今回は、合計で$21Mの資金調達をアナウンスして、先日話題となったオンチェーンゲームに関するプロジェクト「B3」について解説します。
B3は、Base上に構築された水平スケーリング型の「Layer 3のオンチェーンゲームエコシステム」であり、元Coinbaseの社員によって立ち上げられたプロジェクトです。
earlier this week we shared the news that core B3 contributor @npclabs_org closed $21 million of funding. we wrote how we're working to change the game, literally.https://t.co/AnIIonjjG8
— B3 🎮 (@b3dotfun) July 24, 2024
昨今、オンチェーンゲームという領域に対する注目が高まり、資金調達事例も増えている一方で、一般層やクリプトゲーマー層への普及が思うように進んでいない状況が、現在の界隈のリアルな現実だと感じます。
この要因の一つとして、オンチェーンゲームの世界において、ゲーム自体を「発見する」ことが大きな課題となっており、プレイヤーがゲームを見つけるのが困難な状況が続いている点が関係していると考えられます。
この問題を解決するべく、B3はブロックチェーン技術の高いゲーム構築というアプローチではなく、ゲームのエコシステム全体の構築に注力しているのですが、詳しくは順を追って説明いたします。
しかし、B3のアプローチや彼らがローンチするオンチェーンゲームに対して、一部の界隈からは「これをオンチェーンゲームと呼べるのか」といった批判の声も目立つようになってきました。
オンチェーンゲームが新たなクリプトゲームの一形態として注目される中で、どのようなプロダクトを誰に届けるべきかという観点で意見の相違が見られる点についても、本記事では一歩踏み込んで考察してみたいと思います。
ということで本記事では、「B3」の基本概要やその取り組みの内容などについて情報をまとめつつ、クリプトゲームの課題と現状や、オンチェーンゲームの定義問題などについても、私見を交えながら考察していきます。
でははじめに、この記事の構成について説明します。
まずは、クリプトゲーム全体の課題と現状や、その延長線上にあるオンチェーンゲームの誕生と問題点などについて解説します。
続いて、オンチェーンゲームの課題感から誕生した「B3」の概要やファウンダー情報、資金調達に関する内容などについて、ファクトベースで情報を整理しながらお伝えしていきます。
最後に、「オンチェーンゲーム」の定義問題や、批判の声に対する個人的な所感などについて、筆者の私見を交えながら考察を展開します。
本記事が、「B3」の概要や基本情報、そしてオンチェーンゲーム全体の理解を深めたいと考えている方々にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。
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クリプトゲームの課題と現状
前提
クリプト業界は過去10年ほどで急速に進化し、その結果としてDeFiやNFT、DAOなど、さまざまな新しい分野が生まれました。こうした業界全体の進化は、金融サービス業界に大きな影響を与えただけでなく、ゲーム業界を含む他の多くの産業にも変革をもたらしていると言えます。
ゲーム業界に焦点を当てると、Ethereum上のNFT(ERC-721)を筆頭にパブリックブロックチェーン上での標準化が進んだことで、ゲーム内アイテム(アバター、スキン、土地、通貨など)が、より多くのゲームやDeFiスタックと相互運用できる体制が整いました。これにより、ゲーム経済内でこれらのアイテムが実際の資産として保有され、金融商品化されることが可能となりました。
しかし、当初のクリプトゲームに関する構想や理論が依然として有効である一方で、ゲーム開発者たちは理想と現実の間に横たわる重大な課題に直面しているという事実も、無視できません。
クリプトゲーム開発者の多くは、シームレスなユーザー体験や統一された流動性、そして暗号資産のオンランプとの互換性を求めています。しかし、現実には、断片化されたUX、複数のチェーンに分散された流動性、そしてオンランプとの互換性の欠如という課題に直面しています。
また、前回の記事でも指摘した通り、現行のクリプトゲームには「収益面」や「体験面」の観点から、いくつかのビジネス上の課題が存在していると考えられます。
そのため、新たなトークンモデルの模索や、ゲーム体験としての価値を提供するために、可処分時間の奪い合い競争に参入するか、あるいは「ブロックチェーンならではの優位性を活かしたゲーム」を追求する必要性があると言えます。
そして、その延長線上に、オンチェーンゲームへの期待が位置づけられていると、筆者は認識しています。
オンチェーンゲームの誕生と問題点
このような流れを経て、注目と期待が集まることになったオンチェーンゲームの領域ですが、残念ながら現状では、オンチェーンゲームを「発見すること」や「遊ぶこと」のハードルがあまりに高いため、一般普及はおろか、クリプトゲーム層にさえほとんどリーチできていないという課題があります。
例えば、現時点でオンチェーンゲームの情報を得るには、SNSを監視するか、エコシステムページをチェックする必要があります。しかし、市況の悪化などの影響もあり、これらのページの多くは更新がしばしば滞っています。
その結果、ゲームを見つけるまでの過程でさえ「知る人ぞ知る」という状態に留まり、誰でも簡単にアクセスできる状況には至っていないことが、課題であると言えます。
そして、今回取り上げる「B3」は、このような現状を打破するために「BSMNT」という新しいプラットフォームを立ち上げ、オンチェーンゲームの新たな事例を次々と創出しています。
しかし、その取り組みに対しては、「それは本当にオンチェーンゲームなのか?」という批判の声も一部から上がっており、何かと話題になっています。
「B3」とは
「B3」の概要
B3は、Base上に構築された水平スケーリング型の「Layer 3のオンチェーンゲームエコシステム」です。
30億人規模のゲーマーをオンチェーンへと導き、オンチェーンゲームの未来を変えるという壮大なミッションを掲げながら、「従来の制約を乗り越え、誰もがアクセスしやすい形で、ゲーム開発者が真に楽しいオンチェーンゲームを提供できる環境を整える」ことに注力しています。
B3が掲げる理念は、「競争ではなく協力」です。彼らは、すべてのチェーン、すべてのゲームを対象とし、特定のチェーンやVM(バーチャルマシン)に縛られることなく、幅広い選択肢を提供することを目指しています。
そんなB3の最も特徴的なポイントは、「とにかくシンプルで楽しいオンチェーンゲーム体験を提供しようとしている点」だと、個人的に感じています。
B3は、技術的な知識を持たないユーザーでも、簡単にオンチェーンゲームを楽しめるよう設計されています。例えば、ユーザーは複雑な設定や手続き、ガス代を気にすることなく、即座にゲームを始めることができる体制が築かれています。
以前、Telegram上のTap to Earnゲーム「Hamster Kombat」について紹介しましたが、それと同様に、最近では初心者のオンボーディングにどれだけ力を入れられるかが、クリプトゲーム全体として改めて重要視されるようになりつつあります。
しかし、これまでのオンチェーンゲームは、その複雑さやコストの高さが障壁となり、一般ユーザーに広く受け入れられるには至っていませんでした。
そうした中、B3はこの現状を打破すべく設計されています。具体例としては、高いTPS(トランザクション速度)を維持しつつ、ほぼガスレスのトランザクションを提供しようとしたり、チェーン抽象化技術によってユーザーがオンチェーンゲームをプレイする際に、ネットワークを切り替えたり、ブリッジを使用する必要がなく、シームレスなユーザー体験を提供する点などが特徴的です。
そして、前章で触れたように、暗号資産やブロックチェーンに詳しくない一般ユーザーをもターゲットにし、オンチェーンゲームの発見を容易にするポータルサイト「BSMNT」を提供しています(※詳細は後述)。これにより、ユーザーが簡単にゲームを見つけて楽しめるよう工夫が施されています。
ちなみに、オンチェーンゲームをより遊びやすくするという観点から見ると、先日資金調達を発表したCartridgeも、類似したプロダクトと言えるかもしれません。
Starknet上でオンチェーンゲームを構築するための主要インフラプロバイダーであるCartridgeが、750万ドルのシリーズA資金調達ラウンドを発表🎊
— でりおてんちょー|derio (@yutakandori) August 5, 2024
Cartridgeは、1年半前に記事に取り上げたことがありますが、ザックリ言うと『オンチェーンゲーム版のSteam』のようなイメージです🎮 https://t.co/MVaPs4hsoi
ファウンダー
執筆時点におけるB3のファウンダーは、元Coinbase社員である以下の3名と公表されています。
まず、Daryl Xu氏は、B3のCEOを務めています。以前は、CoinbaseにてBaseのゲームおよびオンボーディングエコシステムを率いており、オンチェーン開発者・ビルダー・web2ゲームスタジオとのパートナーシップを構築してきた方です。
また、Viktoriya Hying氏はB3のCPO務めており、以前はBaseでソーシャルおよびクリエイターエコシステムを主導し、オンチェーンプラットフォーム・企業・web2ブランドとのパートナーシップを築いてきた方です。
最後にSean Geng氏は、B3のCTOを務めています。以前は、CoinbaseでエンジニアリングマネージャーとしてCoinbase WalletおよびCoinbase NFTに従事しており、それ以前には2つの企業を創業した経歴を持つ方です。
資金調達
そんなNPC Labsは2024年7月に、Pantera Capitalをはじめとする複数の投資家から、$21Mの資金調達アナウンスを行いました。
この資金調達ラウンドは、Pantera Capitalがリードし、Makers Fund、Hashed、Collab+Currency、Sfermion、Mirana Ventures、Bitscale Capital、Mantle EcoFundといった著名な投資家が参加しました。
なお、NPC Labsは今年4月に設立されたばかりなので、$3Mのプレシードラウンドと$18Mのシードラウンドを合わせた$21Mの資金を、超短期間で調達したことが分かります。
NPC Labsは、今回の資金調達の成功を受けて、さらに強力な技術基盤を構築し、ユーザーに最高の体験を提供するための準備を進めているそうです。
現在のステータス
B3は、2024年8月3日にメインネットをローンチしており、Ethereum、Base、その他のEVMチェーン上でゲームをサポートしています。
公式ブログによれば、B3はモジュラーアーキテクチャを採用することで、ゲーム専用の環境をサポートしており、これによりゲームトークンを「ゲーム内アイテム購入」や「ガス代」として利用できるようになるとのことです。
これにより、今まで用途の乏しさ(≒買手の不足)が懸念されていた各ゲームトークンが、インフラレイヤーにまでその適用範囲を拡大することが可能となり、需要の増加が期待されるのではないかと期待されます。
さらに、前章で少し取り上げた、オンチェーンゲームの発見を容易にするポータルサイト「BSMNT」のβ版リリースも、興味深いです。
このプラットフォームは、オンチェーンゲームの発見と体験の方法に革新をもたらし、ゲーム業界に新たな潮流をもたらすことを目指しています。
というのも、再三述べている通り、これまでのオンチェーンゲームの世界では、ゲーム自体の「発見」が大きな課題となっており、プレイヤーにゲームを見つけてもらうことが困難な状況が続いていました。
その取り組みの一環としてリリースされたのが、先にもご紹介したB3の最初の主要プロダクト「BSMNT」です。現在はβ版のステータスですが、サイトをご覧いただければお分かりのように、執筆時点で既にいくつものゲームスタジオが参画しています。
これらのゲームスタジオは、オンチェーンゲームの可能性を広げるために挑戦し、B3が提供する「B3 Amplification Engine (BAE)」を活用して、そのゲームタイトルを世界中のプレイヤーに届けようとチャレンジしています。
ジャンルとしては、「カジュアルゲーム」や「アーケードゲーム」に属するオンチェーンゲームが中心であり、誰でも手軽に見つけてプレイできる環境が整っています。また、ウォレット接続だけでなく、メールアドレスによるサインアップも可能なログイン方法を採用しており、クリプト初心者でも容易に始められる点が良いですね。
直近の取り組み:ポイントプログラム
執筆時点で、最も近いB3の取り組みとしては、「ポイントプログラム」が挙げられます。
このプログラムは、ゲーマーや開発者にとって、ゲームプレイや開発活動がより価値あるものとなることを目指したもので、「XP」と「BP」という2種類のポイント制度を設けています。
XPポイント
まず、XP(Experience Points)は、主にゲーマーを対象としています。
「BSMNT」のゲーム内でクエストをクリアしたり、ボスを倒すことで、このXPを獲得することができます。
また、XPは単なるポイントではなく、リーダーボードでのランキング向上に直結する重要な要素として位置付けられています。プレイヤーがゲーム内で行うあらゆるアクションがXPとして積み重なり、デジタルクレジットとして評価されます。
XPを貯めるための最初のステップは、「BSMNT」でプロフィールを作成したり、ゲームをプレイしたり、ETHをB3にブリッジしたりすることで、それによってXPがどんどん貯まっていきます。
BPポイント
一方で、BP(Builder Points)は、ゲーム開発者やコミュニティビルダーにとって非常に重要なポイントとして位置付けられています。
BPは、執筆時点においてまだ正式にはリリースされていませんが、開発者が自分のゲームコミュニティを強化し、プレイヤーを「カジュアルプレイヤー」から「熱心なファン」へと成長させるためのツールとして機能するそうです。
また、BPを利用することで、開発者はプレイヤーに対して忠誠心を報いることができ、ゲーム内の参加を促進するインセンティブを提供することが可能になるとのこと。
本章のまとめ
このように、Base上のLayer 3に構築された独自のエコシステムである「B3」は、ゲーム開発者に柔軟性を提供しつつ、ユーザーにシームレスで直感的な体験を提供することを目指し、オンチェーンゲームの未来を切り拓こうとしています。
さらに、元Coinbaseの社員たちによって立ち上げられたNPC Labsによる資金調達の成功により、今後はさらに多くの才能あるゲーム開発者がB3に参加し、技術スタックとインフラの強化が進むことで、B3エコシステムの成長が一層加速すると期待されています。
ところで、今回B3について筆者がリサーチを進める中で、多くの人々がBaseが本当に「オンチェーン」に特化しているのかについて、疑念を抱いているようにも感じました。
というのも、以前からBaseでは「オンチェーンゲーム」や「オンチェーンアーケード」など、「オンチェーン」を冠した企画やプロジェクトが進行していましたが、コアなユーザー層から「それは本当にオンチェーンと呼べるのか?」といった指摘がしばしば見受けられるように感じています。
we have a plague of fake onchain games
— lethe (@0xl3th3) July 23, 2024
if you want to call it an onchain game, it has to actually be onchain. and a game. i dont make the rules. https://t.co/BJqVLhxhDV
7月に行われたB3のテストネットローンチに際しても、展開されていたゲームの多くが完全にオンチェーン化されていなかった点が指摘され、「オンチェーンゲームの定義」を巡る議論や意見が少なからず浮上していました。
オンチェーンゲームとは何か、そしてオンチェーンであることの意義とは何かについては、約2年前から盛んに議論が行われてきましたが、B3のローンチとそのスタンス表明を契機に、これらの議論が再び活発化したように思われます。
個人的な見解・考察など
「オンチェーンゲーム」の定義問題
この続き: 3,813文字 / 画像6枚
まとめ
今回は、「B3」の基本概要やその取り組みの内容などについて情報をまとめつつ、クリプトゲームの課題と現状や、オンチェーンゲームの定義問題などについてについて解説しました。
本記事が、「B3」の概要や基本情報、そしてオンチェーンゲーム全体の理解を深めたいと考えている方々にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。
また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。
◤ B3について ◢
— イーサリアムnavi🧭 (@ethereumnavi) August 31, 2024
🎮元Coinbase社員によって立ち上げられた、Base上に構築されたL3のオンチェーンゲームエコシステム
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🎮しかし、界隈からは「それ本当にオンチェーン?」という批判的な声も…
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