CCP Gamesが開発中のクリプトゲーム「Project Awakening」|20年以上続く長寿ゲームがこのタイミングでAW領域にポジションを取る理由

どうも、イーサリアムnavi運営のでりおてんちょーです。

イーサリアムnaviでは、毎日大量に流れてくるクリプトニュースを調査し、その中でも面白いトピックやクリプトネイティブな題材を選び出し、それを分かりやすく読みやすい形でお伝えしています。パラパラと内容を眺めているだけでも、事業やリサーチの新たなヒントに繋がることがあります。世界の最先端では、どのようなクリプトコアな試みが行われているのかを認識するだけでも、 思わず狭くなりがちな視野を広げてくれるでしょう。

今回は、EVE Onlineという著名ゲームを開発する企業CCP Gamesが手掛けるクリプトゲーム「Project Awakening」や、「Autonomous Worlds Assembly 2023」でのCCP Gamesのセッションなどについて解説していきたいと思います。

CCP Gamesは、EVE Onlineで培った豊富な経験と技術力を生かし、新たな挑戦としてクリプトゲームの分野に進出を表明しており、その中でも特に、「Project Awakening」はその先駆けとなるプロジェクトであり、ブロックチェーン技術を利用した新しいゲームの形を模索しています。

EVE Online自体はクリプトゲームではないものの、後述するように『今日のweb3を定義する多くの基本原則を証明してきた題材である』と思います。

そして、そんな彼らが新たにEve Onlineの世界を舞台にしたAAAクリプトゲームの開発に着手し、なおかつ大型資金調達のリード投資家はa16z cryptoだということで、注目が集まっています。

ということで本記事では、CCP Games / Eve Onlineについての基本概要から、「Autonomous Worlds Assembly 2023」でのCCP Gamesのセッションの要約、古代のサイコロゲームと現代の最新テクノロジーを導入したゲームとの交差点などについて、取り上げていきたいと思います。

でははじめに、この記事の構成について説明します。

STEP
CCP Games / Eve Onlineについて

まずは、20年以上も続いている世界初のデーターベース「Eve Online」の概要や、その運営母体であるCCP Gamesの思想などについて、「Autonomous Worlds Assembly 2023」でのCCP Gamesのセッションの内容などを踏まえて網羅的に解説します。

STEP
古代リディア人がサイコロゲームを発明した理由

続いて、「古代リディア人がサイコロゲームを発明した背景」というトピックについて紹介しつつ、歴史を通じてゲームがコミュニティの統治や集団の合意形成の手段としてどのように活用されてきたかを概観し、これらの側面が現代社会においてどのように発展しているのかについて論じていきます。

STEP
新たな航海へ:Eve Onlineからオンチェーンゲームの未来へ

最後に、20年以上「Eve Online」の運営を経て培われた知見と、クリプトゲームならではの強みがどのように交差するのか等について、筆者の私見を交えながら考察を展開します。

本記事が、CCP Games / Eve Onlineの概要や実態、大手ゲーム企業のAW領域への参入事例などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。

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目次

CCP Games / Eve Onlineについて

出典:ccpgames.com

概要

CCP Gamesは、1997年にアイスランドで設立されたゲーム開発会社で、特に「Eve Online」というMMORPGの運営を手掛ける会社として有名です。

「Eve Online」は、2003年にリリースされた宇宙を舞台にしたゲームで、独特なゲームプレイと充実したプレイヤーコミュニティにより、広く認知されています。

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筆者はEve Onlineを実際にプレイしたことはありませんが、複雑に構築された経済システム、プレイヤー主導のガバナンス、宇宙戦闘や探索など、インタラクティブな体験に魅力があると名高く、クリプトゲームとしての素質を持ち合わせた作品だと感じました。

このゲームについて簡単に説明すると、以下のようになります:

本記事では、この後も何度かこちらの図を使用しながら、「Eve Online」やその周辺情報について解説していきます。

また、本節冒頭の画像の通り、CCP Gamesは「Eve Online」以外にも、VRゲームやその他のMMORPGタイトルの開発に取り組んでいます。

いずれのタイトルも、革新的なゲームデザインとプレイヤーコミュニティの強化に重点を置き、ゲーム業界での影響力を持続的に拡大しています。

CCP Gamesのビジョン

PR TIMESの記事「CCP Games、革新的な新しいAAAゲームにAndreessen Horowitzが率いる4,000万ドルの出資を確保」によると、CCP GamesのCEO Hilmar Veigar Pétursson(ヒルマー・ヴェイガー・ペトゥルソン)氏は、以下の通り述べています。

CCP Gamesのビジョンは、創業以来、現実よりも有意義な仮想世界を創造することでした。今、ブロックチェーンの進歩により、私たちはプレイヤーの代理権と自律性という私たちの専門知識を深く刻み込んだ新しい宇宙を作り上げることができ、プレイヤーに新しい方法で参加する力を与えることができます。今回の資金調達は、仮想世界の運営を始めてから10年目を迎え、スタジオの歴史にエキサイティングなフロンティアを刻むものです。この新しいタイトルの開発に対するパートナーからの信頼に、身が引き締まる思いです。

出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000070037.html

これは言い換えると、CCP Gamesは1997年の設立当初から『仮想世界の創造』を目指しており、その目標を実現する上でブロックチェーン技術の発展が大きな可能性を開いたとしています。

この文脈でCCP GamesがAW領域に参入していることは非常に興味深く、また後述するように、a16z cryptoなどの投資家が大きく出資・期待している点にも、大きな期待が寄せられていることが分かります。

資金調達

出典:twitter.com/Crypto_Dealflow/status/1638257419653378062

さて、そんなCCP Gamesですが、実は2023年3月末にシードラウンドで、a16z cryptoなどから$40Mの資金調達を行っています。

ただ、留意しておくべき点としては、この資金調達はCCP Gamesという会社全体に対するものではなく、あくまでこれから開発するクリプトゲーム「Project Awakening(直訳:プロジェクトの覚醒)」単体に対する出資であるということです。

原文:The investment is focused on the game project itself, so this means that the new investors did not acquire a stake in CCP Games or in its parent company Pearl Abyss.

日本語訳:今回の投資はゲームプロジェクトそのものに焦点を当てたものです。つまり、投資家はCCP Gamesやその親会社であるPearl Abyssの株式を取得した訳ではありません。

出典:CCP Games raises $40M for new triple-A Web3 game in the Eve universe

そのため、もしかしたら今後クリプトゲーム「Project Awakening」でトークンの新規発行を行い、その一部を先行投資家に対して割り当てるのかもしれませんが、現時点ではその詳細は不明です。

出典:CCP Games raises $40M for new triple-A Web3 game in the Eve universe

では、なぜa16z cryptoは、これほど大きな金額を「Project Awakening」単体に対して投じているのでしょうか。

a16z cryptoが公開した記事「CCP Games raises $40M for new triple-A Web3 game in the Eve universe」によると、以下のように書かれています。

  • 「EVE Online」は、20年の歴史の中においてその多くがプレイヤー主導で構築され、作り込まれた経済システム・プレイヤーによるガバナンス・自由に取引されるアイテムなどが特徴の、永続的な仮想世界である
  • 私たちは、次世代のWeb3ゲームは、オープンエコノミー・プレイヤー主導の社会システム・コンポーザビリティを備えたゲームプレイを基本とすると信じてきた
  • CCPはこの分野の先駆者であり、CEOであるHilmar Pétursson氏のweb3へのアプローチや、複数のビジネスサイクルを通じたCCPの運営経験、またベテラン起業家兼スタジオリーダーとしての経歴に感銘を受けている
  • そのため、私たちは次世代の仮想世界を構築するこの旅に、CCP Gamesチームと共に参加できることに非常に興奮している

これを見る限り、a16z cryptoは「Eve Online」の20年にわたる運営経験と、プレイヤー主導の経済システムやガバナンスモデルが次世代のWeb3ゲームにどのように貢献できるかに期待しているように見て取れます。

ステータス

そんな期待の「Project Awakening」ですが、執筆時点においてはプレイテストを開始した段階となっています。

しかしながら、プレイテストに参加するためにはNDA(秘密保持契約)を結ぶ必要があるため、具体的な内容について、現状ここでは記述することができません。

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興味がある方は、上記ツイートにあるリンクを辿って申請し、体験してみてください。

なぜCCP Gamesはクリプトゲーム開発に着手したのか

先ほど掲載した図を再度見ると、「Eve Online」は、現在クリプト領域で探求されているような取り組みを、以前から実践してきたことがわかります。

このことから、クリプト技術を活用することで、元々のビジョンをさらに実現しようとしている可能性が高いのではないかと考えられます。

また、「275 Bspeak! 2023年3月27日号」では、以下のような推測が展開されていました。

元々のEve Onlineではゲーム内通貨と法定通貨の交換はできなかったため、今回はクリプトを使うことによってゲーム内通貨に価値をもたせるものと推測できます。また主要部分はオンチェーンで開発され、サードパーティによる開発が可能であったり、それらを組み合わせることができるようになるそうです。

一般的なMMORPGと同じように、「Eve Online」をプレイする際には月額の料金が必要なのですが、このゲームでは『プレイヤーがゲーム内で稼いだ通貨を月額料金の支払いに使用できる』点が特徴的です。

さらに、これまで「Eve Online」はゲーム内で完結した経済システムを持っていましたが、そこにブロックチェーン技術を導入することで、この経済システムをゲーム外のエコシステムにも展開できる可能性が広がり、既存のDeFiなどと組み合わせることができるようになると考えられます。

加えて、「Eve Online」は2013年からデータベースやAPIの情報を公開しており、この情報を利用してゲーム内通貨を使ったギャンブルサイトなど、外部エコシステムでの活用事例も見られます。

この辺りの情報は @WakiyamaPさんから教えて頂きました。興味がある方は参考資料もご覧ください

参考資料:
解毒剤でもあり,毒でもある:EVE Onlineとギャンブルの腐れ縁
Eve Online|外部サイト・ソフトウェアまとめ

CCP Gamesがクリプトゲーム開発に乗り出した背景には、「Eve Online」の基本的なビジョンをブロックチェーン技術を活用してさらに拡張し、プレイヤーに新たな価値と可能性を提供する意図があると考えられます。

要約|「Autonomous Worlds Assembly 2023」でのCCP Gamesのセッション

出典:youtu.be/tNugwZttuoU?si=Odc13IWOLFOKge5Q&t=10

さて、続いて本節では、2023年11月に開催された「Autonomous Worlds Assembly 2023」で、CCP GamesのCEOであるHilmar氏が行ったセッションの概要を簡単にまとめ、彼らの考え方を見ていきます。

なお、元動画はこちらの26分のYouTube動画「The Longest Game ✧ Hilmar Veigar Pétursson ✧ Pre-Assembly 2023」をご参考ください。

この動画の中で、筆者が個人的に特に興味深かったトピックは、以下の3つです:

  1. データベース上で作られた世界初のゲーム
  2. なぜEve Onlineがこれほど長く続いているのか
  3. ブロックチェーン上にMMO PVPゲームを構築することは良いアイデアか

① データベース上で作られた世界初のゲーム

データベースゲームに関して、あまり聞き馴染みのない方も多いかもしれませんが、本動画の中では『MMORPGとは似て非なるもの』だ位置付けており、オンラインゲームとは違う別物としています。

CEOであるHilmar氏によると、Eve Onlineはその名の通りデータベースの中で動作し、ゲームの進行自体がデータベース内で行われるよう設計されています。

この仕組みにより、「Eve Online」のウェブ版では、ストアドプロシージャ(データベース管理システムにおける機能)を使って操作を行うことができ、これによって処理速度が向上するなどの利点があります。

出典:tech-begin.com/computer-basic/database/stored-procedure

ちなみに、「Eve Online」では2013年からデータベースの情報が公開されており、先述の「Eve Online|外部サイト・ソフトウェアまとめ」にも記載されているように、これが多くのボトムアップ型の派生ツール群を生み出すきっかけとなっています。非常にweb3的な試みを10年前から行なってきたことが分かります。

② なぜEve Onlineがこれほど長く続いているのか

「Eve Online」は今日でも20年以上にわたる長寿ゲームとして、多くのファンに支持され続けています。

ただ長く続いているだけでなく、その内容の充実ぶりも注目に値します。Hilmar氏によると、本動画では「Eve Online」のアクティブユーザー数が110万人に達しており、これをweb3スペースでいう『daily active wallet数』と比較しています。

さらに、「Eve Online」のデータベース上での取引回数は、去年だけで約2億5000万回にも上り、これはweb3スペースでの『スマートコントラクトの呼び出し回数』と同等の活動量を示しています。

出典:store.steampowered.com/app/8500/EVE_Online

「Eve Online」が長期間にわたり支持される理由は、トライ&エラーを重ねて発展させてきた多くの重要な要素にあります。例えば、Eve Onlineでは戦闘だけでなく、探索や貿易、産業といった多様なプレイスタイルをサポートしているのです。

これは、以下のDark Forestの記事でも触れましたが、色々な遊び方が備わっていることでプレイヤーやコミュニティの裾野を広げることに繋がる施策です。

CCP Gamesは20年以上にわたり、新しいコンテンツや機能を定期的に追加し、ゲームを常に新鮮で魅力的に保つための更新と拡張を続けてきました。この継続的な努力が、熱狂的なファンを生み、コミュニティの発展につながっているのです。

③ ブロックチェーン上にMMO PVPゲームを構築することは良いアイデアか

出典:youtu.be/tNugwZttuoU?si=Odc13IWOLFOKge5Q&t=10

前の節で、「Eve Online」がデータベースの公開やAPIの利用促進に取り組んできたことに触れましたが、それでもHilmar氏は、「現状は完全なパーミッションレスではなく、多くの許可が必要である」と指摘しています。

これまでに「Eve Online」は、社会を構築・運営するためのツールやルールの提供に焦点を当ててきましたが、そこで満足することなく、今後はプレイヤーがデータやリソースに自由にアクセスし、自らのアプリケーションやサービスを開発できるような環境を整えることを目指しているように見受けられます。

なので、現時点では「Project Awakening」に関する詳細は未公表ですが、おそらくデータベースゲームをクリプトゲームとしてリニューアルさせながら、よりパーミッションレスな設計に挑戦する可能性が高いと考えられます。

出典:youtu.be/tNugwZttuoU?si=Odc13IWOLFOKge5Q&t=10

また、動画ではデータベースやブロックチェーン以外に「第三のコンピュータ」が将来的に登場する可能性にも期待を示しており、「Project Awakening」の実験がその道のりにおける貴重な一歩になると述べています。

そして、この「第三のコンピュータ」が登場する前の探求として、ブロックチェーンを使ったMMO PVPゲームの構築が良いアイデアであるとも言及しています。

そして、最後に「ブロックチェーンという新しい技術革新が、ゲーム業界や社会全体に対してどのような変化をもたらすのか」を問いかけるかたちで、本セッションが締めくくられるという流れです。


以上、CP GamesのCEO Hilmar Veigar Pétursson氏によるセッションの内容について簡潔に要約しました。

この他にも興味深いトピックが多く、実際に参加された方も面白いセッションだったと推していたので、興味がある方はこちらの26分のYouTube動画「The Longest Game ✧ Hilmar Veigar Pétursson ✧ Pre-Assembly 2023」をご覧ください。

古代リディア人がサイコロゲームを発明した理由


前章では、「EVE Online」が20年間にわたりプレイヤーによって主導され、『構築された経済システム』『プレイヤー主導のガバナンス』『自由に取引できるアイテム』などを特徴とする、持続可能な仮想世界を目指すデータベースゲームであることを探求しました。

それを踏まえて本章では、「古代リディア人がサイコロゲームを発明した背景」というトピックについて紹介しつつ、歴史を通じてゲームがコミュニティの統治や集団の合意形成の手段としてどのように活用されてきたかを概観し、これらの側面が現代社会においてどのように発展しているのかについて論じていきます。

困難を乗り越える遊び:リディア人にとってのサイコロゲーム

さて、古代ギリシアの歴史家ヘロドトスによれば、古代リディア人は飢饉により長期間にわたる食糧不足に直面した際、サイコロゲームを発明し、これを利用して約18年間社会をまとめ上げたと伝えられています。

具体的には、彼らは厳しい食糧不足を乗り越えるために、1日おきに食事をするという方法を採用し、食事をしない日にはサイコロゲームで過ごしていたのです。

サイコロゲームの発明には、次の3つの重要な意味があったとされています:

まず、サイコロゲームは困難な時期にリディア人の生活の質を向上させる手段となりました。

苦しい時期にゲームをすることで、人々はポジティブな感情、経験、そして社会的なつながりを深めることができたのです。

次に、サイコロゲームは人々を結束させる力を持っていました。

彼らはサイコロを振るという共通の活動を通じて、社会全体の団結を促進したのです。

さらに、サイコロゲームはリディア人に持続可能なライフスタイルを採用する機会を提供しました。

つまり、人口一人当たりの食糧消費を減らし、限られた資源を節約することで、少ない資源でも長く生き延びる様式の実現が可能になったのです。

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これらの考えを現代に当てはめると、私たちもゲームを通じて退屈や不安、孤独や憂鬱を軽減し、社会的なつながりを求めていると言えるでしょう。つまり、古代リディア人がゲームから得た価値は、現代人も同様にゲームを通じて得ているのです。

その後「くじ引き」ゲームで未来を開く

しかし、当然の話ではありますが、リディア人がサイコロゲームを発明し、18年にも渡ってプレイし続けたからといって、根本的な食糧不足の問題は解決しませんでした。サイコロゲームは、個人の苦しみという問題を緩和し、社会の混乱という問題を解決たものの、ゲームは食料供給の崩壊という問題そのものを解決してはくれないのです。

ただ、物語はここで終わりではありません。結果的には、彼らの物語は幸せな結末を迎えました。


18年間のサイコロゲームを経て、リディア人は「このままでは飢饉を乗り越えられない」と気づき、抜本的な対策を講じることを決意します。

まず彼らは、リディア王国の住人の人口を半分に分ける決断を下し、片方はリディアに残り、もう片方は新しい土地を求めて出発するという「最後のゲーム」として、くじ引きを行いました。

そしてこの決断が、予想外の成功へとつながりました。

まず、リディア王国では人口が半減することで、食料資源をより効率的に利用できるようになり、食糧問題が速やかに解消されました。そして、新たな土地を求めて旅立った人々は、ヘロドトスによれば、現在のイタリア・トスカナ地方に定住し、その後高度なエトルリア文化を築いたと言われています。

エトルリア人は、ローマ文化に多大なるポジティブな影響を与え、都市計画や土木工学などの技術を発展させたことで知られています。そして、これらの技術は後にローマ帝国を形成し、現代西洋文明の基盤を築くのに大きく貢献したのです。

このように、リディア人のサイコロゲームは単に困難な時期を乗り越えるための手段に留まらず、社会全体が共通の目標に向かって協力し、強固な社会基盤を築く上での重要な役割を果たしました。

サイコロゲームは、彼らがより大きな社会の一部であるという意識を育むための重要なツールでもあったのです。

ゲームデザインに愛を込める

では、リディア人にとってのサイコロゲームのような現象が、現代のゲームにも見られるかどうか考えてみましょう。

先の節で触れた「Autonomous Worlds Assembly 2023」でのCCP Gamesのセッションでは、CEOのHilmar氏が『ゲーム内コミュニティの重要性』について深く語っています。

そこで彼は、Eve Onlineが20年にもわたり生き残り続けた大きな要因は、『愛をデザインの根底に置いたから』であると述べています。

「他人を幸せにすること」を勝利の条件とするゲームの設計について深く考察しました。現在のEve Onlineは、まさに他人の幸せを願うことで自分も勝者になれるゲームです。

クリプトゲームで愛をデザインの基盤にすることができるかは明確ではないものの、経済的な報酬(例えばエアドロップ)だけでなく、内発的な動機づけに基づく設計が可能だと考えることは難しくないでしょう。

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これは筆者の憶測に過ぎませんが、「Project Awakening」においても、クリプトを利用した経済的報酬の設計を取り入れつつ、最終的にはユーザーを内発的動機づけへと向かわせるような取り組みが進められるのではないかと思います。そうでなければ、これまでのweb3ゲームが直面してきたように、経済的報酬だけを追求するユーザーが多くなり、持続可能なエコシステムを築くことが難しくなってしまうからです。

ゲームの力で社会課題に挑む

出典:twitter.com/pushmatrix/status/1753055948459946193

また、内発的な動機づけとは少し異なりますが、ゲームを「現実の問題を解決するためのツール」として捉えると、クリプトを含む最新テクノロジーを活用したゲームには、まだ見ぬ潜在的な可能性があると思われます。

現代のゲームは、科学・社会・経済・環境問題などの「現実の課題」をゲームに取り入れ、それらに対する解決策を見出す力を持っています。そして、ブロックチェーンやAI、xRなどの最新テクノロジーを採用することで生まれる『新たなアプローチ』を探っている段階です。

例えば先日、上のGIF画像のような「Apple Vision Proを装着して、コインを獲得しながら部屋の隅々まで掃除できるアイデア」がありましたが、このような課題解決型のゲームが自由市場によって次々と発明されていくことで、生み出されることで、私たちの生活がより楽しく、便利で豊かになる日も遠くないでしょう。

「他の人の幸福を願うこと」「誰かのためになること」を、効率性や利益の最大化を追求する経済システムの中だけで解決することの難しさは、以前から指摘されてきました。

しかし、古代リディア人がサイコロゲームを通じて「共通の目標に向かって協力する方法」を学んだように、現代もまた、双方向テクノロジーとグローバルコミュニケーションネットワークを駆使したゲームを使って、他者と協力し、資本主義の枠を超えた重要な課題(例:地球温暖化)に対処し、大きな成果を上げる準備ができつつあるのかもしれません。

最後に次章では、「ブロックチェーン技術を活用したゲームの未来」をテーマに、CCP Gamesの挑戦、オンチェーンゲームやAWの可能性、そして未来のゲームがどのように進化していくか等を中心に、マニアックな考察を「定期購読プラン」登録者向けにまとめています。ご興味あればご覧ください。


本章の参考資料:
ジェイン・マクゴニガル (著)『幸せな未来は「ゲーム」が創る』

新たな航海へ:Eve Onlineからオンチェーンゲームの未来へ


この続き: 2,346文字 / 画像5枚

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まとめ

今回は、CCP Games / Eve Onlineについての基本概要から、「Autonomous Worlds Assembly 2023」でのCCP Gamesのセッションの要約、古代のサイコロゲームと現代の最新テクノロジーを導入したゲームとの交差点などについて取り上げました。

本記事が、CCP Games / Eve Onlineの概要や実態、大手ゲーム企業のAW領域への参入事例などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。

また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。

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