予測市場の基礎やPolymarketについておさらいしながら、オラクル問題を解決する可能性を秘めた「Night Market」について紹介

今回は、タイトルの通りクリプト領域における予測市場プラットフォームについて「Polymarket」を題材にしながらおさらいしつつ、課題の一つである「オラクル問題」を解決する可能性を秘めたNight Marketについて紹介します。

でははじめに、この記事の構成について説明します。

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【前提】Polymarketについておさらい

まずは、クリプト領域における予測市場プラットフォームや「Polymarket」について、その成功要因や課題、改善策について網羅的に解説します。

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Night Marketについて

続いて、オンチェーンゲームに特化した「eスポーツ予測市場プラットフォーム」であるNight Marketについてご紹介しながら、Polymarketが内包するオラクル問題の改善策や、正の外部性をもたらす設計について解説します。

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筆者の私見を交えた考察

最後に、Night Marketのビジネス面での強みや現状の課題、予測市場プラットフォーム全体の将来的な展望などについて、筆者の私見を交えながら考察していきます。

本記事が、クリプト領域における予測市場プラットフォームや、マス層をターゲットにしているPolymarket、コア層をターゲットにするNight Marketなどについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。

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目次

【前提】Polymarketについておさらい

Polymarketは、2020年に設立されたクリプト領域の予測市場プラットフォームであり、2024年に突入してからも顕著な成長を遂げているプロダクトの一つです。

今年の3月に、イーサリアムnavi本編で既に記事化されていますが、今年はアメリカ大統領選挙やBitcoinの半減期といった、「世界中のクリプトユーザーが注目する大きなイベント」が多数控えていることから、予測市場プラットフォームへの関心も高まると見込まれていました。

その中でも、特にPolymarketの成長についての言及が増えているのが、執筆時点での状況です。

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個人的には、Polymarketがこれまでにおいて成功を収めた要因として、革新的なアーキテクチャ、多様な市場展開、そして非クリプト層へのアプローチが大きく寄与していると考えています。

従来の予測市場は、主に「スポーツベッティング」に偏っていましたが、Polymarketは政治や経済、地政学的イベントなど、幅広いトピックに対応することで成功を収め、多くのユーザーを獲得していると考えられます。

そんなPolymarketについて、最近個人的に質問を受ける機会が増えており、その注目と関心の高まりを改めて実感しております。

そこで、今さらながらも、このタイミングで改めてPolymarketの仕組みや成功要因、現状の課題などを整理しておきたいと思い、本章に執筆に至りました。

出典:https://polymarket.com/

予測市場とは

そもそも予測市場とは何かを簡潔に言うと、「特定の出来事の結果に対してユーザーが予測を行う市場」を指します。

例えば、予測市場プラットフォームの参加者は、特定の出来事が発生するかどうかを「Yes」または「No」といった形で予測し、その予測が的中すると報酬を得ることができます。

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この形式自体は特に目新しいものではなく、スポーツベッティングや株式市場のデリバティブ取引と類似しているため、多くの方にとってイメージしやすいものではないかと思います。

出典:https://polymarket.com/

要するに、Polymarketのような予測市場では、ユーザーが「Yes」または「No」のシェアを購入し、イベントの結果が明らかになった際に、そのシェアに応じて利益を得るというのが大まかな仕組みとなっています。

執筆時点では51.6¢でYesのシェアを購入できるため、仮にトランプ氏が当選した場合にはそれが1$と交換できることから、48.4¢分の利益を得ることが可能となります。(その場合、ハリス氏にベットしていた人の取り分は0になります。)

出典:https://ethereumnavi.com/2024/03/12/prediction-market-polymarket-perl-swaye/
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また、こうした仕組みの利点は、「ユーザーの集合知」を活用できる点にあると言われています。

James Surowiecki氏の『Wisdom of Crowds(群衆の知恵)』でも示されているように、「集団の予測は、個々の専門家の予測よりも正確になる場合がある」と考えられています。

そして、Polymarketはこの原則に基づいて設計されており、多様なユーザーからの予測データを集約することで、より正確な結果予測を目指しているのです。

Polymarketの成功要因を考える

ハイブリッド型の構造を採用

出典:https://mirror.xyz/filarm.eth/0PKarmcQb-njQGtTePipp8m1yKwup_566mlEBhZatKE

さて、本記事の冒頭で述べた通り、Polymarketの成功の要因の一つは、その革新的なアーキテクチャにあると考えられます。

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まず前提として、Polymarketはハイブリッド型(オフチェーン・オンチェーン混合)の構造を採用しています。

より具体的に言うと、オフチェーンで注文のマッチングが行われ、オンチェーン(Polygonブロックチェーン上)で決済が行われる仕組みとなっています。これにより取引のスピードと効率が向上し、同時にコストの削減にも寄与しています。

また、オンチェーンでの決済により、すべての取引が不変性と透明性の高い形で記録されるため、クリプトならではの予測市場プラットフォームとしての強みとなっています。

SafeのERC-1155トークン標準規格のCTFを活用

また、あまり話題になることは少ないですが、Polymarketは裏側でSafeのERC-1155トークン標準規格に基づくCTF(Conditional Token Framework)を活用しています。

この仕組みにより、ユーザーは単一の担保(USDC)を複数の結果トークンに分割し、それを再度担保に統合することが可能となっています。

要するに、このフレームワークの導入により、複数の結果が予想される予測市場においても、スムーズな取引が可能となり、ユーザー体験の向上及び多様な市場展開が実現されています。

出典:https://mirror.xyz/filarm.eth/0PKarmcQb-njQGtTePipp8m1yKwup_566mlEBhZatKE
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個人的な見解として、ERC-1155やERC-4337、ERC-6551などは間違いなく興味深いトークン規格であるものの、ERC-721のように「非クリプト層にも訴求する明瞭さや便利さ」を十分に提示できていなかったように思っています。

そんな中、クリプト領域の古参である予測市場プラットフォームAugurやOmenのような分散性を重視したプロダクトとは異なり、Polymarketがより広範なユーザー層に受け入れられている現状を鑑みると、ERC-1155を活用して「非クリプト層にも訴求する明確さと利便性」を提供したことは、特筆すべき点であると考えられます。


また、この他にも考えられる成功要因として、Polymarketにはエンターテインメントとしての要素が多分に含まれている点が挙げられますが、この点については以前「Daily Stock」の記事で詳しくまとめていますので、興味のある方はそちらも合わせてご参照いただければと思います。

そんなPolymarketは、2024年5月に実施されたシリーズBラウンドで4500万ドルの資金調達を達成し、Peter Thiel氏のFounders FundやEthereumの共同創設者であるVitalik Buterin氏からの支援を受けることとなりました。

こうした点から見る限り、Polymarketの将来性には高い期待が寄せられているように思われますが、個人的にはいくつか無視できない課題も残っていると考えています。

現状の課題

規制の問題

まず、分かりやすい課題として挙げられるのは、「規制の問題」が大きなネックとなっている点です。

例えば、2022年1月には、米国の商品先物取引委員会(CFTC)から$1.4Mの罰金を科され、米国内でのPolymarketの運営が一時的に禁止された事例があります。

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また、つい先日にも、CFTCが提案している規則が、ゲームや選挙に関連するイベント契約を広範囲に規制しようとしているとして、話題になりました。

これに対して、Coinbaseは「ゲーム」の定義が曖昧すぎるとして強く反発しており、DragonflyのJessica Furr氏とBryan Edelman氏も、選挙に関する契約をギャンブルと同一視することは誤りだと反論しているなど、不確実性の高い状況が続いています。

「ユーザーの集合知」は万能ではない

また、先述の通り「ユーザーの集合知」を活用できる点は強みである一方で、すべての予測市場の参加者が必ずしも「予測すること」を主なモチベーションとしているわけではない点にも、留意すべきでしょう。

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例えば、政治的な結果に対して他のポジションのリスクヘッジとして予測するユーザーもいるため、予測市場が必ずしも世論を正確に反映しているとは言い難い状況が生じることがあると言えます。

オラクルの問題

さらに、Polymarketにはオラクルの仕組みに関連するいくつかの問題が指摘されています。

補足すると、オラクルとは、オンチェーンで実行されるスマートコントラクトに対して、現実世界の出来事に関する情報を提供する「橋渡し」的な役割を果たすシステムのことです。

出典:https://chain.link/education/blockchain-oracles

Polymarketのような予測市場では、予測の対象となるイベントの結果がオンチェーンで自動的に確認される必要があり、その際にオラクルが重要な役割を担っています。

要するに、Polymarketのオラクルは、ブロックチェーンの外部からスポーツや政治、経済、地政学的イベントなどの結果を報告する役割を担っていますが、特定のイベントの結果が曖昧であったり、解釈が分かれる場合があることが問題とされています。

例えば、イベントの結果が予想外の形で報道されたり、結果に関する具体的な情報の提供が遅れるケースでは、オラクルによる結果報告に「誤解」や「不正確さ」が生じるリスクがあります。また、解釈の違いによって誤った結果が反映される可能性もあります。

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こうした状況に対処するため、Polymarketには結果に異議を申し立てるための「Uma Optimistic Oracle(楽観的オラクル)」の仕組みが設けられていますが、現状ではこの仕組みが発展途上段階にあり、十分に活用されていないようです。

そのため、フォーラムやDiscordなどの非公式チャネルで議論が行われることが多いものの、それは正式な解決手段として機能していない状況があることから、現状の課題とされています。


また、この他にも競合他社の出現や、流動性の確保、資金面でのリスクなどが挙げられますが、文量の都合上、今回は省略しました。ニーズがあれば、また別の記事か「Daily Stock」の方で詳しくまとめたいと思います。

課題解決のアプローチ策は何かある?

規制の問題や集合知の問題については、個々の次元で簡単に解決できる話ではありませんが、最後のオラクル問題に関しては、例えば「オンチェーンで完結させる」ことで解決できる可能性があると考えられます。

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要するに、オラクル問題が発生するのは、「Polymarketの予測対象となるイベントがオフチェーンで発生し、それをオンチェーンに反映させる際にオラクルを介する必要がある」という前提があるからです。この部分を解消すれば、問題の解決が期待できるでしょう。

出典:https://chain.link/education/blockchain-oracles

そして、その点に特化して考えると、オンチェーンゲームはこのオラクル問題を根本的に回避できる可能性を持っていると考えられます。

オンチェーンゲームでは、ゲームのすべての「ルール」や「状態」が完全にブロックチェーン上で管理されているため、現実世界の情報をオフチェーンから取得する必要がなく、オラクル自体が不要となります。

その結果、オラクルに依存せず、ゲームの結果を自動的に決定する仕組みを構築することが可能となります。

先述の通り、Polymarketのような通常の予測市場プラットフォームでは、スポーツの試合結果など現実世界の出来事をオラクルから取得し、その結果を確定させます。

一方、オンチェーンゲームの予測市場プラットフォームでは、すべてのゲームデータがオンチェーン上に存在するため、結果を自律的に決定でき、オラクルに依存する必要がなくなります。

これにより、オラクルを介したデータの不確実性や、解釈の違いによるリスクを回避することが可能になると言えます。

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そして、これを実現しようとしているプロジェクトに「Night Market」というフルオンチェーンeスポーツマーケットがあります。次章では、こちらについて詳しくご紹介したいと思います。

Night Marketについて

出典:https://ss.0xnight.com/

概要

Night Marketは、オンチェーンゲームに特化した「eスポーツ予測市場プラットフォーム」です。

Night Marketは、完全にオンチェーンで運営されている点が特徴であり、単なるゲーム体験にとどまらず、プレイヤーや観客がオンチェーンゲーム内の試合結果を予測して楽しむことができる、ユニークな仕組みを提供しています。

執筆時点では、「Sky Strife」を中心に取り扱っており、ユーザーがリアルタイムで試合の結果を予測し、ゲームの結果に関与することで、成功時には報酬を得ることができる仕組みとなっており、新たなオンチェーンゲームのプレイスタイルの可能性を広げています。

プレイの流れ

ユーザー目線での一連の流れとしては、非常にシンプルです。大まかにまとめると、以下の手順で進めることができます。

  1. マーケットを選ぶ
    • まず、予測したいSkyStrifeの試合(マーケット)を選びます。
  2. 勝者を予想する
    • 試合に勝つと思うプレイヤーやチームを選択します。
  3. 予測をする
    • いくらベットしたいか決め、ETHを使ってベットします。
  4. ※以下、勝利した場合
    • 試合が終了したら、マーケットページにある「Resolve」ボタンをクリックします。これで結果が決定されます。
  5. 報酬を受け取る
    • 勝利した場合、「Claim」ボタンをクリックして、報酬を受け取ります。

Polymarketのような予測市場プラットフォーム同様、この辺りは説明書を読まなくても直感的に理解できるレベルで、シンプルに設計されていることがわかりますね。

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ちなみに、自分がベットした試合や状況は、ウォレットを接続すると表示される「My Position」セクションから確認できます。

出典:https://ss.0xnight.com/round/0x000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000a

なお補足情報として、執筆時点においてNight Marketは、Redstoneチェーン上で動いています。そのため、ベットに使用するETHを用意するためには、Redstoneの公式サイトなどからETHをブリッジする必要があります。

正の外部性をもたらす設計

出典:https://paragraph.xyz/@zkether.eth/principia-of-crypto#h-2

Night Marketでは、勝利した場合、ユーザーがベットした金額が大きいほど受け取る報酬も比例して増える仕組みとなっていますが、それと同時に、すべてのベットに対して0.5%の手数料が発生する設計になっています。

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ただ、特筆すべきポイントとして、Night Marketにかかる手数料が執筆時点では運営側に渡るのではなく、このマーケットを作成したユーザーに分配されるという、非常にユニークな特徴があります。

実はNight Marketでは、ユーザー自身が予測市場を作成できる機能があり、例えばSky Strifeの試合に対して新しい予測市場を立ち上げることが可能なのですが、その際、予測に参加したユーザーから徴収される0.5%の手数料は、市場を構築したユーザーに支払われます。

このように、Sky Strifeのプレイヤーや観戦者が単なる賭けを楽しむだけでなく、ボトムアップアプローチでユーザーに新たな予測市場の立ち上げを委任する仕組みを導入している点は「クリプトらしいアプローチ」であり、注目に値すると言えます。

出典:https://ethereumnavi.com/2021/11/09/loot-nft/

ちなみに、このような設計にした理由について、開発者であるLIBさんに伺ったところ、「予測市場を作るには、対戦相手を決めたり、日時を調整したり、さらにX上などで告知を行うなど、かなりの工数がかかり非常に手間がかかる。そのため、マーケットを作ってくれたユーザーに対して還元することに決めました」という説明をいただきました。

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ただ、ユーザーのベットに対して0.5%の手数料が発生し、それが丸ごと予測市場を作ったユーザーに渡されるという話を聞くと、運営がどのようにマネタイズを行っているのか疑問が生じるかもしれませんが、それについては次章で詳しく言及したいと思います。


以上を踏まえて次節からは、以下の3つのテーマを中心に、マニアックな考察を「定期購読プラン」登録者向けにまとめています。ご興味あればご覧ください。

  • ビジネス面での強み
  • 現状の課題
  • 予測市場プラットフォームの将来的な展望

筆者の私見を交えた考察

ビジネス面での強み


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まとめ

今回は、クリプト領域における予測市場プラットフォームについて「Polymarket」を題材にしながらおさらいしつつ、課題の一つである「オラクル問題」を解決する可能性を秘めたNight Marketについて紹介しました。

本記事が、クリプト領域における予測市場プラットフォームや、マス層をターゲットにしているPolymarket、コア層をターゲットにするNight Marketなどについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。

また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。

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