Lootエコシステム拡大の触媒となるか|先日メインネットローンチが行われた「Loot Chain」と、Lootの過去/現在/未来について徹底解説

今回は、先日メインネットローンチが行われた「Loot Chain」について解説していきたいと思います。

Lootやその周辺プロダクトに関しては、2年近く前から弊メディアで何度か取り上げてきましたので、名前くらいは聞いたことがあるという方が多数いらっしゃるのではないでしょうか。

ただ、今までそれらのプロダクトというのは、Ethereum MainnetやStarknet, Arbitrumなどで展開されてきました。今回は、そういったプロダクトよりも下のレイヤーでに位置する「Loot Chain」という新たなL2チェーンが立ち上がったというニュースです。

出典:ethereumnavi.com/2021/11/09/loot-nft/

最近では、Loot NFTのフロアプライスが大きく下落していたことから、「Lootエコシステムは衰退の一途を辿っている」と思われていた方も多いと思います。

しかし、今回のLoot Chainのアナウンスを機に、Lootエコシステムに新たな息吹を吹き込む可能性があるという期待感が高まっているとともに、新たな価値創出のカタリストとなる可能性があると考えられます。

ということで本記事ではその全貌について解き明かすために、序盤でLootの歴史やLootverse(Lootコミュニティが生み出す独自のメタバース)の課題などについて概観しつつ、終盤にて本題である「Loot Chain」について解説していきたいと思います。

でははじめに、この記事の構成について説明します。

STEP
前提:Lootの歴史を振り返る

まずは、Lootプロジェクトの起源と、その重要な発展のタイムラインについて解説します。LootがどのようにしてコミュニティドリブンのNFTプロジェクトから始まり、広大なLootverseへと発展していったのかについて詳細に追っていきます。

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Lootverseが抱えていた課題とは

続いて、Lootverseの成長と発展において直面した主な課題と、それがエコシステムの成長にどのように影響を与えてきたかについて考察します。特に、gas代の高騰やスケーラビリティの問題など、ブロックチェーン技術がゲーミングの世界に適応する際に抱える一般的な問題について焦点を当てます。

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Loot Chainについて

最後に、Loot Chainがどのようにこれらの課題に取り組み、Lootverseが次のステージへと進むための可能性をどのように開放しているかを詳しく見ていきます。

本記事が、Lootエコシステムの遂げてきた歴史や直面した課題、またそのソリューションとしてローンチされたLoot Chainの概要などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。

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目次

前提:Lootの歴史を振り返る

Lootは2021年の夏、Vineの創設者であり、BlitmapNounsDAOといった著名NFTコレクションのファウンダーでもあるDom Hoffmann氏により立ち上げられた「テキストベースのNFTプロジェクト」です。

当時、NFTスペースはBored Ape Yacht Clubなどを筆頭とする「PFPコレクション」の全盛期にあり、リッチなイラストや運営による派手な施策などに注目が集まっていました。

そのような潮流の中で、dom氏は従来のPFPコレクションが採用していたトップダウン式の運営スタイルに倣わず、新たに『ボトムアップ式』を採用したことなどが斬新な試みであると評価され、多くの人々の注目を集め新たなトレンドとなったのです。

また、最初の8,000個のLoot NFTは、専用のwebサイトではなくEtherscanから直接ミントする方式(いわゆる”直コン”)でローンチされ、さらに早い者勝ちで無料でミントすることが可能な状態でした。

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通常は専用のwebサイトを運営側が設け、ユーザーフレンドリーな設計でユーザーにミントするよう促す形が一般的ですが、dom氏の打ち出し方は「コントラクトに対する一定の理解がなければミントすらできない」という方式で、個人的に新鮮で面白いアプローチだと当時感じました。

また、2021年の夏はgas代が非常に高い時期でしたが、それにもかかわらずLootのNFTはわずか3時間で全てミントされ、さらにその日の内に1億ドル以上の取引量を記録しました。フロアプライスが12.2ETHにまで上昇するといった事態も起こり、一晩でLootはNFTスペースで最も注目を浴びるプロジェクトとなりました。

とはいえ、Lootの真の価値はフロアプライスではなく、「すべてのデータがスマートコントラクトによって読み取り可能であり、第三者の開発者がこれらのデータを基に新たなプロダクトを開発できる」という機能にこそ存在します。

家のような「完成品」のNFTではなく、いわば『レンガ』のようなパーツとしてのNFTを売るモデルを採用したことで、LootをベースにしたDAOやNFTプロジェクト、特定の特性(traits)を持つLoot保有者のための通貨「Adventure Gold(AGLD)」など、新たなプロダクトやアプリケーションがボトムアップに生まれ、これらのエコシステムを総じてLootverseと呼称するようになりました。

Lootverseの中には、Lootを8,000個だけでなく1,316,005個まで増やそうという mLoot(More Loot)や、wallet addressを持っているだけで誰でもミント可能なSynthetic Loot、また、弊メディアでも取り上げている「Realms」「HyperLoot」などの派生NFTプロジェクトなど、その事例は多岐にわたります。

Lootverseのイメージ図
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このように、dom氏が立ち上げた一つのNFTコレクションがきっかけとなり、エコシステムがボトムアップ型で拡大していくという現象は非常にweb3的なアプローチであり、それこそが筆者がNFTリサーチに深く没頭する一つの大きな動機となりました。

しかしながら、真新しいイノベーションをもたらしたLootエコシステムの裏側には『隠された課題』が潜んでおり、当初の期待が示していたような急速な拡大を遂げるのではなく、いくつかの課題に直面してしまったのです。

次章からは、その課題を解き明かし、新たな展開として現れた「Loot Chain」がこの課題解決にどのような役割を果たすと期待されているのかについて解説します。

Lootverseが抱えていた課題とは

Loot Chainのローンチの背後には、『以前からLootverseが抱えていた課題を解決するため』という目的もあったそうです。

本章では、そんな既存のLootエコシステム/Lootverseが抱えていた課題について、大きく以下3つに分類してそれぞれ概観していきます。

  1. ブロックチェーンの制約
  2. Ethereum(L1)の高いgas代
  3. インセンティブの欠如

課題1: ブロックチェーンの制約

まず、Ethereumブロックチェーンの技術的制約がLootverseの開発者たちの創造性を阻害し、クリエイティブな活動に集中できない状況が一つの課題となっていました。

特に、Lootを基盤にプロダクトを開発するビルダーたちは、「大量のトランザクションを処理するための堅牢なインフラストラクチャの維持」に苦労していたそうです。

その結果、プレイヤーたちはスムーズなゲーム体験を享受できず、さらに保有しているNFTを「高速かつ低コスト」で取引することも困難になっていました。

さらに、技術的な制約だけでなく、EthereumやStarknet, Arbitrumなどのブロックチェーンが「Lootに焦点を当てた」ものではなく、独自のロードマップに縛られているという事実も課題の一つとなっていたそうです。

この問題はEthereumだけでなく、Starknetを採用したRealmsや、Arbitrumを採用したTreasureDAOでも同じであり、この点についてLootコミュニティは主権を確立したいと考えていたのです。

出典:mirror.xyz/agld.eth/DUojxUke3FW3-FENgOknBA_x0xelwDy8O68Ya7BXulg

かつて、Axie Infinityも同様の問題に対処するために、独自のEthereumサイドチェーンである「Ronin」を立ち上げ、NFTコミュニティ専用のチェーンの創出に取り掛かりました。

これに倣い、Loot ChainはLootコミュニティに対して、トランザクションと開発の効率性を高めつつ、コストパフォーマンスに優れた環境を提供することを目指しています。

課題2: Ethereum(L1)の高いgas代

先述の課題と関連して、Lootverseの成長を妨げていた大きな要素は、「Ethereum(L1)の高額なgas代」であったと指摘されています。

出典:twitter.com/atareh/status/1534966301612879872

Ethereumで求められる高いgas代が、既存プレイヤーはもちろん、新たなユーザーをLootコミュニティへ参加させることを阻んでいたとし、「Lootverseへの参加が魅力的なものではなくなっていた」というのがその具体的な指摘です。

特に、価格が低いNFTを保有しているユーザーにとっては、獲得できる報酬よりもgas代が高くなるケースが少なくありませんでした。

例えば、mLootはその一例です。gas代を支払うことで誰でも無料でミントしてLootエコシステムに参加することができましたが、当時はgas代が高額であったため、ミントがあまり活発に行われなかったという背景があります。これらの要因を考慮に入れると、Ethereum L1をLootverseの発展の場として適当とするのは困難だという結論に至ったと思われます。

Lootやその周辺プロダクトが立ち上げられた2021年当時、L2という選択肢はまだ一般的ではなかったため、Ethereumを選択した理由は、チェーン自体の半永続性と分散性を享受するためでした。

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しかし現在では、Ethereum L2やappchain(application-specific blockchain)など、選択肢が多様化してきています。それが、このタイミングで課題解決に向けた行動を開始した一因かもしれません。

課題3: インセンティブの欠如

出典:twitter.com/arndxt_xo/status/1678728356421054465

Lootエコシステムの初期段階では、特定のLoot NFTの特性(traits)を持つユーザーを集結させるコミュニティ形成の試みが行われていましたが、全体的には明瞭なインセンティブが不足していたと言えます。

そういった背景の中で、Syndicateの共同創設者であるWill Papper氏は2021年9月2日に「Loot保有者専用のガバナンストークン」としてAGLDを立ち上げ、1 Lootあたり10,000 AGLDをエアドロップしたという経緯があります。

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ちなみに余談ですが、当時のAGLDにはLootの盛り上がりも相まって、時価総額が驚異的な水準に達していたことも、今では懐かしい思い出です。

しかし、AGLDトークンは「Lootverseのガバナンストークン」として華々しくローンチされましたが、その最大限の活用に向けては、いくつかの課題が存在していました。

AGLDはLootverseの成長と発展を後押しする役割を果たしてきましたが、その効果を最大限に発揮するためには「新たな技術的基盤」が必要とされていたのです。

そこで、CalderaとAdventure Gold DAOは、これらの課題を解決するために「Loot Chain」の開発を決定しました。

Loot Chainの目標は、伝統的なブロックチェーンの技術的制約を克服し、Lootverse全体にとって最適な環境を提供することです。そして、AGLDはこの新しいチェーンにおいて全てのトランザクション手数料として活用され、ガストークンの役割を果たします。

これにより、トランザクションはスムーズになると同時に、AGLD DAO、開発者、そしてユーザー間のインセンティブが一致するのではないかと期待されているのです。


以上が、Loot Chain誕生に至るまでの「Lootエコシステム/Lootverseが抱えていた課題」の全体像となります。

次章では、LootverseのインセンティブトークンであるAGLDをガストークンとして活用する新たなチェーン「Loot Chain」について、詳細に解説していきます。

Loot Chainについて

出典:mainnet.lootchain.com

概要

出典:mirror.xyz/agld.eth/W9WEsdjCf4ZU7gHw7NQDq8C0d352eH0mUuf-x0HtMBU

Loot Chainは、CalderaとAdventure Gold DAO(以下AGLD DAOと表記)が共同で開発した、「Lootverseエコシステム専用のブロックチェーン」です。

Loot Chainは、主にNFTとゲームプロジェクトに最適化されており、ハイスピードで低コストの取引を可能にするとしています。

また、開発者は技術的な制約なく開発に着手できると同時に、ユーザーはスムーズな体験を享受できるようになるそうなので、前章で課題として挙げていた「ブロックチェーンの制約」をクリアできるのではないかと期待されます。

なお、前章で述べた通り、Loot Chain上における全てのトランザクション費用には、ネイティブトークンである「AGLD」が使用されます。

出典:lootchain.com

さて、Loot Chainは、Lootverseに特化した『低コストで高速なL2(レイヤー2)ブロックチェーン』として設計されています。その目的は、スケーラブルなアプリケーションの開発を可能にすることにあります。

そのアーキテクチャは、EthereumのORU(Optimistic Roll-Up)として構築されています。これにより、Ethereumのセキュリティを利用しつつ、他のL2ソリューションとの相互運用性も実現します。

つまりLoot Chainのユーザーは、OptimismやArbitrumと同様の方法でチェーンに参加/撤退することができます。(Loot Chainへのブリッジ方法は後ほど解説します。)

出典:mirror.xyz/agld.eth/ctNvV5M0UqXgPl6kUN_F7PMDEXEatFVp_V0tWzSuX5M

Ethereumのセキュリティを利用しつつ、前章で述べた「Ethereum(L1)の高いgas代」という課題を解決することで、より多くのユーザーが少ないコストでブロックチェーンを活用できる環境が提供されるとしています。

また、「主権性」に関しても重要なポイントになると主張されています。Lootverseは、Ethereum, Arbitrum, Polygon, StarkNetを含む複数のチェーンに拡張していますが、その中でLoot Chainだけが『LootとAGLDコミュニティによって保有・管理』されます。これにより、コミュニティ自身が自分たちのエコシステムを形成・統治する権能が与えられるそうです。

Loot Chainは、ブロックチェーンテクノロジーの可能性を最大限に活用し、同時にその制約を最小化することを追求しています。そしてその目標は、さらなる開発者の参加を促し、Lootverseにおける多様なアプリケーションやゲームの創出を促進することにあります。

特徴的なポイント

出典:lootchain.com

Loot Chainの主な特徴をまとめると、以下の通りです。

  1. 低いガス手数料
    • ガス手数料が低いことは、L1に比べてLootコミュニティへの包括性を高める意味を持つ
  2. 主権性
    • Lootverseは、Ethereum, Arbitrum, Polygon, StarkNetを含む複数のチェーンにまたがって展開される
    • その中で、Loot ChainはLoot & AGLDコミュニティによって保有/管理されている唯一のチェーン
  3. EVM互換性
    • Lootverseの開発者にとって、馴染みのある環境が提供される
    • EVM互換性により、Ethereumと同様の開発環境を利用可能

ロードマップ(2023年)

出典:lootchain.com

2023年のLoot Chainのロードマップは次のように計画されています

  • 2023年 Q1: Loot Chainのテストネットの立ち上げと、パートナーシップの構築
    • Loot Chainの初期のテスト環境が公開され、様々なパートナーとの協業を進展
  • 2023年 Q2: Autonomous Worldsのためのインフラストラクチャと、パートナーシップの開発
    • ブロックチェーン上で動作するAutonomous Worldsのためのインフラと、そのためのパートナーシップの開発
  • 2023年 Q3: オンチェーンゲームインフラストラクチャのアグリゲーターと開発者向けキットの公開
    • 開発者はより簡単にオンチェーンゲームを開発し、デプロイすることが可能となる
  • 2023年 Q4: メインネットのローンチと、アーリーアダプターへの報酬付与
    • Loot Chainは完全に機能する公開ネットワークとなり、初期のユーザーや開発者に対するインセンティブが提供される

これらのステップを通じて、Loot Chainはエコシステムを順次拡大し、完全な形での公開を目指しています。

執筆時点でAGLDをLoot Chainへブリッジする方法

出典:mirror.xyz/agld.eth/DUojxUke3FW3-FENgOknBA_x0xelwDy8O68Ya7BXulg

まず前提として、Loot ChainではDAレイヤーとしてPolygonを使用しており、Loot Chainの構築からデプロイ、運用にかかるコストを大幅に削減しています。

そのため、執筆時点においてLoot ChainへAGLDをブリッジするためには、以下の手順で行う必要があります。

  1. Uniswapなどを通して、Ethereum MainnetでAGLDトークンを取得する
  2. Polygon Bridgeで、Ethereum Mainnet=>Polygon MainnetにAGLDトークンをTransferする
  3. Lootchain Bridgeで、Polygon Mainnet=>Loot ChainにAGLDトークンをTransferする

1. Ethereum MainnetでAGLDトークンを取得

出典:app.uniswap.org/#/swap

2. Ethereum Mainnet=>Polygon MainnetにAGLDトークンをTransfer

出典:wallet.polygon.technology/polygon/bridge/deposit

3. Polygon Mainnet=>Loot ChainにAGLDトークンをTransfer

出典:mainnet.lootchain.com/bridge

以上で、Loot ChainへAGLDをブリッジすることができます。

Loot ChainでAGLDトークンを保有しておくことで、将来的に Loot関連のゲームに参加したり、他のLoot愛好家とAGLDを交換したりできるそうです。

総括

出典:lootchain.com

最後に本節では、Loot Chainがもたらす可能性を中心に、筆者の私見や考察を「定期購読プラン」登録者向けにまとめています。ご興味あればご覧ください。


この続き: 2,343文字 / 画像2枚

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まとめ

今回は、Lootの歴史やLootverse(Lootコミュニティが生み出す独自のメタバース)の課題などについて概観しつつ、終盤にて本題である「Loot Chain」について解説しました。

本記事が、Lootエコシステムの遂げてきた歴史や直面した課題、またそのソリューションとしてローンチされたLoot Chainの概要などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。

また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。

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