シードで1000万ドル調達して話題|Drak Forest共同創業者が立ち上げた「Argus Labs」が手がけるオンチェーンゲームエンジン『World Engine』について解説

今回は、オンチェーンゲームスタジオ「Argus Labs」と、Argus Labsが開発中のLayer2 SDK(オンチェーンゲームエンジン)である「World Engine」について、紹介・解説したいと思います。

さて、今回ご紹介するArgus Labsは、先日 元a16zのGPであるKatie Haun氏によって設立されたHaun Ventures ($1.5Bのクリプトファンド)を筆頭にしたVC、またBalaji Srinivasan氏やSiqi Chen氏などのエンジェル投資家らから、シードラウンドで合計1000万ドルの資金調達を行なったと報告しています。

なお、以前Haun VenturesのファウンダーであるKatie Haun氏は日本にも来ていたようで、昨今の日本のクリプト領域における挑戦を評価されていました。

世界各国でオンチェーンゲーム/Autonomous Worlds(以下AWと表記)の開発や投資が進められていく中で、Argus Labsは他のオンチェーンゲーム/AWとは少し趣向が異なっており、「ゲームとしての面白さを追求しつつオンチェーンに落とし込む」という方向性での展開・発展を目指しているように感じました。

ちなみに、この後で詳述しますが、Argus LabsのファウンダーはDark Foresrtの共同創業者の方です。

今までは、ゲーマーではなくコアなクリプト技術者をターゲットにしていた(と筆者は捉えている)当領域でも、ゲーム好きな人たちをメインターゲットに見据えたプロダクトが出てくるのではないか、そしてそれを成し遂げようとしているのは、元祖オンチェーンゲームDark Foresrtの構築者であるという事実に、期待している次第です。

ということで本記事では、「Argus Labs」というオンチェーンゲームスタジオ、ならびにオンチェーンゲームSDK『World Engine』の概要について解説しつつ、その基本概念やビジョン、「World Engine」が生まれた背景から今後に向けた展望まで見ていきたいと思います。

でははじめに、この記事の構成について説明します。

STEP
「Argus Labs」と『World Engine』について

まずは、Argus LabsとWorld Engineの概要やビジョン、資金調達応報やチームメンバーなどの情報について、網羅的に概観していきます。

STEP
プロダクト誕生背景|Dark Forestで得た教訓

続いて、Argus Labsという組織が立ち上がった背景や、Dark Forestからどのようなtipsを得たことでWorld Engineが生まれたのか等について、講演動画の内容をもとに解説していきます。

STEP
【コラム】日本のアニメ文化が世界に与える影響と分散型クリプトゲームの未来

最後に、コラムセクションとして「日本のアニメ文化が世界に与える影響と分散型クリプトゲームの未来」について、筆者自身の視点も交えつつ考察していきたいと思います。

本記事が、Argus Labsの概要やWorld Engineの概要や注目ポイント、またそれらが成し遂げようとしている未来像などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。

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目次

「Argus Labs」と『World Engine』について

出典:argus.gg

概要

出典:blog.argus.gg/world-engine/

Argus Labsはゲーム開発と配信を行う会社で、その中心メンバーはハッカーやデザイナーから成り立っています。

彼らの目指すところは、「ビデオゲームの世界に大きな変化をもたらす新しい流れを創出すること」であり、『ゲームのインターネット(Internet of Games)を開拓すること』を使命としています。

また、Argus Labsは他の多くのゲーム開発企業が注力しているインフラ作りではなく、『アプリケーション・コンテンツの構築に重きを置いている』ところもポイントです。

なお、Argus Labsのルーツは、2020年にEthereum上でzkSNARKsを用いて作られた初の完全オンチェーンゲーム「Dark Forest」の誕生まで遡るのですが、こちらに関しては次章で詳しく解説していきます。

出典:Twitter

そんなArgus Labsという会社は、「すべてのアクションがオンチェーンで行われるゲームを作ったらどうなるか?」というシンプルかつクレイジーな質問に答えるための挑戦として、World Engineの開発をスタートさせました。

World Engineは、「ゲームのインターネットのための共有基盤」となることを想定して構築されているオンチェーンゲームSDKであり、EVM互換のL2をシャード化するためのフレームワークです。

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以前より、MUDやDojoなど様々なオンチェーンゲームエンジンについて紹介してきましたが、それらと近しいプロダクトだと言えばイメージしやすいのではないでしょうか。

追記:
World engineはMUDと同じレイヤーではなく、一つ下のレイヤーに位置するものです(参考:twitter.com/komorebi8888_jp/status/1675325512129085441

なお、World Engineの詳細に関しては、近日中に公開予定のドキュメント内に記載されるそうです。

現在は、ゲーム制作者を対象にした招待制度によって、World Engineのオンボーディングを行っている段階となっています。また、正式にローンチされた後では、完全にオープンソースとなる予定だそうです。

2024年3月1日追記:
Argus Labsの「World Engine」がオープンソースになるとアナウンスが出ました。
twitter.com/WorldEngineGG/status/1763257668632998072

執筆時点ではドキュメントは公開されていないものの、近日中にパリでCelestiaと共同で「モジュラーハッカーハウス」が開催されるというアナウンスが出ていますので、興味がある方はこちらもご覧になってみてください。

また、先日大型資金調達を発表したBerachainのEVMフレームワーク「Polaris」を利用することで、ユーザーフレンドリーで高いカスタマイズ性を備えていたり、UnityやUnrealといった既存のゲームエンジンとシームレスに統合できる点などを、強みとして掲げています。

さらに、ティックレート(更新が発生する頻度)が従来の対戦型MMOゲーム程度の速さ(20 ticks/s)であるとしており、この点からも既存のオンチェーンゲームを超えるクオリティのゲームや多様なジャンルが創出されるのではないかと期待されています。

より詳しく知りたい方は、「INTRODUCING WORLD ENGINE BY ARGUS」をご参考ください。

ビジョン/ミッション/マニフェスト

出典:argus.gg/#manifesto

さて、先述までの通り、Argus Labsは「ゲームの未来を拓くこと」を主なビジョンとして掲げています。

Argus Labsは現在のゲーム業界に対して、「今のゲームの世界は、インターネットを活用しながらもサイロ化されたシステムの中に閉じ込められており、大手プラットフォームに縛られ、開発者の思想に大いに影響を受けている。」と言及しており、以下のような構造的な課題に直面していると指摘しています。

  • ゲーム開発者はプラットフォーム大手に縛られ、彼らの言いなりになってしまっている
  • プレイヤーは、より創造的な自由を渇望しているが、ゲームのコアロジックやデータへのアクセスが制約され、その実現が妨げられている
  • ゲーム間の通信がスムーズに行えず、ゲームデザインの革新と広大なゲーム経済の成長が阻害されている

それらを踏まえて、彼らは『オープンで、相互運用性があり、創発的なゲームプレイが生まれるゲームの世界の実現』を目指しているのです。

出典:youtu.be/A0OXif6r-Qk

しかし、その一方でArgus Labsは、『これらの取り組みが未来のゲーム業界にとって必然であるとも考えていない』ことも強調して述べています。

彼らは、現状のゲームの制約に満足せず、新たなゲームの未来を見据え、クリエイターやハッカーたちが再びゲーム業界をリードし、ゲームの意味を再定義する新時代を切り開くことを目指しているのです。

そして、そのためのツールとして「World Engine」を定義し、「Argus Labs」は、分散システムとゲームデザインにおける最先端の応用研究を通じて、ゲームの未来を形作ろうとしているのです。

資金調達について

出典:argus.gg

Argus Labsは、元a16zのGPであるKatie Haunによって設立されたHaun Ventures ($1.5Bのクリプトファンド)を筆頭に、以下の投資家からSeedラウンドで$10Mの出資を受けています。

チームメンバー

出典:argus.gg/#about

執筆時点における、Argus Labsのチームメンバーは以下です。

  • Scott Sunarto
    • Founder & CEO
  • Chris Wilhelm
    • Art Director
  • Olivier Lee
    • Lead Game Designer
  • David Zhou
    • Strategy & OPS Lead
  • Tyler Goodman
    • Software Engineer
  • Jeremy Randolph
    • Senior Software Engineer
  • Mark Davis
    • Senior Game Developer
  • Kris Prawiro
    • Senior Frontend Developer
  • Ananda Syahputra
    • Senior Graphic Designer
  • Marilyn Hommes
    • Talent & PeopleOPS Lead
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この中でも特に注目すべき人物は、Founder & CEOのScott Sunarto氏です。彼はDark Forestの共同創設者であり、いわば『オンチェーンゲームの立役者』とも言える人物です。

そのため、当然ながらScott氏はオンチェーンゲームや分散型クリプトゲームへの知見も深く、またそれが内包している課題への解像度も高いです。この辺りの話は、後ほど深掘りして解説していきます。

なお、彼らはカリフォルニア州サンフランシスコに本社を構えていますが、チームメンバーは世界中に分散しているそうです。

プロダクト誕生背景|Dark Forestで得た教訓

本章では、「How I Learned to Stop Worrying & Love Execution Sharding – Scott Sunarto」という講演動画の内容を元に、Argus Labsの創設者であるScott氏が『Dark Forestで得た教訓』と『World Engineを通して実現したいこと』について、深掘りしていきたいと思います。

出典:youtu.be/A0OXif6r-Qk

まずは、遡ること今から約3年前。彼らは2020年の段階で「すべてのゲームアクションが、オンチェーントランザクションとして残るゲームを作成したらどうなるか」というアイデアを元に、zk-SNARKsを用いたフルオンチェーンの宇宙探索ゲーム『Dark Forest』を共同開発しました。

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Dark Forestのローンチは、『ゲームが、プレイヤー主導のコンテンツ/ツール/プラットフォームと共存できる世界への挑戦』であり、クリプトゲームの未来に一石を投じるものであったと、筆者は認識しています。

ローンチから一定の時間が経過した彼らが学んだ重要な教訓の一つは、「プラットフォーム化」という考え方です。これは、「ユーザーが許可なしにDark Forestエコシステム内に自分たちだけのコンテンツやシステムを構築できる」というメリットをもたらしましたが、同時に多くの課題も抱えていました。

本章では、その課題を以下3つに分類します。

  1. コスト上昇によるブロックチェーンの利用可能性の大幅な低下
  2. データの書き込みだけではなく、読み取りにも高い効率性が必要だと判明
  3. 開発者にやさしい設計ではなかった

まず、この考え方はModや派生プロダクトの創出を促すことになったと同時に、膨大な量のオンチェーントランザクションを生み出すことに繋がりました。そしてその結果として、コストが大幅に上昇し、ブロックチェーンの利用可能性が大幅に低下するという問題を引き起こしてしまい、ブロックチェーンは他の取引にほとんど使えなくなったのです。

実際、2020年当時の段階で、Dark Forestには1万人以上のプレイヤーが集まり、そこで多くのガス代が消費されました。

下画像の黄緑色の部分が、Dark Forestを通して消費されたgasコストです。6月20日あたりから、凄まじい割合を占めていることが見て取れます。

出典:youtu.be/A0OXif6r-Qk

また、彼らはこれらの一連の経験を通して、ゲーム体験をスムーズで反応の良いものにするためにはブロックチェーンへの「書き込み」だけでなく、ブロックチェーンからの「読み取り」にも高いスループットが必要であることを学びます。

そして、2020年当時のロールアップの技術では『大規模なゲームに必要なレベルには達していない』と思い立ち、ゲームのニーズに特化した独自のソリューションの探求を進めてきたのです。

特に、『1秒あたりのブロック処理速度の制約』が大きいと、動画内では指摘されていました。

さらに、Dark Forestのような完全オンチェーンゲームの構築は、現在のブロックチェーンアーキテクチャの本質的な限界により、多くのゲーム開発者にとって困難な作業であることも分かったと言及しています。

出典:youtu.be/A0OXif6r-Qk

以上のようなDark Forest開発時に抱いた課題などを踏まえて、彼らはWorld Engineの開発に着手することになりました。

そして、先ほど述べたような課題の解決を図るべく、World Engineでは「シャーディング(Sharding)」を用いたソリューションを提案しています。

シャーディングとは、90年代から2000年代のオンラインゲームから派生した手法で、作業負荷を複数のサーバーに分散することで処理能力の向上を図る手法のこと。

彼らが開発する「World Engine」は、下図のように『ゲームシャード(Game Shards)』と『EVMベースのシャード(EVM Base Shard)』という2種類のシャードで構成されており、スループットと効率を最適化するためのインフラであると標榜しています。

出典:youtu.be/A0OXif6r-Qk

この設計により、「World Engine」を通してスループットと効率を最適化するためのインフラを実現しようとしています。

また、彼らは単一のL1ソリューションを提供するのではなく、多種多様なロールアップ設計を受け入れることを前提に進めていくと言及されていました。

出典:youtu.be/A0OXif6r-Qk

動画を閲覧してみた筆者の印象としては、既存のオンチェーンゲームは「技術者向け」のプロダクトが多いですが、World Engineでは「ゲーマー向け」のプロダクトを作ろうとしているということ。また、オンチェーンゲームの火付け役であるDark Forestの共同創業者が、「ゲーマー向け」プロダクトの方向性からアプローチしている点も、非常に興味深いと思いました。

以上、本章では講演動画の一部分を抜粋し、筆者の私見を交えて簡略的に解説しました。Argus LabsやWorld Engineについてより深く知りたいという方は、ぜひこちらから元動画をご覧ください。

最後に次章では、コラムセクションとして「日本のアニメ文化が世界に与える影響と分散型クリプトゲームの未来」について、マニアックな内容を「定期購読プラン」登録者向けにまとめています。ご興味あればご覧ください。

【コラム】日本のアニメ文化が世界に与える影響と分散型クリプトゲームの未来

出典:youtu.be/A0OXif6r-Qk

この続き: 3,641文字 / 画像7枚

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まとめ

今回は、「Argus Labs」というオンチェーンゲームスタジオ、ならびにオンチェーンゲームSDK『World Engine』の概要について解説しつつ、その基本概念やビジョン、「World Engine」が生まれた背景から今後に向けた展望などについて解説しました。

本記事が、Argus Labsの概要やWorld Engineの概要や注目ポイント、またそれらが成し遂げようとしている未来像などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。

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