Small Brainが構築するクリプト×AI領域での予測市場プラットフォーム「TMR News」の概要と、web2とweb3を橋渡しする技術「zkTLS」について解説

今回は、オンチェーンゲーム開発集団のSmall Brainが、先日新たに発表して話題となった自然言語ベースの予測市場プラットフォーム「TMR News」について解説します。

最近、「予測市場」というジャンルが急速に成長しており、クリプトのマスアダプションを推進する重要な要素の一つとして注目を集めています。

本メディアでも、代表事例であるPolymarketや、Farcasterエコシステムの「Perl」「Swaye」、オラクルレスな「Night Market」など、さまざまな予測市場プラットフォームについて取り上げてきました。

そして今回は、次の日の新聞の見出しを当てる予測市場である「TMR News」について取り上げ、従来までの予測市場との違いや、どのような仕組み・技術が可能性を秘めているのかについて、分かりやすく解説していきます。

なお、オンチェーンゲーム開発集団のSmall Brainについても、過去にたくさん記事を執筆しているので、興味がある方は併せてご参考いただけると幸いです。

でははじめに、この記事の構成について説明します。

STEP
「TMR News」とは

まずは、TMR Newsという予測市場プラットフォームの概要や技術スタックについて整理し、従来の予測市場との違いや現状の課題、今後の発展可能性について網羅的に解説します。

STEP
zkTLSについて

続いて、TMR Newsの構成要素の中で個人的に最も興味深いと思った「zkTLS」について、その概要や具体的な事例などについて、簡単にご紹介します。

STEP
予測市場とエンタメのシナジーが生みだす未来

最後に、予測市場とエンタメのシナジーが生みだす未来というテーマを中心に、TMR Newsや予測市場に関するマニアックな内容について、筆者の私見を交えて考察します。

本記事が、TMR Newsの概要や仕組み、新たな予測市場プラットフォームの萌芽などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。

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目次

「TMR News」とは

出典:https://tmr.news/

概要

TMR Newsは、毎日、翌日のNew York Timesの一面見出しを予測するという、新しいタイプの「自然言語予測市場プラットフォーム」です。

ユーザーは、翌日のNew York Timesの見出しを予想して入力し、賭け金を設定することで、予測市場に参加することができます。そして翌日、その予測がNew York Timesが実際に発表した見出しと「意味的にどれだけ近いか」に基づいて、報酬が分配される仕組みです。

「意味的にどれだけ近いか」については、OpenAIのLLMベースの文章埋め込み技術によって類似度が判定され、最も近い予測をしたユーザーが高い報酬を得られます。また、報酬は予測市場がクローズした後、他の参加者の予測と比較した結果に基づいて計算・分配される仕組みとなっています。

出典:https://tmr.news/

検証方法としては、New York TimesのデータとAIによる予測が、zkTLS技術(※詳細は後述)を用いて、安全にオンチェーン(Base)で処理される仕組みになっています。

なお、ユーザーが報酬をclaimする際には、10%の手数料が発生し、さらにBaseのガス代もかかります。

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よって、現時点ではプラットフォーム側がこの10%の手数料部分でマネタイズを図っていると考えられます。

従来の予測市場との違い

従来の予測市場は、主にバイナリ形式(Yes/No)で運営されることが一般的でした。

例えば、Polymarketでよく見られるように、「BTCの価格は月末までに1,000万円を超えるか、超えないか?」や「次のアメリカ大統領はトランプかハリスか?」といった選択肢に対して賭けを行う形式であり、結果は限られた選択肢からしか得られないことが特徴です。

出典:https://polymarket.com/

しかし、TMR Newsはこの制約を超え、オープンエンドの質問に対応できる「アナログ予測市場」を実現したところがポイントです。

このアプローチにより、より柔軟で意味を持たせた質問が可能となり、例えば「明日のNew York Timesの見出しは何になるか?」といった幅広い予測市場を提供できるようになりました。

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これにより、今後はこれまで以上に「高次元の情報を反映した予測市場」が誕生するだけでなく、「コミュニティに根ざした予測市場」や、「特定のニッチなテーマに焦点を当てた予測市場」など、新たなモデルが発展する可能性が期待されます。

使用されているスタック

TMR Newsはシンプルな予測市場プラットフォームでありながら、その裏には高度な技術スタックが組み込まれており、主にクリプトとAIの技術を活用しています。

以下は、その技術的要素について整理したものです。

  • L2およびステーブルコインの利用
    1. TMR NewsはBase上に構築されているため、ユーザーは低コストでの取引を行うことが可能
    2. 具体的には、ETHやステーブルコイン(USDCなど)を使用して賭けを行い、報酬を受け取ることができる
    3. これにより、少額の賭けでも参加しやすく、幅広いユーザー層に対応できる仕組みを提供している
  • zkTLS(Reclaim Protocol)の導入
    1. Polymarketなど、従来の予測市場の多くは「オラクル」を使って市場の解決を行っていたが、TMR Newsは、zkTLS技術を利用することで、標準的なオラクルを不要としていることが特徴的
    2. この技術により、Webからのソフトデータ(例:New York Timesの見出しデータ)を取得し、それを暗号的に検証してオンチェーンで処理することが可能
    3. 具体的には、Reclaim Protocolを使って、New York Timesの見出しを安全に取得し、zkProofsを使ってそのデータを検証している
    4. なお、zkTLSについては、やや難解ではあるものの興味深い技術なので、次章で詳しく取り上げる
  • AI(GPT)を活用した意味的類似度の評価
    1. TMR Newsでは、AI技術(GPT)を使って、ユーザーが予測した見出しと実際の見出しとの「意味的類似度」を評価している
    2. このプロセスでは、単にキーワードの一致ではなく、AIが「cosine similarity(コサイン類似度)」というアルゴリズムを使って、予測の正確さを判断している
    3. よって、先のzkTLS(Web Proofs)と同様に、TMR NewsではAIが予測市場におけるオラクル的な役割を果たしていると言える

現状の課題

一方で、TMR Newsのような新しい予測市場には、いくつかの課題も存在すると考えられます。

  1. システムの悪用リスク
  2. AIによる判定の精度
  3. UXの課題

システムの悪用リスク

例えば、New York Timesの見出しを事前に知り得る関係者が、システムを悪用する可能性が指摘されます。

この問題に対しては、より厳格な参加制限の導入や、予測者に対するKYC(本人確認)やアイデンティティの検証といった、さらなる安全対策が求められるでしょう。

しかし、このような措置は一部のユーザーにとって負担となる可能性があると同時に、KYCは不正防止に有効であるものの、予測市場では匿名性が重視されることも多いため、KYCの導入がユーザーの参加意欲を低下させるリスクも考えられます。

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そのため、プライバシー保護と透明性のバランスをどのように取るかが、今後の重要な課題の一つとなりそうです。

AIによる判定の精度

さらに、これはAIを判定に用いるプロダクト全般に言えることですが、たとえデータが正確に検証されたとしても、最終的な予測結果がAIによって判断されるため、その評価基準に対してユーザーから不満が生じる可能性があります。

したがって、AIによる判定がすべてのユーザーに公平と感じられない場合、その信頼性が疑問視される懸念があると言えるでしょう。

UXの課題

出典:https://tmr.news/

これらに加え、UX面での課題も今後の改善点として挙げられます。

改善策の一例としては、Zoraの新しいモバイルアプリのように「使いやすいインターフェースを導入する」ことや、「Apple Payなどを利用して簡単に資金をチャージできる機能を追加する」など、より幅広い層にアプローチできる体制の強化が求められます。

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さらに、日常的に通知を受け取れる「BeReal」風の機能を導入することで、ユーザーの参加を一層促進する可能性が考えられます。

今後の発展可能性

執筆時点では、TMR Newsのコントラクトはシンプルで柔軟な設計となっており、誰でも容易に予測市場を作成できる仕組みとなっています。

そのため、今後さらに多くのスピンオフや類似市場が登場する方向性での発展可能性があると考えられます。

出典:https://basescan.org/address/0xb5CFaD9FE53477ac523d47479Acb80203fdDad9D#code

例えば、第三者のクリエイターやコミュニティがTMR Newsのコントラクトをフォークし、独自のコンテンツを創出したり、ユーザーとの新たな形でのエンゲージメントを生み出すことが期待されます。

さらに、有名人の次のツイートを予測する市場や、特定のクリプトメディアの次の記事の見出しを予測する市場など、新たなボトムアップ式の予測市場プラットフォームの創設も考えられます。

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従来の予測市場は、主にバイナリ形式(Yes/No)で運営されることが一般的でしたが、「意味的にどれだけ近いか」をAIが的確に判定できるようになることで、大喜利のお題としての幅も広がり、ボトムアップスタイルとの相性が非常に良いのではないかと考えています。

本章のまとめ

以上のように、「TMR News」は従来のバイナリ形式にとどまらない柔軟なクリプト×予測市場を実現し、クリプトとAI技術の活用によって新しい市場モデルの可能性を広げていると言えます。

ユーザーはオープンエンドの質問に対応し、予測に基づいた市場参加を楽しむことができ、システムのシンプルさと柔軟さから、さらなるスピンオフや類似市場の登場が期待されます。

また、Polymarketなどの従来の予測市場の多くは「オラクル」を使って市場の解決を行っていましたが、TMR Newsは、zkTLS技術を利用することで、標準的なオラクルを不要としていることが特徴的です。

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ということで次章では、TMR Newsの構成要素の中で個人的に最も興味深いと思った「zkTLS」について、その概要や具体的な事例などについて、簡単にご紹介したいと思います。

zkTLSについて

zkTLSとは何か

zkTLS(ゼロ知識トランスポートレイヤーセキュリティ)とは、一言でいうと「web2とweb3を橋渡しする技術」であり、ユーザーがweb2のデータをweb3の世界で証明できる仕組みです。

TLS(Transport Layer Security)というインターネット上で広く使用される標準的な暗号化プロトコルに、ゼロ知識証明(ZKP)を組み込むことで、通信のセキュリティを維持しつつ、データの整合性を確保する点が特徴です。

従来、TLSはインターネット上で安全なデータ通信を実現するために使用されてきましたが、その通信内容が正当なサーバーから送信されたことを第三者に証明する機能は備えていませんでした。

そこで登場したのがzkTLSであり、zkTLSは”通信内容を公開することなく、データが改ざんされていないことを証明できる技術“として注目されています。

出典:https://paragraph.xyz/@moyed/webproof

例えば、ユーザーがTwitterを使用した実績や、フォロワー数が1,000人を超えていること等を、「TwitterのAPIに依存せずに証明できる」点が注目すべきポイントです。この仕組みにより、web2サービスのAPIの制約を超えて、web3の環境で検証・証明を行うことが可能となります。

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ただし、本格的な実用化にはまだ時間を要すると言われています。

要するに、web2側の許可や協力、APIなどを必要とせず、なおかつ安全に証明できることから、KYCなしでweb2のデータをweb3に橋渡しする技術として注目されています。

実際にTMR Newsではどのように使われているのか

TMR Newsでは、まずNew York Timesの見出しデータをweb上から取得し、そのデータを暗号的に検証することで、信頼性の高いオンチェーンデータとして取り扱っています。

これにより、従来の予測市場で必要とされていたオラクル(外部データを提供するシステム)が不要となり、データの正確性と透明性が保証されると考えられています。

また、TMR Newsのユーザーにとっての利点は、予測の正確さが公正に評価され、その結果に応じた報酬が支払われる点にもあります。さらに、zkTLSを活用することで、外部からの不正なデータ改ざんや操作を防ぎ、信頼性の高い予測市場が実現されることが大きな特徴です。

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したがって、zkTLSは従来のバイナリ形式(Yes/No)の予測市場にとどまらず、より複雑かつ柔軟な予測市場を実現する技術であり、これによってTMR Newsが提供する「意味に基づく予測」の判定を支える重要な要素として機能しています。

zkTLSの既存の具体事例

出典:https://zkpass.org/

ちなみに、zkTLSを活用したクリプト関連プロジェクトとしては、既存の事例がいくつか存在しますが、例えば「zkPass」などがその代表的な一例です。

zkPassでは、Google Chromeの拡張機能「TransGate」というツールが提供されており、ユーザーはこれをインストールすることで、web2のデータをweb3にシームレスに橋渡しすることが可能です。

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実際に使用してみると具体的なイメージがつかみやすいですが、Google Chromeの拡張機能をPCにインストールする必要があるため、セキュリティ面が気になる方もいるかもしれません。そのような方は、公式YouTube動画を参考にしてみてください。

出典:https://chromewebstore.google.com/detail/zkpass-transgate/afkoofjocpbclhnldmmaphappihehpma

筆者も実際に使用してみましたが、一度TransGateを導入すれば、その後はバックグラウンドでweb2側のデータ証明を自動的に行ってくれるため、ストレスなく、またweb2側の協力を必要とせずにweb3でデータを証明できる点に大きな可能性を感じました。

オンチェーンマーケティングでの活用可能性

出典:https://www.spindl.xyz/

以前、元Facebook社員が創業し、シードラウンドで$7Mを調達したオンチェーン広告および分析プラットフォーム「Spindl」についてご紹介したことを覚えているでしょうか?

Spindlは、従来のCPM(cost per mille/1,000インプレッションあたりのコスト)モデルとは異なり、オンチェーンでのコンバージョン(NFTのミントやトークンスワップなど)に対してのみ広告費用を支払うモデルを採用しています。

最近では、著名なウォレット「Rainbow」との提携を発表し、オンチェーンマーケティングを通じた新たな広告の形を提唱しようとしています。

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そんなSpindlですが、筆者個人としてはいくつかの課題があると感じています。

まず、現在のように多くの人々の活動がオンチェーンで完結していない状況においては、このマーケティング手法は時期尚早ではないかと感じます。

また、リスク分散の観点から、多くのユーザーが用途(NFT、DeFi、エアドロップ活動など)に応じて複数のウォレットアドレスを使い分けているため、マーケティングの精度に課題がある点も指摘すべきでしょう。

要するに、web3(オンチェーン情報)だけでマーケティングを完結させるのは限界があり、既存のweb2の情報をブリコラージュ的に活用しつつ、web3らしくプライバシーを保護しながら進めることで、新しい有効なクリプトマーケティングの手法が生まれるのではないか、という文脈において、zkTLSは非常に興味深い題材であると考えています。

今回ご紹介した「TMR News」は予測市場プラットフォームであり、直接的にはオンチェーンマーケティングとは関係ありませんが、最近では予測市場がクリプトのマスアダプションを促進する有効な手段の一つとして注目されていることも事実です。

そのため、予測市場を契機に「zkTLSを活用したツール」そのものが普及すれば、オンチェーンマーケティングの領域も一段階進化するのではないかと期待しています。

本章のまとめ

本章では、zkTLSがweb2とweb3をつなぐ技術として、特に予測市場やマーケティングにおける可能性を考察しました。

zkTLSは、ゼロ知識証明を活用し、web2データをAPIに依存せずにweb3で証明できる技術で、データのプライバシーを守りながら整合性を保証するものとして、今後の活用が期待されます。

その中でも特に、TMR Newsのような新たな予測市場や、Spindlのような新しい広告モデルにも応用が期待されています。今後、予測市場やマーケティング分野でzkTLSを活用したツールが広がれば、web3全体におけるプライバシー保護とデータ証明の両立が一層進み、次のフェーズへと進化することが期待されるでしょう。


以上を踏まえて、最後に次章では、予測市場とエンタメのシナジーが生みだす未来というテーマを中心に、TMR Newsや予測市場に関するマニアックな考察を「定期購読プラン」登録者向けにまとめています。ご興味あればご覧ください。

予測市場とエンタメのシナジーが生みだす未来


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まとめ

今回は、次の日の新聞の見出しを当てる予測市場である「TMR News」について取り上げ、従来までの予測市場との違いや、どのような仕組み・技術が可能性を秘めているのかについて解説しました。

本記事が、TMR Newsの概要や仕組み、新たな予測市場プラットフォームの萌芽などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。

また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。

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