今回は、NounsDAOがフォークできるようになった全体的な経緯と背景、またその概要や現在の状況などについて、解説していきたいと思います。
さらに、フォークしたDAOでは、自身のNFTをBurnすることで、それに相当するETHと交換できる実質的なExit機能が搭載されているとのこと。
このような形式のDAOのフォークは初めての試みで、NFT界隈だけでなく多くのクリプト関係者からの注目を集める一大イベントとなっています。しかし、その詳細をまとめた記事は、英語圏でも今のところ見当たりません。
そんな中イーサリアムnaviでは、NounsDAOに関する記事を約2年前から書いてきたこともあり、この一大イベントについて詳しくかつ分かりやすく日本語でまとめる必要性を感じたため、本記事を執筆するに至りました。
執筆時点でまだ把握できていない情報があるかもしれませんし、今後の動向を予測するのは難しい状況ですが、できるだけ事実に基づいて『現在、NounsDAOで何が起こっているのか』について解説します。
ということで本記事では、NounsDAOがフォークできるようになった全体的な経緯と背景、またその概要や現在の状況などについて、筆者の私見を交えて述べていきます。
でははじめに、この記事の構成について説明します。
まずは、NounsDAOフォークの概要と現在の状況を見ていく前に、「NounsDAOフォーク」の立案から採択までの全体的な経緯と背景について確認していきます。
続いて、2023年8月半ばに可決・実行されたNounsDAOフォーク提案が具体的にどのようなものなのかについて解説しつつ、それを踏まえてフォーク提案実行後の現在の状況などについても、明らかになっている情報をもとに整理していきます。
最後に、「NounsDAOフォーク」に対する筆者の思いや懸念事項、またその可能性などについて、私見を交えながら述べていきます。
本記事が、NounsDAOの近況やフォーク機能に関する諸々の情報、また今後の懸念点や発展可能性などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。
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「NounsDAOフォーク」提案の全体的な経緯と背景
フォーク案の内容だけを中心に考えると、一部理解しづらい点があります。そこで、まずは『どのような思惑やシステムが背景にあり、フォーク案を支持する人たちが増えていったのか』を、簡潔に理解することが望ましいと考えます。
では、まずは以下のイラストをご覧ください。
多くの方が既にご存知かと思いますが、おさらいとして説明します。NounsDAOでは、1日に1体のNouns NFTが自律的な仕組みで定期的に発行され、その後オークションにかけられ販売されます。さらに、その売上ETHの100%は、中抜きの余地なくトレジャリー(DAOの公庫)に貯蓄されています。
一般的なNFTプロジェクトでは、NFTの売上の100%やその大部分が運営の手元に渡ることが多いですが、NounsDAOの場合、オークションの売上ETHは運営の手元に”一切”渡りません。
このトレジャリーに蓄えられたETHを基に、Small GrantsやProp House、Proposalsなどの資金調達手段を活用し、「NounsのIPとしての認知拡大やイメージ向上に寄与するプロジェクトへの資金提供」を目的とした多くの取り組みを進めてきました。
つまり、Nouns NFTを購入する際の支払われたETHがNounsDAOの投資資金として利用されているのですが、この資金をボトムアップな施策に使用することについては、ポジティブ派とネガティブ派の間で意見が分かれる状況が生まれました。
元々、NounsDAOが立ち上がった時点では、『Nounsエコシステム上で面白い文化やソフトウェア(特に「ミドルウェア」)につながる可能性のある質の高い提案に対しては、実験し、リスクを取り、最終的にすべての資金を提供することで、ビルダーのコミュニティに資金を提供し、育てていくべきだ』と考えられており、筆者の所感としてもそのようなポジティブ派の考え方が、ホルダーの間でも主流派であったと記憶しています。
しかし、現在では発行されたNouns NFTの数は839体になっています。時間が経過する中で、様々な考えを持つ人々がNounsのホルダーとなった結果、「トレジャリーに蓄えられたETHの量がNouns NFTの価値の源泉である」との考えを持つ派閥が形成され、それなりの支持を集めるようになったのです。
要するにまとめると、NounsDAOの成長に伴い、多様な意見やビジョンを持つメンバーが増えたのは良いことでした。しかし、この多様性はコミュニティの強みである一方で、「組織全体が一つの方向性を持つことの難しさ」という課題をもたらしたのです。
そして、その間に生じる摩擦を緩和するための新しいアプローチが求められたことから、以下を目的と主張する「NounsDAOのフォーク」が提案されました。
- マイノリティの保護
- 伝統的な企業ガバナンスにおいて、マイノリティステークホルダーはしばしば主要な決定や変更から疎外されることがある。
- Nouns DAOのフォーク機能は、特定の決定や方向性に不満を持つマイノリティのメンバーが、新しいDAOを形成し、異なる方向性を採る機会を持つことを可能にする。
- 進化と多様性の推奨
- DAOのフォーク機能は、コミュニティの異なる部分が異なる方向性やアイデアを試すことを奨励する。
- これにより、最も成功したアイデアやアプローチを見つけるための進化的なプロセスが生まれる。
- 不満足の解消
- DAOのフォーク機能は、コミュニティ内の深刻な不一致や対立を解消する手段として機能する。
- これにより、新しい方向性を探求したいグループが分岐し、それによって元のDAOの調和を維持することが可能となる。
- 制度の柔軟性
- フォークの可能性は、DAOのメンバーに柔軟性と選択肢を提供する。
- これにより、メンバーは自分たちの考えや信念に最も合ったDAOに所属することができる。
表面上は、マイノリティの保護などの立派なビジョンを掲げているように見えますが、実際には「フォークを通じてNounsDAOのトレジャリーにある大量のETHを手に入れたい」という投機的な意図を持つ人も多いのではないかと、筆者は感じています。(この点に関しては個人の意見が色濃く反映されているため、最終章のオピニオンパートで詳しく触れます。)
そして、このフォーク機能を持つV3アップグレード提案は、Nounsホルダーの投票により賛成多数で採択された。これが、大まかな背景および経緯です。
NounsDAOフォークの概要と現在の状況を概観
では、2023年8月半ばに可決・実行されたNounsDAOフォーク提案について、本章で具体的に解説します。
また、その提案を踏まえ、フォーク実行後の現在の状況などについて、明らかになっている情報を基に整理して解説します。
前提:フォーク機能はV3アップグレードの中身の一部
まず、今回焦点を当てている提案は、「Proposal 353|Nouns DAO V3 upgrade, including Nouns Fork」です。
これは、Nouns DAOのロジックコントラクトをV3にアップグレードし、以下の新機能を導入するものとなっています。
- 提案の編集
- 提案のライフサイクルに新しい初期状態「Updatable」を追加し、提案者が提案のトランザクションやテキスト説明を更新できるようにするもの
- 署名による提案
- Nounersと代理人が、署名を提出することで投票権をプールし、提案を行う機能
- 反対票のみ投じれる期間の設置
- 提案が成功に転じた場合に有効になる条件付き投票期間であり、この期間中は反対票のみが可能となる
- 投票遅延後の投票スナップショット
- 投票のスナップショットブロックを提案作成ブロックから変更し、Nounersに反応時間を提供するもの
- フォーク機能
- 投票で閾値を超えた場合、賛成したNousホルダーが新しいDAOにフォークし、従来のDAOから退出できるようにするもの(執筆時点での閾値は20%)
このように、フォーク機能は単独の提案として議題に挙がったわけではなく、V3アップグレード提案の中の一項目として取り上げられ、特に議論の焦点となっていたのが⑤の「フォーク機能」です。
フォーク機能の概要
フォーク機能を簡単に説明すると、Nounsエコシステム内で異なる意見やビジョンを持つメンバーやグループが一定数以上集まった場合に、親元の資金の一部を引き継ぎ、その資金を基に新しいDAOを立ち上げることができる機能です。
クリプトの分野において、Ethereum ClassicやBitcoin Cashのハードフォークは有名な例として挙げられます。これは、あるコミュニティやプロトコル内で意見が一致しない場合、新しいバージョンやインスタンスを作り、分岐する行為を意味します。
そして、NounsDAOではこのフォークの概念を、コミュニティのガバナンスモデルに応用することを目指しています。
例えば、ガバナンス提案に反対するトークンホルダーが一定の割合(現在は20%)以上となった際、元のDAOから分離し、新しいDAOインスタンスを立ち上げることが可能になります。
そしてこのフォーク機能は、主に以下2つのフェーズから成り立っています。
- エスクロー(預託)期間
- ホルダーは、誰でもフォークページからフォークの閾値(現在は総発行数の20%)に到達するまで、Nouns NFTをエスクローに預けることができる
- フォークが開始される前であれば、トークンをエスクローから引き出すことも可能
- エスクローされたNFTの数がフォークの閾値を満たし、かつ、誰かが
fork
関数を呼び出した場合、②のフォーク期間が開始される - エスクローに入れられたトークンは、フォーク元のDAOでの投票や提案には使えなくなる
- フォーク期間
fork
関数が呼び出されたときに開始され、fork
関数は新しいNouns DAOをデプロイする- この期間は、新しいNouns DAOがデプロイされた時から数日間(例:7日間)続く
- フォーク処理と悪意のあるプロポーザルとの間の競合状態を防ぐため、元のDAOの提案は実行できなくなる
- 一度フォークが始まると、途中でキャンセルすることはできない
- 新しいDAOにはRage Quit(※)が導入され、Nounsホルダーはいつでも自分の意思でDAOからExitできるようになる。
- フォーク先の新しいDAOは、元のDAOから資金を受け取る
- フォーク先の新しいDAOは、Noundersの拒否権ならびにNoundersへの報酬NFT付与は無し
- フォークに参加したNounsホルダーは、フォーク先の新しいNFTを受け取り、元のNounsを手放す
※Rage Quit:
NousホルダーがNFTをburnすることで、DAOのトレジャリーから相当分のETH(フォーク先DAOトレジャリーのETH / フォーク先Nouns NFTの数)を引き出して退出できる機能。Rage Quitのさらなる詳細はこちら。
以前、二次流通価格が絶対にmint価格を下回らない「Burnables NFT」について紹介しましたが、概念としてはこちらの事例に近いです。(※Nounsの場合は時期によってミント価格に差があるので、絶対に損しないとは限りません。)
また、フォークによって生まれた新しいDAOの初期設定については、Nounsホルダーが自由に変更できるようにアップグレード可能なコントラクトが用意されていますが、今回は詳しくなるため、技術的な実装部分については触れません。
参考資料:
・Introducing Nouns Fork: A Last-Resort Minority Protection Mechanism
・What The Fork? The Crossroads of Innovation and Caution in Nouns DAO
・Nouns fork is perpetually vulnerable to a dishonest minority
・github.com/verbsteam/nouns-fork-spec/blob/main/spec.md
・twitter.com/eladmallel/status/1681687404011216896
・twitter.com/noun40__/status/1688793040650190848
・Forks are good
・Proposal 353|Nouns DAO V3 upgrade, including Nouns Fork
・Proposal 354|Nouns DAO V3 upgrade, including Nouns Fork (edit)
・Proposal 356|Nouns DAO V3 upgrade, including Nouns Fork (Will Not Cancel)
・Proposal 359|Nouns DAO V3 Upgrade follow up proposal
フォーク機能(V3アップグレード)実装後に起こったこと
こうして、2023年8月半ばにNounsのフォーク機能の実装提案が賛成多数で可決されました。本節では、その後の経緯や起きている出来事について、執筆時点での情報をもとに整理して解説していきます。
まず、2023年9月9日に、最初のフォークが実行されました。
執筆時点では、最初のNounsDAOフォーク案(Nouns DAO Fork #0)に閾値(総発行数の20%)を超えるNouns NFTがエスクローされており、以下の黄色線部の状況となっています。
- エスクロー(預託)期間
- ホルダーは、誰でもフォークページからフォークの閾値(現在は総発行数の20%)に到達するまで、Nouns NFTをエスクローに預けることができる
- フォークが開始される前であれば、トークンをエスクローから引き出すことも可能
- エスクローされたNFTの数がフォークの閾値を満たし、かつ、誰かが
fork
関数を呼び出した場合、②のフォーク期間が開始される - エスクローに入れられたトークンは、フォーク元のDAOでの投票や提案には使えなくなる
- フォーク期間
fork
関数が呼び出されたときに開始され、fork
関数は新しいNouns DAOをデプロイする- この期間は、新しいNouns DAOがデプロイされた時から数日間(例:7日間)続く
- フォーク処理と悪意のあるプロポーザルとの間の競合状態を防ぐため、元のDAOの提案は実行できなくなる
- 一度フォークが始まると、途中でキャンセルすることはできない
- 新しいDAOにはRage Quit(※)が導入され、Nounsホルダーはいつでも自分の意思でDAOからExitできるようになる。
- フォーク先の新しいDAOは、元のDAOから資金を受け取る
- フォークに参加したNounsホルダーは、フォーク先の新しいNFTを受け取る
そして上写真の通り、6日と20時間7分が経過した後に新たなフォーク版NounsDAOが誕生することになり、そのトレジャリーには本家NounsDAOから7498.49ETHが送られます。
また、現時点ではエスクローに入れられたNounsは211体となっていますので、フォーク先でNouns NFTを約35.5ETH(7498.49ETH / 211体)でExitすることが可能になると見込まれます。
つまり、現時点では35.5ETHより安くNouns NFTを手に入れていた人に対しては、フォーク先でNFTをBurnすることで利鞘を取ろうという経済的インセンティブがはたらきます。
なお、本家NounsDAOから送られるETH量やフォークに参加するNouns量は、この先6日と20時間7分の期間中は変動するため、Exit時の受け取りETH量は現時点では確定していない状況です。
ちなみに、二次流通だけでなくデイリーオークションの価格についても、2022年11月から2023年5月までの期間は30~50%のディスカウントがあったものの、現在はわずか6%のディスカウントしかありません。これは明らかにRage Quitを意識した価格変動であると考えられます。
added metrics on Nouns DAO treasury assets, auction-to-book value discount/premium, and more
— beetle (@1kbeetlejuice) September 1, 2023
auctions were sitting at a 30-50% discount from Nov22 to May23, now it's just 6%https://t.co/FhXyVYEe3R https://t.co/wJ1HGU5che pic.twitter.com/TPsTiPzTsl
また、Nounsの古参ホルダーの中には、ポジティブで楽観的な見方をする人もいるようです。たとえば、古参ホルダーのNoun 40さんは、今回の出来事を「Nouns公式Discordサーバーを実質クローズしたことに次ぐ大きな出来事」と言及し、Nounsエコシステムの発展の一環として捉えています。
for anyone confused with the nouns “season” lingo, it’s just a fun way to talk about key events
— Noun 40 (@noun40__) September 8, 2023
season 1: inception to official discord nuke
season 2: everything up to the fork happening now
season 3: the future
筆者の論考・考察
この続き: 2,936文字 / 画像5枚
まとめ
今回は、NounsDAOがフォークできるようになった全体的な経緯と背景、またその概要や現在の状況などについて、筆者の私見を交えて解説しました。
本記事が、NounsDAOの近況やフォーク機能に関する諸々の情報、また今後の懸念点や発展可能性などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。
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◤ いまNounsDAOが面白い ◢
— イーサリアムnavi🧭 Called "Ethereumnavi" (@ethereumnavi) September 10, 2023
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