
- 「公共財への資金提供目標の達成が困難」との評価に基づき、段階的な縮小が決定された
- 技術的および運営上の課題
- Contract Secured Revenue(CSR)の実装を、Superchain上で単独で実装することは不可能だった
- Superchainの相互運用性インフラと開発者ツールがまだ開発中であり、小規模なチームにとっては特に困難な環境であった
- トランザクション量が目標を下回り、十分な収益を生み出せなかった
- 閉鎖に向けた今後の展開
- 閉鎖計画、ユーザーサポートシステムの詳細は近く公開予定
- 資産引き出しは2024年6月までhttps://bridge.publicgoods.networkを通じて可能
失敗と学習の交錯:Gitcoinの歴史におけるPGNの実験価値
この続き: 2,814文字 / 画像9枚
まとめ
今回は、課題解決のためのアプローチとしては素晴らしい試みであったにもかからわず、なぜPGNが持続可能なシステムを構築できなかったのか、そしてそこから得られる教訓にはどのようなものがあるのか等について解説しました。
本記事が、PGNの概要や閉鎖アナウンスの詳細、そして失敗と学びの重要性などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。
また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。
◤ 失敗から学ぶ ◢
— イーサリアムnavi🧭 (@ethereumnavi) January 25, 2024
🟢公共財への持続可能な資金提供を目的としたL2「PGN」が閉鎖を発表
🟢寄付に特化したプラットフォームを運営することの難しさには何があるのか
🟢Gitcoinの創設者Owocki氏の反応から、失敗と学びの重要性についても考察
詳細はこちら👇@pgn_ethhttps://t.co/dkCumiZa7a
ユーザーを集めることの難しさを感じます。エンドユーザーに対してチェーンを使う価値を提供できていなかったのかな、と解釈。 https://t.co/j0Uazu86AP
— ヤスヤスオンファイヤー (@YasuYasu_onFire) January 26, 2024
“There was confusion on how the Tx volume would be filled – OP felt this would be an App chain for Gitcoin and we wanted this to be an ecosystem chain like Base.”
— shutanaka.Ξth (@shutanaka_jp) January 25, 2024
App chain: 低Tx volume (GGは常時開催ではない)
Ecosystem chain: PGN上で作るインセンティブが無い
どのみちキツいという https://t.co/ed8jybtbBl pic.twitter.com/XxXQbkTvYz
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