a16z cryptoが2回も出資済み|web3ネイティブなIP構築フレームワーク「Story Protocol」の概要や可能性、問題点まで解説

どうも、イーサリアムnavi運営のでりおてんちょーです。

イーサリアムnaviでは、毎日大量に流れてくるクリプトニュースを調査し、その中でも面白いトピックやクリプトネイティブな題材を選び出し、それを分かりやすく読みやすい形でお伝えしています。パラパラと内容を眺めているだけでも、事業やリサーチの新たなヒントに繋がることがあります。世界の最先端では、どのようなクリプトコアな試みが行われているのかを認識するだけでも、 思わず狭くなりがちな視野を広げてくれるでしょう。

今回は、デジタル時代の創造性とIP(知的財産権)の新しい地平を切り開く取り組みとして、「Story Protocol」というプロジェクトについて解説していきます。

NFTカルチャーが台頭してから2年近く経過し、多くの革新的な実験が行われてきましたが、その中でNounsDAOやその他のCC0 NFTコレクションなどが、「IPをパーミッションレスに育てていく」という概念を提唱してきました。

出典:前編|今さら聞けないCC0 NFTについて徹底解説します!【「CC0」とは?】【NFTをCC0ライセンスにするのは何故?】

ただ、そのような実験が多数行われてきたにもかかわらず、「オリジナル作品」と「そこから新たに派生した作品」を結びつけるためのフレームワークに関しては、なかなか出てこなかったように思います。

例えば、HIPHOPにおける「サンプリング」や「リミックス」文化などがありますが、これらはシステム的に「オリジナル作品」と「派生作品」が結びついている訳ではありません。

NFTにおいても、CC0 NFTを使った新しい作品の創出は行われているものの、得た収益がオリジナル作品に自動的に還元されたり、派生元作品のクレジットが自動で付与されるような仕組みは、存在していませんでした。

一部のCC0 NFTコレクションでは、派生作品がオリジナル作品に対して売上の一部を還元する動きが見られましたが、これは強制的なものではありませんでした。ゆえに、システムやフレームワークとして確立された訳ではなく、あくまでもムーブメントの一種であったと筆者は捉えています。

出典:前編|今さら聞けないCC0 NFTについて徹底解説します!【「CC0」とは?】【NFTをCC0ライセンスにするのは何故?】

このような状況の中で、IPのライフサイクルを追跡するための出所のソースや、ライセンシング、リミックスなどを容易にするモジュールを提供することで、『web3時代のIPインフラ』になることを目指すプロジェクトとして、「Story Protocol」が誕生しました。

詳細は後述しますが、このプロジェクトは執筆時点までに合計$54.3Mの資金を調達し、さらに、a16z cryptoから2度の投資を受けていることもあり、大きな注目を集めています。

ということで本記事では、そんな注目のプロジェクト「Story Protocol」がもたらすクリエイティブな世界の革新と、それがIPの管理と発展においてどのような影響を与えるのかについて探求していきます。

でははじめに、この記事の構成について説明します。

STEP
「Story Protocol」について

まずは、Story Protocolというプロジェクトの概要やステータス、直近の活動、チームメンバー、資金調達などについて概観していきます。

STEP
a16z cryptoがリード投資家として2度の資金提供を行っている理由

続いて、なぜa16z cryptoがリード投資家としてStory Protocolに対して2度の資金提供を行っているのかについて、「Investing in Story Protocol」という記事の内容や、筆者の私見を交えて紐解いていきます。

STEP
筆者の論考・考察

最後に、「分散と散乱の違いを踏まえたIP構築」や、メディア特性の違いから、ゲームをつくるのか、アニメや映画をつくるのかについても、参加者全員で共通認識を持っておかなければならない話などを中心に、マニアックな考察を展開します。

本記事が、Story Protocolの概要やポイント、分散的にIPを管理・発展していくことの意義や課題などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。

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目次

「Story Protocol」について

出典:storyprotocol.xyz

概要

Story Protocolは、インターネットの基本原則である開放性・協力性に基づくIPフレームワークを構築し、インターネットネイティブなIPインフラになることを目指すweb3プロジェクトです。

このプロトコルは、IPのライフサイクルを追跡するための中立的な出所ソースや、ライセンシング、リミックスなどを容易にするモジュールを提供するものです。

ビジョンとしては『GitのようなIPインフラを作る』ことを標榜しているものの、開発者の方以外はピンと来づらい比喩表現に思えるので、もう少し噛み解して解説していきます。

Story Protocolがどんなことをやろうとしているのかと言うと、「ファンや他のクリエイターが作った新しい作品が、その元となったオリジナルの作品に影響を与えたり、関連付けられたりするための仕組み」を作ろうとしています。

例えば、先日、一青窈さんの名曲「ハナミズキ」からボトムアップに二次創作を生み出すためのプロジェクト『Rework with ハナミズキ』について紹介しましたが、良い楽曲というのは何度もカバーされたり、改変されたりすることにより、世代を超えて強固なIPとして育っていきます。

ここ数年、昭和・平成のヒットソングが、TikTokをきっかけにリバイバルヒットするという事例も多数見受けられるようになりました。インターネット上にコンテンツを誰でも容易にアップできる時代になったことで、不特定多数の人がオリジナル作品をリミックスするための土壌が整いつつあると同時に、最近はAIの進歩も著しいこともあり、この流れは加速しています。

しかし、IPに関する現行の制度や法律は、このリミックスカルチャーや共同創造の流れに適しておらず、時代遅れになっているのではないか、そして一連の創造的なプロセスに対して摩擦を与えてしまっているのではないかというのが、Story Protocolサイドの主張です。

彼らはこの課題を解決するために、ブロックチェーン技術を活用して、オリジナル作品の出所を追跡し、リミックスや派生作品のクリエイターに対して適切な認知・報酬を提供するシステムを構築することで、クリエイティブなコンテンツの共有・進化を促進しようとしています。

Story Protocolでは、オープンなIPレポジトリ(データ構造)と、そのIPと摩擦のない方法で相互作用するためのモジュール群の両方を提供することで、IPをインターネット時代に昇華させると述べられています。

そして、データ構造とモジュールという2つの要素を用いて、以下のことを実現しようとしています。

  • Story Protocolは、クリエイティブなアイデアが価値あるIPに成長し、インターネットの力を最大限に活用するための新しいフレームワークを提供する
    • IPの初期段階が蓄積され拡張されると、その貢献価値も増加する
    • クリエイターは、IPの権利や収益の一部を共有することで、参加者に対して真の投資を提供できる
    • IPが成長するにつれ、コントリビューター(アマチュアとプロの混合)が共通のミッションで参加し、ネットワーク効果を生む動機が増す
  • Story Protocolは、既存のプラットフォームを補完し、クリエイターに新しい選択肢を提供することを目指している
    • 新しいIPアプリケーションの開発を支援し、IPの発展に寄与する方法で活用される
    • インターネットネイティブのIPインフラストラクチャの構築と、新しいタイプの創造的な作品とビジネスモデルの成長を可能にする重要なステップである
出典:explorer.storyprotocol.xyz

ただし執筆時点では、Story Protocolはアルファ版のフェーズにあり、本番環境ではまだローンチされていません。

そのため、後述するように現在は「小規模で招待性のハッカソン」が行われているのみであり、専用Explorerで確認しても、Story Protocol上にあるコンテンツは限られた数しか存在しない状況です。

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彼らの方針として、いきなり大多数に対してプロダクトを公開ローンチするのではなく、コアとなるインフラの改善や、ライセンシングの刷新、AIなどの外部サービスフックの強化などを、地道に少しずつ進めていこうとしているのかもしれません。

「IPアセットNFT」の概念

Storyプロトコルでは、IPは『IPアセット』と呼ばれ、IPと関連するIPAアカウントを表すオンチェーンNFTを表します。

静的なNFTとは異なり、IPアセットは本質的にプログラム可能であり、Story Protocolの基本単位として機能することから、『プログラマブルIP』という名前でのブランディングが展開されています。

そして、なぜIP追跡が可能になるかというと、ERC-6551の技術を用いることで、IPアセットNFTに対してIPの種類や作成者情報、ライセンスNFTなどのメタデータを持たせているからです。

つまり、今までオフチェーンで切り離されて管理されていたライセンス情報や著作権に関するデータなどを全てオンチェーンのNFTとして実装し、なおかつそれをIPアセットNFTに保有させることによって、『IPアセットNFTを転送すれば周辺の権利情報なども一式移転する』という仕組みを実現しようとしているのです。

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これは大変興味深い取り組みなので、実際に使えるようになるのが楽しみです。

チームメンバー

出典:twitter.com/StoryProtocol/status/1699411652037554593

Story Protocolは2022年に設立され、その際の共同創設者は以下の3名となっています。

  1. S.Y. LeeCo-founder
    • ストーリーテリングアプリRadishを創設し、2021年に韓国のソーシャルメディア大手Kakaoに対して4億4000万ドルで売却
  2. Jason LevyCo-founder
    • AmazonとAppleで要職を歴任
    • ストーリーテリングのエコシステム「Episode」でコンテンツをリード
  3. Jason ZhaoCo-founder
    • GoogleのAI子会社DeepMindでプロダクトマネージャーを歴任

またその他にも、多くのコアコントリビューターやアドバイザーが在籍しているそうです。詳しくはこちらのツイートwebサイトのOur partners欄をご参照ください。

直近の活動:ハッカソンの開催

出典:twitter.com/StoryProtocol/status/1734259414591512932

2023年12月8日からの2日間に渡って、サンフランシスコで「Story Protocol: Alpha Hackathon」が対面開催されていました。

こちらは先述の通り、小規模で招待制のハッカソンとなっており、上写真を見る限りでは30名程度が参加していたと思われます。

このハッカソンでは、Story Protocolを用いて生成AI、ZK証明、IPグラフ、ソーシャルリミキシング、ライセンシングプールなどのプロダクトが構築されました。優勝したのは、zkMLベースNFTマーケットプレイス『AIGC NFT Marketplace』でした。

出典:Story Protocol Alpha Hackathon 2023 — AIGC NFT Marketplace

AIGC NFT Marketplaceは、EIP-7007を活用することで、アーティストが独自に微調整したモデルを作成し、収益化の機会を提供する生成AIマーケットプレイスとなっています。

また、各出力アセットは、自動的にStory Protocol上のIPアセットとして登録され、モデルの使用・潜在的な収益分配のための明確な帰属などを提供してくれます。

本記事ではこれ以上詳しく述べませんが、AIGC NFT Marketplaceの概要や、「Story Protocol: Alpha Hackathon」で作成されたそのほかのプロダクトに興味がある方は、以下の参考資料をご活用ください。

本節の参考資料:
Programmable IP: Ushering in the Onchain Renaissance
twitter.com/StoryProtocol/status/1734259414591512932
ー ハッカソンの概要ページ(notion):Story Protocol: Alpha Hackathon
ー 優勝したプロダクトチームの記事:Story Protocol Alpha Hackathon 2023 — AIGC NFT Marketplace

資金調達

出典:twitter.com/StoryProtocol/status/1699411657280430565

さて、Story Protocolは執筆時点において、2023年5月にシードラウンドで$29.3Mを調達し、その4ヶ月後となる同年9月には、シリーズAラウンドで$25Mを調達し、合計で$54.3Mの資金調達を実施しています。

また、両ラウンドにおいてa16z cryptoがリード投資家になっており、また、#HashedSamsung Nextdao5などが両ラウンドに対して出資を行なっている状況です。

これを踏まえて次章では、なぜa16z cryptoがリード投資家としてStory Protocolに対して2度の資金提供を行っているのかについて、「Investing in Story Protocol」という記事の内容や、筆者の私見を交えて紐解いていきたいと思います。


本章の参考資料:
Introducing Story Protocol
IP as a Platform with Network Effects
Can Blockchain Turbocharge Fan Fiction And Protect Authors From AI’s Threat?
twitter.com/StoryProtocol/status/1699411637244158037

a16z cryptoがリード投資家として2度の資金提供を行っている理由

出典:a16zcrypto.com/posts/announcement/investing-in-story-protocol

まず、a16z cryptoはStory Protocolに出資した際に出した記事「Investing in Story Protocol」の中で、自分たちが映画やテレビ、コミックに夢中になりながら育ってきたことについて述べています。

この記事を執筆したGeneral PartnerのSriram Krishnanさんは、『人生の大切なことは全てスーパーマンやハリー・ポッター、ロード・オブ・ザ・リングなどから教わってきた』とし、それが子供時代から今に至るまで、アイデンティティの主要な部分を形成してきたそうです。

そして、2000年代に入り、インターネットのファンサイトを通じて世界中のファンとコミュニケーションを取り、その中でファンフィクション・二次創作アート・物語を派生させた小説を書いている人たちと出会い、その創造性に当時から驚かされたみたいです。

しかし、「これらの創作物がオリジナル作品と結びつくための枠組み」がこれまで存在しなかったことに対して、彼らは課題に感じていたそうです。

特に、オリジナルアーティストに対しては、金銭的・社会的なものを含め、適切な還元や補償を受けられないことが課題であるとし、二次創作者に対しては、せっかくオリジナルIPを広めることに貢献しても、創造的なアイデアが映画やテレビなどの長編メディアに反映されないこと等が課題であるとしています。

そして、彼らはこういった課題を解決するためのIPインフラ層として、今回ご紹介している「Story Protocol」に注目したと位置付けています。記事の文脈から察するに、ブロックチェーン技術を駆使してオリジナルクリエイターを追跡したり、適切な報酬を提供することを目的としている姿勢に共感したものと思われます。

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また、これは筆者の推測に過ぎませんが、S.Y. Leeが既に起業家として実績があること、共同創設者の中にストーリーテリングに携わっていた人が2人いること、そして大手企業での就業経験があること等が高く評価されていることも、大きく関係していると思います。

出典:twitter.com/StoryProtocol/status/1699411652037554593
  1. S.Y. LeeCo-founder
    • ストーリーテリングアプリRadishを創設し、2021年に韓国のソーシャルメディア大手Kakaoに対して4億4000万ドルで売却
  2. Jason LevyCo-founder
    • AmazonとAppleで要職を歴任
    • ストーリーテリングのエコシステム「Episode」でコンテンツをリード
  3. Jason ZhaoCo-founder
    • GoogleのAI子会社DeepMindでプロダクトマネージャーを歴任

ということでa16z cryptoは、Story Protocolのビジョンそのものに共感したことに加え、共同創業者3名のメディア・エンターテイメント業界への知見の高さ、大手企業での就業経験などを踏まえ、今後の発展可能性を高く評価し、リード投資家として合計で2度の資金提供を行ったのではないかと考えられます。

執筆時点で、Story Protocolはアルファ版のフェーズにあり、まだ本番環境でのローンチには至っていません。そのため、現在は「小規模で招待制のハッカソン」が主に行われており、専用のExplorerを使用しても、Story Protocol上に存在するコンテンツは限られた数にとどまっています。

ただ、小規模なハッカソンの開催などを通して、プロダクトの品質と機能性を確保し、完全な状態でのローンチに向けた準備を入念に行っており、なおかつ資金も十分に蓄えられているはずなので、今後の展開には期待が持てそうです。

最後に次章では、「分散と散乱の違いを踏まえたIP構築」や、メディア特性の違いから、ゲームをつくるのか、アニメや映画をつくるのかについても、参加者全員で共通認識を持っておかなければならない話などを中心に、マニアックな考察を「定期購読プラン」登録者向けにまとめています。ご興味あればご覧ください。


本章の参考資料:
Story Protocol, Startup Developing Open IP-Collaboration Platform, Raises $54 Million+ From Investors Including a16z and Endeavor
Investing in Story Protocol
A16z Crypto Leads Story Protocol’s $29.3M Seed Round to Build Storied Universes
Story Protocol has completed a $25 million Series A funding round led by a16z.

筆者の論考・考察

これまで述べてきたように、Story Protocolはデジタル時代におけるIP(知的財産)の管理と発展に革新をもたらす試みとして注目されています。

IPの透明性と追跡可能性を通じて、クリエイターに適切な報酬と認知を保証し、創造性を刺激することで、IPの新たな展開を促進する可能性があるため、筆者個人としてもこのプロジェクトに対する期待を抱いています。

「ファン参加型のIP開発」や「IPの持続的な成長」の促進によって、ファンが提案するアイデアや物語が公式の物語に組み込まれることにより、IPに対する愛着とロイヤリティが深まる未来も想像されます。

しかし、Story Protocolのアプローチには、IPの「分散」と「散乱」という二つの重要な概念を考慮する必要があると思っています。

また、メディア特性の違いから、ゲームをつくるのか、アニメや映画をつくるのかについても、参加者全員で共通認識を持っておかなければならず、この辺りはNounsDAOで欠けていた要素だと思いますので、併せて後半パートで考察していきます。

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ということで、まずは「分散と散乱の違いを踏まえたIP構築」について、さらに考察を進めていきたいと思います。

「分散」と「散乱」の違いを整理して考える


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まとめ

今回は、Story Protocolがもたらすクリエイティブな世界の革新と、それがIPの管理と発展においてどのような影響を与えるのかについて探求しました。

本記事が、Story Protocolの概要やポイント、分散的にIPを管理・発展していくことの意義や課題などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。

また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。

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