今回は、ウォレットアドレスから豊かさ(多様性)を表現する新進気鋭のフルオンチェーンNFT「Sum」について解説していきたいと思います。
実際、「フロアプライス」という指標をNFTコレクション成功の主軸として捉えるのであれば、NFTの総発行数は少ない方が望ましいですし、相対的にtraits(特徴)がレアなものほど高値で取引される方が自然となり、実際に執筆時点でのPFP系NFT市場はそのようになっていると感じます。
しかし、フロアプライスや総取引量などの指標ばかりを追い求め続けることは、さまざまな要因から中長期的には難しく、それは今のベアマーケットの中で浮き彫りになってきていると考えられます。
そんな中、「改めて面白い使い方でNFTやブロックチェーン技術を活用しているプロジェクト」について調べてみたところ、今回ご紹介するSumという作品を見つけました。
Sumは、ウォレットアドレスを持っている人なら誰でもミントできて、かつ自己表現やコミュニティ形成のための手段への活用が期待されるNFTプロジェクトです。
また、その実装内容やコンセプトについても興味深い点が多く、ユニークなNFT事例の研究題材として知っておいて損はないと考えています。
ということで本記事では、「豊かさ(多様性)」に焦点を当てるという、PFP系NFTコレクションの中でも稀有な試みを行うプロジェクト「Sum」について解説していきたいと思います。
でははじめに、この記事の構成について説明します。
まずは、SumというNFTプロジェクトの概要や名前の由来、実際のミント手順などを説明していきます。
続いて、Sumについて深掘りして調べていた際に、特にユニークだと感じたポイントを3つ順番にご紹介します。
最後に、NFTの金融的機能を超えた「新しい結びつき」を模索する試みについて、色彩心理学や日本の色占いとの関連性について触れながら筆者の私見を述べていきます。
本記事が、Sumの概要や作品の魅力、またフロアプライス以外のNFTの価値を模索している方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。
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Sumとは
概要
Sumは、ウォレットアドレスから豊かさ(多様性)を表現する新進気鋭のフルオンチェーンNFTです。
Sumの着想は、『Ethereumのウォレットアドレスは、16進数の色群に等しく分割できる』という事実から生まれています。
具体的には、Ethereum上のウォレットアドレスは42文字の16進数から成り立っているのですが、それらを3桁ごとに分割することで、14層の色彩表現を生み出しているのです。
そしてこの色彩表現(例えば先頭の0x2
が黒である等)は、ファウンダーのDuane氏の判断で定義された訳ではなく、3桁の16進数の色に相当するものとして3-digit hex colorsを使用することで、偶然的に決められたものとなっています。
ちなみに、各リングにはそれぞれ4096パターンの色の配置可能性がありますが、外側のリングのみ16色に制限されています。
その理由は、Ethereumのウォレットアドレスは先頭が0x
から始まるのに対して、16進数ではない唯一の文字である「x」の問題に対処するためのようです。
また、Solidityネイティブには実装が難しいとされている「ランダム性」といった処理を取り入れることなく、各ウォレットアドレスによって提供される英数字の配列をもとに異なるビジュアル生成を行なっています。
「ランダム性」をSolidityネイティブに実装することが難しい理由は、以下をご参考ください。
「Sum」という名前の由来
「Sum」というNFTコレクションは、文字通りJavaScriptを介してSVGにロールアップされる動的データ入力の「総和」から成り立っています。
ブロックチェーン上の特定の時点での個々のウォレットアドレスのデータスナップショットを元に成り立っていることから、この名前が付けられています。
このフレーズは、デカルトの認識論と存在の性質への探求を反映しています。デカルトが個人の思考と理性の能力を重視するのと同様に、自己主権アイデンティティは、個人が自身のアイデンティティ情報をコントロールする重要性を認識しています。これは、個人が自らの個人データの収集、保存、共有の方法を決定する権利を持つべきだという考え方を推進しており、デジタルな相互作用における自分のアイデンティティを認証し、証明する能力を意味します。
翻訳元出典:Creo, ergo sum
Highlightについて
SumというNFTコレクションは、Highlightをベースに構築されていますので、こちらも併せてご紹介しておきます。
HighlightはEthereum上のアート・文化ブランドおよびプラットフォームとして位置づけられ、Ethereumを「メディア」とみなすことで新たなアートの形を表現しています。
このプラットフォームは、クリエイターとファンの共繁栄を支援することを目的としており、アーティストの制作・収益化のサポートや、コレクターがアートを発見し、コミュニティと接続する場としての役割を果たしているのです。
さらに、Highlightはブロックチェーン技術をシンプルにし、より多くの人々がアクセスできるようにしています。これにより、アート文化の新しい可能性を広げ、クリエイターとファンの直接的なつながりや新たな収益源の確立を促進しています。
色についてインスピレーションを受けた題材
どのようにしてSumのコンセプトの着想へと至ったのかDuane氏に聞いたところ、以下2つのNFTコレクションからインスピレーションを受けたと教えてくれたため、本節で概要だけサラッと触れておきます。
- Unix Days
- Couleur de Montréal
1. Unix Days
Unix Daysは、Ethereumブロックチェーン上で『毎日の色』を自動的に描画するNFTコレクションです。
ここで言う「毎日の色」は、1970年1月1日の真夜中からの日数を元に一つのコード(ハッシュ)を作成し、そのコードの最初の6バイトを使って色のコード(16進数)を取得したものです。
その結果、各日に対して特定の色が関連づけられているという仕組みになっています。
2. Couleur de Montréal
Couleur de Montréalは、モントリオールの空の色に関するNFTコレクションです。
Couleur de Montréalは、「infinite canvas」というNFTコレクションに双子のトークンとして存在し、同じ色を共有しています。
詳しいことは省略しますが、Couleur de MontréalのNFTを破棄することでその双子のトークンを取得し、色を変更する能力を解放できるという仕様のようです。
実際にSumのNFTをミントして流れを確認
まずは、Sumのミントページに遷移し、画面右上の「Connect Wallet」からウォレット接続を行います。
少し下の方にスクロールすると、「0.0005ETH+0.0008ETH mint fee」という表示の下に『Mint』ボタンが表示されています。今回は、試しに筆者のウォレットアドレスからSumをミントしてみます。
これだけで、Sumのミント作業は終了です。あとは、OpenSeaなどでメタデータのリフレッシュを行い、アニメーションを確認してみると良いでしょう。
なお、当然ながらSumの画像やGIF画像を、X(旧: Twitter)などで自身のアバターとして設定することも可能です。
ENSをプロフィールや名前に掲載することがプチブームになった経緯を踏まえると、Sumをアイコン画像に設定するムーブメントが起きる未来もあるかもしれませんね。
個人的なユニークポイントを深掘り
- NFTの希少性よりも『豊かさ』を尊重
- ミント時にガス代が高騰していると呼吸が速くなる
- ウォレットを持っていれば誰でもミントできる
1. NFTの希少性よりも『豊かさ』を尊重
一般的なPFP系のNFTプロジェクトというものは、それぞれ見た目や特徴が異なるという性質を備えていることから「希少性」に焦点が当てられることが多いです。
しかしながらSumの場合は、希少性という既存の概念を覆し、『豊かさ』を表現するためのNFTコレクションであると謳っています。
例えば、Sumの問いかけるテーマの一つに、「ウォレットアドレス」と「色」を関連付けることで、人間の高度に発達した視覚野に働きかけることができるようになるため、ウォレットアドレスをより簡単に認識・識別することが可能になるのではないか、というものがあります。
色は、感情や記憶、その他多くの経験に関連する『強い感覚』を作り出すと言われています。つまり、データを視覚的に記憶に残りやすいものに変換してあげることで、直感的かつユーザーフレンドリーな体験を提供し、最終的にエンゲージメントの向上に繋がるのではないかという主張です。
たしかに、生成されたSumのリングは個性を感じさせ、その色から「優しそう」「アクティブな印象」といった『人の性格』を連想させるのかもしれません。(これに関しては次章で詳しく述べます。)
このように、彼らにとってPFP系のNFTの『豊かさ』とは、ブロックチェーンコミュニティ内の多様性をより適切に表現し得ると同時に、半永続的なgenerativeコレクションというメディアによりふさわしいと考えているのです。
昨今では、PFP系NFTコレクションにおける指標としてのフロアプライスの重要性が問われつつあること、そして高いフロアプライスで目立つことは持続不可能であることなどが指摘され始めていますが、PFP系NFTの価値とは何なのかについて改めて再考するための良い問いかけなのではないかと、筆者は考えています。
2. ミント時にガス代が高騰していると呼吸が速くなる
実は、Sumはただの画像ではありません。
Ethereum上のウォレットアドレスを基にした「動的なNFTコレクション」として、NFTのミント時のガス代やブロックハッシュ、タイムスタンプなどを引数に取り込み、それをアニメーションに反映させる設計となっています。
Sum #9 by @DuaneKing
— Patricia Klein (@patricia_klein_) July 27, 2023
First time I don’t mind paying gas fees on ETH. It becomes part of the art.🧘♀️ pic.twitter.com/GSYu2xf1WJ
このように、Highlightの動的データ入力を使用すると、リアルタイムのデータを生成したグラフィックに注入することができるのですが、Sumではこの現象を「呼吸」として位置付けています。
つまり、Ethereumブロックチェーンの活動度が高まると、ガス代とともにSumのリングのスケールも上昇し、ユーザーは『ブロックチェーンの状態を直感的に感じ取ることができる』ため、非常に面白いコンセプトです。
3. ウォレットを持っていれば誰でもミントできる
一般的なPFP系のNFTプロジェクトというのは、発行上限数を10,000個などに設定しておき、限られた個数のNFTを取り合うモデルを採用しています。
その一方で、SumにはNFTの発行上限数が定められておらず、0xから始まるEthereumのEoA(個人ウォレットアドレス)を持っていれば誰でもユニークなNFTをミントすることが可能です。
先ほど『希少性よりも豊かさを尊重する』というポイントを挙げましたが、この設計によってSumを保有する人が増えれば増えるほど「豊かさ(多様性)」は増加していくことになります。
NFTプロジェクトが掲げるビジョンを、言葉だけではなくコントラクトの設計ベースで実践しているところは、非常に一貫性があって良いなと思いました。
筆者の論考・考察
前章で取り上げたSumのリングは、色を通じて「優しさ」や「アクティブな印象」などの人の性格を連想させるものでしたが、これは色彩心理学や、日本の色占いと関連があると筆者は感じています。
この続き: 1,966文字 / 画像3枚
まとめ
今回は、「豊かさ(多様性)」に焦点を当てるという、PFP系NFTコレクションの中でも稀有な試みを行うプロジェクト「Sum」について解説しました。
本記事が、Sumの概要や作品の魅力、またフロアプライス以外のNFTの価値を模索している方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。
また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。
◤ Sumとは ◢
— イーサリアムnavi🧭 Called "Ethereumnavi" (@ethereumnavi) August 12, 2023
🖼️ウォレットアドレスから豊かさ(多様性)を表現する新進気鋭のフルオンチェーンNFT
🖼️ウォレットアドレスを持っていれば誰でもミント可能
🖼️名前の通り、ミント時における動的データ入力の「総和 (Sum)」から成り立つ
詳細はこちら👇@Highlight_xyz https://t.co/4ujfGkZBKG
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