【前編】ミームコインの全体像を、価格の値動き以外の側面から紐解く|ミームという概念の解像度を高め、その存在意義や価値の判断基準を知る

このシリーズでは、「ミームコインの全体像を、価格の値動き以外の側面から紐解く」のテーマについて詳しく解説していきたいと思います。

さて最近、いろいろなところで「ミームコイン」に関するニュースや論考を目にする機会が増えてきたように感じます。Vitalikがブログ記事でミームコインについて言及したり、a16z CryptoやVariantなどの著名VCの方々も、頻繁にミームコインに関するニュースレターを書いていますね。


というのも背景として、2024年に入ってからミームコインの新規立ち上げが活発化しており、CoinGeckoのレポートによると、特に3月にはミームコイン関連のトークンの立ち上げが非常に活発で、新たな記録が設立されたとのことです。

また、単にトークンの数が増えているだけでなく、Farcasterのミームコインの週間出来高が2024年2月頃から急激に上昇するなど、ミームコインが明らかなトレンドとなりつつあることが観察される状況です。

出典:https://dune.com/ilemi/social-memecoins

そんな中、改めて「ミームコインとは何なのか」について深く理解すること、そして、目先のトレンドや価格の値動き以外の側面からミームコインを見つめ直すことが大切なのではないかと思い、本シリーズの執筆に至りました。

有象無象のミームコインが立ち上がったり、様々なニュースや論評が氾濫したりする中、原点に立ち返って「ミームとは何か」という問いについて考えるために、本シリーズが少しでも役立てば幸いです。


さて本記事は、「ミームコインの全体像を、価格の値動き以外の側面から紐解いていく」シリーズの第1弾としてお届けします。

第1弾となる今回は、「ミームという概念の解像度を高め、その存在意義や価値の判断基準を知る」をテーマに、その概要から詳細な情報に至るまで、幅広く解説していきます。

「ミーム」という概念の意味やその起源と進化、さらにその価値の本流がどこにあるのかについて、詳しく解説します。

  • 前編:ミームという概念の解像度を高め、その存在意義や価値の判断基準を知る
  • 中編:クリプト領域におけるミームの歴史を概観し、FTとNFTが融合する現在の潮流を探る
  • 後編:ミームコインを一過性のブームではなく、文化として残すために

でははじめに、この記事の構成について説明します。

STEP
「ミーム」とは何か

まずは、「ミーム」の概要とその起源、進化の過程や、ミームがこれほどまでに広まった理由について、専門書籍の内容をもとに詳しく解説していきます。

STEP
ミームの「価値」はどのように決まるのか

続いて、「ミームにとっての価値」と「人間にとっての価値」の間で生じる利害の不一致に焦点を当てます。この文脈で、「ミームの価値」は一概に決められないという点を論じ、web3領域におけるミームの意義を深掘りしていきます。

STEP
web3領域におけるミームの現状と懸念など

最後に、「ミームの価値 ≠ 人間にとっての価値」であり、その良し悪しを一元的に判断できない「ミーム」には、一体何の意味があるのか、そしてそれらは、web3領域においてどのような役割を果たし得るのかについて、筆者の私見を交えて述べていきます。

本記事が、ミーム自体の意味や歴史、トークンを介したweb3領域との混ざり合いなどについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。

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目次

「ミーム」とは何か

本記事は、以下の書籍の内容を参考にして執筆されています。

前提:文化とは何か

文化とは何かについて、生物学的な視点からは、「遺伝子に依存しない情報の体系として、次世代へと受け継がれるもの」と定義することができます。

要するに、文化とは単に一時的に伝達されるものではなく、動物の一個体から別の個体へ学習や教育を通じて情報が伝播する、まとまった系のことを指します。

つまり、ある個体が独自に試行錯誤を重ねて獲得した知識やスキルは、それ自体では文化ではないとされており、それが他の個体へ観察学習や教育を通じて持続的に伝達された場合、初めて文化と呼ばれるようになります。

「文化」の例としては、人間の食文化や言語、美術、音楽などが挙げられますが、これらはすべて、「遺伝子という制約を超えて伝えられ、保存され、進化してきた文化的情報」です。そして、このような文化的情報伝達の単位のことを、一般的に「ミーム(meme)」と呼ぶのです。

「ミーム」の概要

先述の通り、ミーム(meme)は一言でいうと、「文化的情報の伝達単位」として表現することができます。

この概念は、文化的要素や行動、情報が個人から個人へ伝播し、さらには文化や社会全体に広がるメカニズムを指します。

画像出典:Amazon

1976年、リチャード・ドーキンスによって提唱された「ミーム」という用語は、生命情報の単位である遺伝子のアナロジーとして考案されました。

ドーキンスによれば、ミームは「その表現型効果によって自己の生存と複製が選択される文化的な遺伝の単位」であり、また「脳内に保存される情報の単位」としても定義されています。例えば、音楽やアイデア、キャッチフレーズ、ファッションなど、人々が模倣を通じて広めていくものが含まれます。

つまりミームは、文化システムを生命システムになぞらえて記述するための基本概念であり、人々が会話を交わすことや、文章を読むこと、講演を聴くことによって、ある人の心から別の人の心へと情報が伝達される過程で広がっていく、文化的な要素や情報を指すものです。

これにより、ミームは人の心を「培地(プール)」と見なし、その数を増減させる情報体であると言い表すことができます。

そして、生物学的な遺伝子が生物の形質を決定するように、ミームは「心のウイルス」かの如く世代を超えて自己複製を繰り返しながら、人々の行動や思考、社会の構造を形成していきます。

ただし、ミームを遺伝子のアナロジーとして捉えることについては、専門家の間で意見が分かれていることも事実です。しかし、その議論に深入りすることはこの記事の主旨から逸脱するため、ここでは分かりやすさを優先し、遺伝子のアナロジーとして捉えて、ミームという概念を解説していきます。

起源と進化

さて、「ミームの起源」について、現時点でほぼ間違いないとされている事実が2つあります。

まず一つは、ミームとは文化の一形態であり、その起源は数万年前に遡るとされていること。もう一つは、ミームは人間だけに限定される現象ではなく、中枢神経系を持つ様々な動物も、ある程度の文化的行動を示す(※)ことです。

(※)ただし、人間の文化は質や量において他の動物を圧倒しており、世代を超えて情報が継承されるという点で、人間以外の動物ではほとんど見られない特徴を持っています。

また、遺伝子と文化の関係については、研究がまだ発展途上にあるそうですが、定性的には以下のようにまとめることができるとされています。

まず、人間以外の動物において観察される文化的現象は、餌を効率よく摂取するための行動や配偶者選びに役立つ形質など、生存や繁殖と密接に関連しています。それに対して、人間の場合は、遺伝的には非合理とも思われる形質でも、文化的には成功を収めている例がいくつか見られます。

例えば、「流行に従い先の細いパンプスを履くことで外反母趾になる」とか、「テレビゲームに熱中するあまり目が悪くなる」といった現象です。こういった現象は「遺伝子とミームの対立」と捉えられていると同時に、人間以外の他の動物ではほとんど見られないそうです。

この観点から見ると、人間の文化の進化は、複製子同士(遺伝子とミーム)の闘争として捉えることができます。

数千万年前に、動物の脳という新しい培地(プール)が現れたとき、遺伝子とは異なる種類の自己複製子「ミーム」が誕生しました。そして、ミームは脳内の記憶として保存され、さらに他の個体に伝わることで繰り返し複製されてきたのです。

鳥類や哺乳類でも、ミームは徐々に強力な影響力を持つようになり、約500万年前には霊長類の一員として人類が現れたことで、ミームは遺伝子システムから独立した進化系としての地位を確立しました。

また、一万年前の農耕革命によって、人間の寿命が延ばされ、人口が増やされることでミームの培地(プール)自体が拡大されたり、数百年前の産業革命では、人々の移動が活発になり、ミームの交流速度が飛躍的に高まりました。そして、数十年前に始まった情報革命により、ミームの生存と複製は、以前にも増して活発化しています。

特に、インターネットの普及によって、人間の脳に代わる新たな培地(プール)の出現をもたらしたことも、ミームの進化に大きく寄与しているのではないかと考えられています。

これほどまでに広まった理由

さて、これまでの説明を踏まえると、ミームがこれほどまでに広く普及した主な理由を一言で述べるならば、「インターネットが新たな培地(プール)と自由な拡散環境を提供したから」だと言えます。

そして、インターネットによる自由な拡散環境は、物体から単独で切り離された情報としての「遺伝情報」が、動物や植物の身体から離れて存在しうるようになった状況(すなわちウイルスが出現した事態)と似ているとも言い表すことができます。

ウイルスの起源と進化については諸説ありますが、自然の流れと考えられているのは、「多細胞生物の出現後しばらくして、その『体内から外へ』と出てきた」という説です。しかし、ウイルスは単独でしか存在できず、複数が集まって複雑な情報体を形成することはありません。その一方、コンピュータ・ネットワークでは、ミームがどのような形を取っていても、自由に飛び回ることができるフィールドが提供されています。

要するに、これまでミームは主に人間の脳という「培地(プール)」に依存していたが、インターネットの登場により、ミームは人間の脳から解放され、世界中の誰もがアクセスできる広大な「海」のような環境で自由に動き回れるようになったのです。そしてこの変化は、以前には考えられなかった世界中の広範囲への拡散を可能にし、ミームがこれほどまでに広まることへと繋がった大きな要因だと考えられています。


ということで、最後に本章のまとめです。

  • 文化とは何かについて、生物学的な視点からは、「遺伝子に依存しない情報の体系として、次世代へと受け継がれるもの」と定義することができる
  • 単に一時的に伝達されるものではなく、動物の一個体から別の個体へ学習や教育を通じて情報が伝播する、まとまった系のことを指す
  • 他の個体へ観察学習や教育を通じて持続的に伝達された場合、初めて文化と呼ばれる
  • 例としては、人間の食文化や言語、美術、音楽などが挙げられる
  • これらはすべて、「遺伝子という制約を超えて伝えられ、保存され、進化してきた文化的情報
  • 一言でいうと、「文化的情報の伝達単位
  • 1976年、リチャード・ドーキンスによって、生命情報の単位である遺伝子のアナロジーとして考案された
  • 脳内に保存される情報の単位」としても定義されている
  • 文化システムを生命システムになぞらえて記述するための基本概念
  • ミームを生命システムになぞらえることで、人の心を「培地(プール)」と見なし、その数を増減させる情報体であると言い表すことができる
  • 「心のウイルス」かの如く世代を超えて自己複製を繰り返す
  • その起源は数万年前に遡るとされている
  • 中枢神経系を持つ様々な動物も、ある程度の文化的行動を示す
  • 人間以外の動物において観察される文化的現象は、餌を効率よく摂取するための行動や配偶者選びに役立つ形質など、生存や繁殖と密接に関連している
  • それに対して、人間の場合は、遺伝的には非合理とも思われる形質でも、文化的には成功を収めている例がいくつか見られる
  • 人間の文化の進化は、複製子同士(遺伝子とミーム)の闘争
  • こういった現象は「遺伝子とミームの対立」と捉えられている
  • それと同時に、人間以外の他の動物ではほとんど見られない
  • 一万年前の農耕革命によって、人間の寿命が延ばされ、人口が増やされることでミームの培地(プール)自体が拡大
  • そして、数十年前に始まった情報革命により、ミームの生存と複製は、以前にも増して活発化
  • インターネットの普及によって、人間の脳に代わる新たな培地(プール)の出現をもたらした
  • インターネットが新たな培地(プール)と自由な拡散環境を提供した
  • インターネットの登場により、ミームは人間の脳から解放され、世界中の誰もがアクセスできる広大な「海」のような環境で自由に動き回れるようになった

以上を踏まえて、次章ではインターネットの普及によりミームが大量に存在できる環境が整備されつつある現状を考察します。この状況が果たして「良いこと」なのか、また、ミームが人間にとって持つ価値と、その利害の不一致にも焦点を当てたマニアックな考察を「定期購読プラン」登録者向けにまとめています。ご興味があれば、ぜひご覧ください。

ミームの「価値」はどのように決まるのか

「ミームの価値」は一概に決められない

さて前章では、ミームを遺伝子のアナロジーとして捉えてきましたが、遺伝子の価値が「自分のコピーをどれだけ残せるか」によって測定されるのと同様に、ミームの価値も「どれだけのコピーを残せるか」で測定できそうです。

しかし、それが「ミームが人間社会的に有意義であるかどうか」とはまた別の問題であることにも、留意しておく必要があります。

要するに、ミームは「多く増えるもの=成功したもの」と直感的に考えられがちですが、これが必ずしも人類の遺伝子の生存にプラスの影響を与える訳ではないため、ミームの「価値」を一概に評価することは難しいと理解することが重要です。

ミームにとっての価値 ≠ 人間にとっての価値


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まとめ

今回は、「ミーム」という概念の意味やその起源と進化、さらにその価値の本流がどこにあるのかについて解説しました。

本記事が、ミーム自体の意味や歴史、トークンを介したweb3領域との混ざり合いなどについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。

また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。

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