今勢いのあるAW開発集団Small Brain Gamesが手掛ける「Network States」の概要と、人類があらゆる情報を保存し伝承する手段として生まれた『物語』を『オンチェーン活動履歴×AI』で生成することの意義を考察

今回は、Small Brain Gamesというオンチェーンゲーム開発集団が構築中の「Network States」について解説したいと思います。

さて昨今、『オンチェーンゲーム』や『AW (Autonomous Worlds)』といったワードを目にすることが増えてきました。これはポジティブな傾向である一方、オンチェーンゲームやAWと呼ぶには適さない内容も同様の言葉で表現されるようになってきており、ある種マーケティング用語として使用されるようになっている印象もあります。

ちなみにAWに限らず、以前からNFTやDeFi、DAOなどでも同じような現象が見られましたが、このような事象に対して私たち一般ユーザーは、これらのプロダクトが本質に則しているかどうか、中長期で情報を追っておくべきに値するものなのかについて、見極める必要があります。

今回ご紹介する「Small Brain Games」というオンチェーンゲーム開発集団は、短期スパンでオンチェーンゲーム/AWを開発・展開し続けており、またその発想もユニークなものが多いため、筆者個人としては注目しておくべきであると考えています。

Small Brain Gamesについては後ほど詳しく説明しますが、今回のメインテーマである「Network States」は、オンチェーンでネットワーク国家を構築するという大胆な試みをしています。さらに、それぞれのネットワーク国家の伝承をオンチェーンアクティビティを基にAIが生成し、それを使って音声やイラストを作成するという革新的な取り組みも計画しており、「AI × AW」のアプローチとして注目すべき試みと言えるでしょう。

ということで本記事では、Small Brain Gamesの実態や「Network States」の概要、「AI × AW」の観点から注目すべきポイントや、人類にとって『物語』という道具が果たしてきた役割などについて、解説していきたいと思います。

でははじめに、この記事の構成について説明します。

STEP
[前提] Small Brain Gamesについて

まずは、「Small Brain Games」というオンチェーンゲーム開発集団について、簡潔にご紹介します。

STEP
「Network States」とは

続いて、Small Brain Gamesの最新作「Network States」がどのようなオンチェーンゲーム/AWなのか、そしてどの要素が面白く注目に値するのか、またどうやって公開プレイテストを遊ぶことができるのか等について、分かりやすく解説していきます。

STEP
筆者の論考・考察

最後に、オンチェーンアクティビティの重要性をビジュアルではなく物語として啓蒙していく話や、『オンチェーンアクティビティ × AI』で物語を創造することの可能性などについて、筆者の私見を交えて考察します。

本記事が、Network Statesの概要や注目ポイント、「AI × AW」の新しいアプローチとその事例などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。

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目次

[前提] Small Brain Gamesについて

出典:twitter.com/0xsmallbrain

Small Brain Gamesは、オンチェーンゲームやAWの開発を手がける「ビルダー集団」です。2022年10月にGitHubを開設し、それ以降活動を展開しています。

彼らが最初にローンチしたオンチェーンゲーム「Words3」は、以前イーサリアムnaviでも取り上げていますが、現状彼らの最高傑作との評価が高く、完成度も非常に高いです。

Words3のローンチ以降も、海軍をテーマにしたアクション戦略オンチェーンゲーム『Dark Seas』や、バトルロイヤルのチェスゲーム『Ape’s Gambit』など、さまざまなゲームを同時に開発し、それらのゲームも2〜6週間という短期スパンで展開しています。

では、Small Brain Gamesはなぜこのように短期間で次から次へとオンチェーンゲームやAWを開発し続けているのでしょうか。

それは、彼らがオンチェーンゲームやAW開発において、以下の3つのコアバリューを重視しているからです。

  1. 4音節以上の単語を使わないこと
    • Small Brain Gamesが作るゲームは、140文字で説明できるものでなければならない
    • 超シンプルなゲームであることが大事
  2. NFTを使わないこと
    • クリプトのプロダクトマーケットフィットという点で、nftsはまさにその代表格だと思う
    • しかし、Small Brain Gamesが目指すものとは正反対なので、すべてのゲームにNFTを入れないというスタンスをとっている
  3. とにかくゲームを作って最速でローンチすること
    • Small Brain Gamesチームは、文字通りSmall Brain(物事を知るための容積がない)
    • なので、知見を得るための有効な方法は、最速でゲームを作ってローンチしてみること
    • 実際、Words3は2週間で作り、世に送り出した

つまり、Small Brain Gamesは「③ とにかくゲームを作って最速でローンチすること」というコアバリューに忠実に活動しています。チームが発足してから1年近く経ちますが、多数のオンチェーンゲームやAWのMVPを素早くローンチし、その後は反応の良いプロダクトに焦点を当ててブラッシュアップを行っているようです。

そして、そんな彼らが最近公開プレイテストを行なっているオンチェーンゲームが、「Network States」というタイトルのオンチェーンPVP戦略ゲームです。興味深いことに、このゲームではGPT-4が用いられ、新しい伝承が生み出されると言われています。

ということで次章では、Small Brain Gamesの最新作「Network States」がどのようなオンチェーンゲーム/AWなのか、そしてどの要素が面白く注目に値するのか、またどうやって公開プレイテストを遊ぶことができるのか等について、分かりやすく解説していきます。

また、今回は紹介しませんが、執筆時点でSmall Brain Gamesが開発中の「Gaul」と「This Cursed Machine(※Moving Castlesとの共同開発)」という2つのオンチェーンゲームも、非常に面白そうです。もし要望があれば、別の機会に詳しく取り上げたいと考えています。

「Network States」とは

出典:twitter.com/0xsmallbrain/status/1660459526087229440

概要

Network Statesは、Small Brains Gamesが開発する『MUD v2エンジンを使用したオンチェーン戦略ゲーム』です。

簡潔に言い表すと、オンチェーンで「ネットワーク国家(Network States)」を構築していくという試みを行っています。

その名の通り、Network Statesは「歴史地理に焦点を当てた世界構築ゲーム」の要素を取り入れており、既存のAWの中でも別角度の、新しいジャンルを創造していることが特徴的です。

もちろん、Network StatesはAWとして構築されているため、ゲームのコアメカニクスは全てオンチェーンで実装されています。

また、現在はSmall Brains Gamesが中心となって開発を進めていますが、将来的にはコミュニティ主導での開発・拡張を実現していくそうです。

出典:network-states-smallbraingames.vercel.app

Network Statesが『どのようなオンチェーンゲームプロダクトなのか』については後ほど詳しく見ていきますが、このゲームが将来実装する機能として一番興味深いのが、「大規模言語モデル(LLM)を使用して、プレイヤーの動きや行動をストーリーに変換する」点です。

具体的には、Network Statesはオンチェーンでネットワーク国家を創造するだけでなく、AIの力を使って国家形成の過程(オンチェーンアクティビティ)を「物語」として表現し、それによって国家の歴史や伝承を構築する試みをしています。

LLMが各ネットワーク国家の歴史や伝承の自動生成に使用されるため、「AI × AW」の観点からも非常に注目すべきケースであると同時に、この機能が本プロジェクトの中核を成す要素となる可能性が高いと考えています。(詳細は後述します)

執筆時点での状況

出典:discord.com/channels/1046768579556679710/1150498074733588540/1154115055214936164

記事の執筆時点で、Network Statesのテストネット版はすでにローンチされており、メインネット版のローンチは今後予定されている段階です。

2023年5月にNetwork Statesの存在が初めて公にされ、最初のテストネット版の公開プレイテストは2023年9月11日に開催されました。現在(2023年10月20日)も新しい公開プレイテストが行われている期間なので、誰でもNetwork Statesのテストネット版を試すことができます。

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ということで次節では、筆者が実際にNetwork Statesのテストネット版をプレイしてみることで、読者の皆様に本ゲームの詳細についてより深く理解していただくことを目指します。

テストネット版の遊び方・一連の流れ

チュートリアルに興味がない方は、次節の『メインネット版で実装予定の「AIを絡めたユニークな特徴」』までスキップして読み進めていただいて構いません。

まずは、テストネット版Network Stateのページにアクセスすると、上写真のような画面が表示されます。

執筆時点では、本ゲームの具体的な説明やプレイガイドは存在しないのですが、最初のページには以下のようなことが記載されています。

Network Stateエクスプローラへようこそ。このデバイスは、Network Stateへのゲートウェイです。これらの新しい都市国家は、単なる社会経済的な実験ではなく、人間の可能性のビジョンであり、革新と進歩の本質を体現しています。人類の進化の次の章へようこそ。Network Stateは、ネットワーク国家が権力と影響力をかけて戦うオンチェーン・マルチプレーヤー戦略ゲームです。その風景や文化、派閥や紛争は、プレイヤーの行動に応じて盛衰し、有機的に進化する物語を生み出します。

では、画面右下にある「Enter」ボタンをクリックして、ゲームを開始します。

補足:
この部分がクルクル(Loading状態)になってEnterボタンが表示されない時は、プレイテスト期間外であることを意味しているそうです。(参考:discord

「Enter」ボタンをクリックすると、上写真のようなインターフェイスが表示され、Simulaという名前のネットワーク国家が作成されました。これが今回、筆者の管轄するネットワーク国家に関する情報となります。

なお、これら関連情報の中でゲームに直接関係するのは、下側の「人口 (Population)」「面積 (Area)」の2つです。

画面中央にある770という数字は、私の国家(Simula)の人口を意味しており、ブロックチェーンのブロックタイム周期に基づいて定期的に増加します。また、面積はその名の通り四角ブロックがマップ上に何個あるかによって増加します。

それでは、実際のプレイ画面を見るために、「Begin your story」をクリックしてみます。

すると、自身のネットワーク国家を中心に、他のプレイヤーのネットワーク国家が多数出現しました。

この色分けされた陣地を取り合っていき、自身のネットワーク国家の人口(真ん中の数値)と面積(色分けされた区画の範囲)を増やしていくことが、本ゲームの趣旨になります。

なお、各プレイヤーの数値が書かれた区画が、その国家の首都を表しています。

ではまず、自身の首都エリア(数字が丸で囲まれた区画)をクリックしてみます。

すると、上下左右それぞれに、点線の四角が表示されましたが、これは移動可能な方向を表しています。指定するエリアをクリックする(またはカーソルキーを押す)ことで、そのエリアに移動できます。

現時点では、移動は2秒ごとに実行される仕様です。

移動すると、自身の首都にいる人口が1減少します。今回、ブロックタイム周期により元の数値が777になっていましたが、2マス移動したことで上写真のように『1, 1, 775 (=777-1-1)』となっています。

つまり、首都にいる人口の数が、そのまま残り移動可能な最大ステップ数を意味しています。

ちなみに、人口を半分ずつ移動させることも可能です。やり方は、エリアを2回クリックすると50%と表示されるので、その状態で別エリアをクリックするだけです。

また、他のプレイヤーのエリア内を移動し、相手エリアを侵食していくことも可能です。

例えば以下写真のように、自身のエリアが紺色、これから侵攻するのがオレンジ色2のエリアの場合を想定してみます。

この時、相手の人口分2のダメージを受けると同時に、移動時のコスト1が必要になるため、残り人口は62となってエリアを奪うことができます。

ただし、相手のエリアの数字が自分のエリアの数字を上回っている場合に侵攻を試みると、占領は失敗して自分のエリアは消滅し、相手のエリアの数字もそれに応じて減少することになります。

今回、相手の首都には合計で10,000もの人口が存在するため、完全侵略することは不可能でした。

なお、もし完全侵略に成功して相手プレイヤーをゲームから排除した場合、相手プレイヤーの国家も含めてすべて自分のものに変わると同時に、定期的に人口が増える2つの国家を持つことになります。

先ほどの写真で侵攻を試みた紫色のエリアは、定期的に人口が増えるエリアが2つあるため、以前に他の国家を完全侵略したものと思われます。

ちなみに余談ですが、第2回目のプレイテストでは参加人数が少なく期間も短かったため、とあるプレイヤーが他のすべてのプレーヤーの国家を乗っ取った瞬間があったそうです。

出典:discord.com/channels/1046768579556679710/1113627905633828986/1157815153501413407

このように、相手プレイヤーを飲み込みながら、どんどん自身の国家を強化・拡大していくことが、このゲームの攻略法となっています。

なお、マップ上にはいくつかの障害物・サポートアイテムも備わっているため、このような地形要素をうまく活かしながらエリアを拡大していく戦略性が求められます。

ということで最後に、現時点でマップに散りばめられている各要素についても見ておきましょう。

執筆時点のテストネット版では、主に以下3種類の要素が存在します。

  • Hill(丘)
    • プレイヤーが移動することができない障害物エリア
  • Water(水)
    • プレイヤーが水上に移動してしまうと、そのエリアの人口が0になる
  • +1~
    • そのエリアに移動すると、その数字分の人口が増える

テストネット版では最小限の要素しか存在しませんが、メインネット版ではさらに種類が増えたり、ビジュアルが整備されるのではないかと予想されます。

その他、執筆時点における情報・注意点はこちら

  • ブラウザのキャッシュクリアしてはいけない
    • 現時点ではバーナーウォレットを使用しているので、キャッシュクリアしてしまうと遊戯履歴が消えてしまう
  • アクションごとに多少の待ち時間がある
    • 現時点では、オンチェーンに記録するために、少しの待ち時間(2秒)が設けられています
    • qを押すと、待機中の移動処理がクリアされます。
  • たまに反応しないことがある
    • 現時点ではテストネット版のため、クリックしても反応しない不具合などが稀に起こります

メインネット版で実装予定の「AIを絡めたユニークな特徴」

さて、Network Statesのメインネット版では、GPT-4を利用して、プレイヤーの行動に基づき「各ネットワーク国家のゲーム内伝承」が生成される予定です。

※ 前節で触れたテストネット版では、この機能はまだ実装されておらず、テキストはハードコードされています。

例えば、プレイヤーが他のネットワーク国家を制圧した場合、AIはその行動(オンチェーンアクティビティ)を基に戦闘の過程や結果をテキスト化してくれます。

通常、ゲーム内のストーリーや伝承は開発チームが事前に設計するものですが、Network Statesではプレイヤーのアクションに基づいて伝承が動的かつボトムアップに生成される点が魅力です。これは、「オンチェーンアクティビティ × AI」という新しいアプローチと言えるでしょう。

さらに、Network Statesは将来的に「テキスト→音声」や「テキスト→画像」といったAIの活用も検討している可能性があります。

このように、Network Statesは『ブロックチェーンならではの特性を活かしたゲームや世界の構築』に焦点を当てており、その発展が非常に楽しみです。

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また個人的な意見としては、この取り組みを通じて、オンチェーンアクティビティの重要性がより広く認識されることを期待しています。

最後に次章では、人類にとって「物語」というものが伝承手段として歴史上とても重要な役割を果たしてきたという事実を中心に、マニアックな考察を「定期購読プラン」登録者向けにまとめています。オンチェーンアクティビティの重要性をビジュアルではなく物語として啓蒙していく話や、『オンチェーンアクティビティ × AI』で物語を創造することの可能性など、ご興味あればご覧ください。

筆者の論考・考察


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まとめ

今回は、Small Brain Gamesの実態や「Network States」の概要、「AI × AW」の観点から注目すべきポイントや、人類にとって『物語』という道具が果たしてきた役割などについて解説しました。

本記事が、Network Statesの概要や注目ポイント、「AI × AW」の新しいアプローチとその事例などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。

また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。

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