2024年予測市場の新潮流|web3予測市場プラットフォームの古参「Polymarket」の成長と、Farcasterエコシステムの注目株「Perl」「Swaye」について

今回は、「予測市場」というテーマに焦点を当て、その分野で最も知名度が高い「Polymarket」に加えて、最近Farcasterエコシステム内で注目を集めている「Perl」と「Swaye」についても詳しく解説していきたいと思います。

さて、2024年に入ってから、web3予測市場プラットフォーム「Polymarket」の月刊取引高やアクティブユーザー数が急増していたことを、皆さんはご存知でしょうか?

この現象の背景には、11月のアメリカ大統領選挙や4月のBitcoinの半減期など、世界中から多くのクリプトユーザーの注目を集める大きなイベントが控えていることが大きく影響しているでしょう。

また、クリプト業界だけを見渡しても、新興チェーンのローンチやエアドロップの実施、NFTフロアプライスの攻防など、ユーザー数/プロダクト数が増えることで活発化し、多くのアテンションを集めるイベントが数多ある年になりそうです。

そしてその結果、予測市場に人々が流れ込んだり、多くのインフルエンサーや専門家が発信する予測に関連する情報を目にする機会が増えるなど、いわゆる『予測したがる人』が増加傾向にあると考えられます。

では、そもそも私たち人類は、『なぜ予測したがるのか』、そして『その営みはいつから行われてきたのか』のでしょうか。

本記事では、その歴史的な背景や人類の予測する性質についても振り返りながら、今日のweb3予測市場を概観しつつ、SNS(Farcaster)に予測市場を直接埋め込むスタイルの新進気鋭なプロダクトについても概観していきたいと思います。

FarcasterやFrameアプリについてご存知ない方は、以下の記事を併せてご参考ください。

でははじめに、この記事の構成について説明します。

STEP
人類は太古の昔から予測する生き物だった

まずは、なぜ私たちは予測するのか、そして、歴史上の予測イベントには何があったのか等を振り返り、古代から続く「未来を予測する」という行為は人類が生き延びるための本能的行為であることについて述べます。

STEP
Polymarketを題材に、web3領域における「予測市場」を紐解く

続いて、web3領域で広く利用されている予測市場プラットフォーム「Polymarket」を例に挙げ、web3の文脈における「予測市場」の概要や現状について探究していきます。

STEP
Farcasterエコシステムで勃興する予測市場プラットフォーム

最後に、Farcasterエコシステム内で注目を集めている二つの予測市場アプリケーション「Perl」と「Swaye」に焦点を当てながら、これらのアプリケーションに関する考察と展望、今後直面する可能性のある課題や問題点などを中心に、筆者の私見を交えて考察します。

本記事が、web3領域における「予測市場」の概況や、Farcaster上の新たな予測市場アプリケーション「Perl」「Swaye」などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。

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目次

人類は太古の昔から予測する生き物だった

なぜ私たちは予測するのか

私たちは、未来を予測することに大きな価値を見出しており、例えば、日常のささいな選択からビジネスや政治の高度な戦略策定に至るまで、日々様々な場面で実践されています。

では、そもそも私たちは何故『予測すること』を、これほどまでに重視しているのでしょうか?

この疑問に答えるためには、「リスクの低減」と「ベネフィットの最大化」という、未来予測の根底にある2つの大きな動機について理解する必要があります。

「リスク」とはそもそも何でしょうか?日常よく使う単語でありながら、我々はその意味を理解しているようで、理解していないように思います。そもそもこの単語を「リスク」という外来語のまま使っていること自体、日本人がこの概念を消化し切れていないことの表れかもしれません。(中略)辞書を見れば、リスクとは、「ある行動に伴って(あるいは行動しないことによって)、危険に遭う可能性や損をする可能性を意味する」などという定義が載っています。可能性、という言葉が入っているところがこの定義のミソです。たとえば、包丁は危険なものですが、包丁自体を「リスク」とはいいません(英語では、危険の原因を意味する「ハザード」が使われます)。料理で実際に使った時に初めて、指を切るなどの可能性、すなわちリスクが生じます。リスクの高低は、「(起きた時の影響の大きさ)×(起きる確率の高さ)」で表すことができます。

出典元:佐藤 健太郎 『「ゼロリスク社会」の罠~「怖い」が判断を狂わせる~』(光文社新書、2012年)

まずは、一つ目の「リスクの低減」に関して。皆さんもご存知の通り、私たちの身の周りには、日々の生活のことから、自然災害や政治的・経済的変動、技術の進化など、「予測不可能で不利益をもたらし得る様々なリスク」に満ちています。こうしたリスクを事前に察知し、その影響を最小限に抑えるために、未来予測は非常に有効な手段です。

そもそも私たちの祖先は、天候の変化や食糧資源の獲得可能性を予測することで生き延び、子孫を残すことに成功してきました。このように、『予測』は人間の本能的な行為であり、予測能力は生存に直結する重要なスキルとして位置付けられています。

一方、未来予測のもう一つの目的は、新たなチャンスを見出し、それを活用すること、つまり「ベネフィットの最大化」にあります。例えば、未来のトレンドを予測し先取りして採用することで新しい商品やサービスを開発したり、社会的な変化に適応する政策を立案することが挙げられますが、これらはビジネスの成功やより良い社会の構築に直接つながります。

つまり、予測にはリスクを避けるだけでなく、積極的に機会を捉えるための側面もあると言えます。

最後に、本節の内容を総括すると、『予測』とは私たちが未来の不確実性やリスクに対応し、より良い決断をし、新しい機会を見つけるための基礎となる行為であり、長い歴史を通じて受け継がれてきました。そして、単なる好奇心を超えて、未来に備えるための実用的な手段として、『予測』は大きな価値を持っています。

歴史上の予測イベントには何があったのか

歴史を辿れば、人類の軌跡は「未来を予測する」活動によって常に彩られていることが分かります。時代ごとにその手法や価値観は変化してきましたが、未来を予測しようとする行為自体は古代からずっと続いており、これは今日における日常生活からビジネスや政治の戦略的な意思決定に至るまで、私たちの生き方や繁栄の根底に深く根ざしていると言えます。

古代の時代を振り返れば、「宗教」や「神話」に根差した未来予測が、人々の生活を支配していたことが明らかになります。神々の意志として語られた未来は、『運命』や『警告』といった形をとり、その時代の人々は「予定された未来」に備えることに重きを置いていたのです。

また、古代中国では亀の甲羅を焼き、生じたヒビの形状を見て未来の方針を占う「亀卜」という儀式を通じて、未来の方針を占っていましたが、このような未来予測イベントを通して、人類は集団で合意形成を行なってきました。

出典:亀卜|Wikipedia

時が流れ、ルネサンス期になると、未来予測の手法に革命が起きます。例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチのような人物は、「科学技術を駆使した具体的な未来予測」を行い、当時の時代を遙かに先取りした製品の先行アイデアを発想・実現したのです。

また、18世紀の産業革命期には、ロバート・マルサスの『人口論』などが出版され、人口成長と食糧生産の限界に関する予測を通して、未来への警鐘を鳴らしました。

このように、大きな流れとして「未来予測」というものは、『文化的・信仰的な要素に深く根ざしたもの』から『客観的な証拠と論理的な分析に基づいたもの』へと変化を遂げ、現代では天気予報やスポーツベッティング(野球やサッカーなどの試合を対象とした賭博行為)、AIによる集合知を用いた未来予測、そして今回ご紹介するweb3分野における匿名性・分散性を備えて予測市場など、広義の予測市場の種類が非常に多岐に渡るようになったのです。

つまり、古代から続く「未来を予測する」という行為は、形は変われど本質的には不変であり、人間の本能と深く結びついていると言えます。テクノロジーの進歩に伴い予測の手法は進化してきましたが、その根底にあるのは生き延びるための本能であり、その能力によって生存・発展を遂げてきたのです。

以上を踏まえて次章では、web3領域で広く利用されている予測市場プラットフォーム「Polymarket」を例に挙げ、web3の文脈における「予測市場」の概要や現状について探究していきます。


本章の参考資料:
https://onchainletters.xyz/pm
https://archetype.mirror.xyz/LNgRLem1I27s3Aj0kOChnwG-4bFBdywkJNFtJ7zcX8w
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%80%E5%8D%9C
https://www.dentsu-fsl.jp/articles/951/
https://www.dentsu-fsl.jp/articles/959/

Polymarketを題材に、web3領域における「予測市場」を紐解く

出典:twitter.com/0xFunk/status/1765073754093445525

さて上画像は、執筆時点でのweb3領域における予測市場プラットフォームの全体像を概観できるイラストです。

2015年にICOで資金を調達した最初のプロジェクトのひとつとして有名なEthereumチェーン初の予測市場プラットフォーム「Augur」や、次章で取り上げるFarcaster上の予測市場プラットフォーム「Perl」「Swaye」などがあります。

ということで、まず本章では、web3領域における予測市場プラットフォームとして最も名が知られているであろう「Polymarket」について見ていきます。

Polymarketについて簡潔に紹介

出典:polymarket.com

Polymarketは、2020年に設立されたPolygonネットワークを基盤とする予測市場プラットフォームで、人々が実世界の将来の出来事に対してUSDCベースで賭け、予測することができます。

2020年のバイデン VS トランプの選挙戦で大きな動きを見せて話題になり、その後ベアマーケットで一時的に利用率としては落ち着いたものの、本記事の冒頭でもお伝えした通り、最近になって再び注目を集めています。

出典:learn.polymarket.com/what-is-polymarket

Polymarketのオッズ(上写真:Yes 72¢)は「ある出来事が起こる現在の確率」を示しており、例えばドナルド・トランプ氏が2024年の共和党の指名を獲得するかどうかに関する市場で、「Yes」の株が72セントで取引されている場合、それはトランプ氏が指名を獲得する確率が72%と市場が見ていることを意味します。

そして、予測が当たった方の株は最終的に100セント(1ドル)で交換することができ、予測が外れた方の株は0ドルとなります。

つまり、Aliceがトランプ氏の当選確率を72%以上と予測して「Yes」株を購入した場合、トランプ氏が指名を獲得すれば1株あたり1ドルになるため、28セントの利益を得ることができます。一方で28セントで「No」株を購入したBobは、その価値を失います。また、Polymarketのオッズはリアルタイムで取引されるため、結果が出る前に売却して利益を得ることも可能です。

このように、Polymarketでは、個々の投資判断が集まって大きな「知のプール」を形成し、これが予測市場の精度を高める重要な要素となっています。市場の原理を活用することで、様々な見解や情報が価格(オッズ)に組み込まれ、結果的にそれが最も合理的な予測へと導かれるのではないかと考えられているのです。

例えば、予測市場が世論調査や専門家の意見よりも高い的中率を示すとされた事例として、例えば2020年のアメリカ大統領選では、予測市場の方が世論調査よりも正確だったという報告があります。(参考:Betting markets called the presidential election more accurately than polls|FORTUNE

専門家は一般的に、予測が不正確であっても罰せられることはありませんが、予測市場においては『予想が外れた場合に参加者は損をする立場にある』という構造になっています。そのため、経済学者のAlex Tabarrok氏が「賭けはでたらめに対する税金である」と表現するように、立場の如何にかかわらず「自身が本当に信じていること」を表明するインセンティブが働きやすいのです。

もちろん、何事もメリットばかりではなく、経済的インセンティブを予測市場に絡めることにもいくつかデメリットあるのですが、こちらに関しては最後の考察パートで述べます。

最後に本節の内容を簡潔にまとめると、Polymarketは予測市場の力を活用して、未来の出来事に対する確率をリアルタイムで反映するプラットフォームであると同時に、このシステムは予測の質を高め、広い意味で社会にとって有益な知見を提供する場となり得る素養を秘めています。

Polymarketで人気の予測市場はどのようなものか

最後に、本節では2024年1月24日時点で賭け金額が多かった上位5つの予測市場について、Unchainedの記事「Top 5 Crypto Bets by Volume on Predictions Market Polymarket」をもとに一覧で示し、執筆時点においてユーザー層が「どのようなテーマについて未来を予測したいと考えているのか」について概観します。

結論、以下の5つが『ベット額の多い予測市場 TOP5』として挙げられています。

  1. BTCが2024年3月31日までに最高値に到達する?
    • 概要:
      • BTCが、2024年3月の終わりまでに過去最高値(約69,000ドル、2021年11月に達成)を更新するかどうか
    • 1月24日時点での見通し:
      • 多くのトレーダーは、BTCが指定期間内に最高値を更新しないと見込んでおり、その確率を8%と評価していた
      • 年始には約20%、SECがビットコインETFを承認した直後は30%の確率が予想されていたが、その後オッズは下がった
  2. BTCが1月31日までに50,000ドルに達する?
    • 概要:
      • 1月の終わりまでに、BTCが50,000ドルに到達するかどうか
    • 1月24日時点での見通し:
      • 信頼度は非常に低く、24日時点での確率はわずか3%
      • SECのETF承認直後には、この目標を達成すると見られる確率が84%まで跳ね上がったが、BTCの価格が下落したことにより、オッズは大きく低下した
  3. Tetherが2024年内に債務超過に陥る?
    • 概要:
      • Tetherが2024年内に破綻するかどうか
    • 1月24日時点での見通し:
      • 長らくTetherのUSDTステーブルコインが資産で適切に裏打ちされているか疑問視されてきたが、トレーダーたちはTetherが今年破綻する可能性を10%、そうでないと見る確率を89%と予測した
  4. Blastブリッジが2月末までに悪用(exploit)される?
    • 概要:
      • Paradigmが支援する未完成のEthereum L2チェーンであるBlastへの片道ブリッジが、2月末までに悪用されるかどうか
    • 1月24日時点での見通し:
      • このブリッジが悪用される確率は低いと見られており、その時点での確率は約4%しかなかった
  5. Solana上の特定のプロトコルが3月1日までにエアドロップを実施する?
    • 概要:
      • Solanaブロックチェーン上の特定のプロジェクト(Drift、marginfi、Kamino、Tensor、Wormhole)が、3月1日までにトークンをエアドロップするか
    • 1月24日時点での見通し:
      • 30%が「はい」と予想し、残りの70%が「いいえ」と予測した


このように、時間軸で見ると最長で1年以内という短期間の事象が注目を集めやすく、多くの人々が関心を持つテーマや、経済的に大きな影響を及ぼすイベントが人気を博している傾向にあります。

そして、これまでの観察から明らかなように、「予測市場」は未来の市場の動向や社会的、経済的イベントの見通しを提供するだけではなく、これらのイベントが現在、多くの人々にとってどのような意味を持つのかを映し出しています。

2024年には、Bitcoinの半減期やアメリカ大統領選挙の他にも、クリプト領域における新たなプロジェクトの萌芽が特に多く見られることが期待されています。

このタイミングで、自身や所属する組織の未来をより良い方向に導くための戦略的選択肢として、予測市場プラットフォームの活用が「リスクを低減」し、「ベネフィットを最大化」するための一つの有効な手段として考慮される日も近いのではないでしょうか。

これらを踏まえて最後に次章では、Farcasterエコシステム内で注目を集めている二つの予測市場アプリケーション「Perl」と「Swaye」に焦点を当てながら、これらのアプリケーションに関する考察と展望、今後直面する可能性のある課題や問題点などを中心に、マニアックな考察を「定期購読プラン」登録者向けにまとめています。ご興味あればご覧ください。


本章の参考資料:
https://learn.polymarket.com/what-is-polymarket
https://marginalrevolution.com/marginalrevolution/2012/11/a-bet-is-a-tax-on-bullshit.html
https://www.coindesk.com/consensus-magazine/2023/12/18/what-prediction-markets-are-forecasting-for-crypto-in-2024/
https://unchainedcrypto.com/top-5-crypto-bets-by-volume-on-predictions-market-polymarket/

Farcasterエコシステムで勃興する予測市場プラットフォーム

さて、この章ではFarcasterエコシステム内で注目を集めている二つの予測市場アプリケーション、「Perl」と「Swaye」に焦点を当てます。またその上で、これらのアプリケーションに関する考察と展望、今後直面する可能性のある課題や問題点についても論じていきます。

ということで、まずはarcasterエコシステム内で注目を集めている二つの予測市場アプリケーション「Perl」と「Swaye」について、それぞれ見ていきましょう。

① 「Perl」について


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まとめ

今回は、私たち人類は『なぜ予測したがるのか』、そして『その営みはいつから行われてきたのか』など、その歴史的な背景や人類の予測する性質についても振り返りながら、今日のweb3予測市場を概観しつつ、SNS(Farcaster)に予測市場を直接埋め込むスタイルの新進気鋭なプロダクトについて概観しました。

本記事が、web3領域における「予測市場」の概況や、Farcaster上の新たな予測市場アプリケーション「Perl」「Swaye」などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。

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