今回は、「Perpetual」というオンチェーン・インフラストラクチャーついて解説していきたいと思います。
さて、イーサリアムnaviではここ一年近く、『オンチェーンゲーム』『AW(Autonomous Worlds)』と呼ばれる領域にフォーカスし、リサーチや記事執筆を続けてまいりました。
そして最近は、かねてより構築中であったプロダクトが形になり表に出始めてきたり、資金調達事例が増えたり、カンファレンスやイベントなど世界各国で開催されるようになるなど、その勢いが強まってきているように感じます。
オンチェーンゲームやAWについては再三触れてきているので、ここでは詳述しませんが、その真価の一例として以下のようなものが挙げられています。
- 状態(データ)はオンチェーンに保存される
- すべてのプレーヤーが許可なくアクセスできる
- オンチェーンのスマートコントラクトにロジック(ゲームの処理内容)がエンコードされている
- 誰もAutonomous Worldsのプラグを抜くことはできない
- …など
『ゲーム』の分野から、クリプトネイティブな要素を持つプロダクトが出現していることは非常に素晴らしいことであり、今後も注目していきたいと考えています。
しかし一方で、NFTコレクションの分野では、このような試みがほとんど見られないのが現状です。(例外的にはNounsDAOが挙げられるかもしれませんが。)
そんなことを思っていた最中、「Perpetual」というオンチェーン・インフラストラクチャーを標榜する構築段階中のプロダクトを、先日Twitter上で発見しました。
そして、その概念や哲学、実装技術が非常に含蓄に富んでいると感じたため、本記事で詳しく取り上げることにした次第です。
「Perpetual」からは、NFTコレクションをどこまで分散的に表現できるのか、どれだけ情報をオンチェーンで保持し未来へ繋げられるか、そして作者の死後もシステムが動き続けるようにどのように設計するのか、そういったことを学ぶ題材として非常に適しているのではないかと思います。
ただ、その実態や提唱する概念が多くの人にとっては分かりづらい部分が多々あるため、web3領域以外の知見も参考にしつつ、順を追って「Perpetual」について理解を深めていただければと考えています。
ということで本記事では、Ethereumチェーン上にある情報や、それらが生み出す相互運用性によって、NFTアートワークが動的に成長・変化していくことの意味や意義について考えつつ、オンチェーン・インフラストラクチャーを標榜する「Perpetual」の概要やその実態などについて解説していきます。
でははじめに、この記事の構成について説明します。
まずは、「Perpetual」を理解する上で欠かせないダイナミックNFTの基本概要やその意義などについて、過去に記事題材として取り上げた『The Mesh』『The Metagame』の2つをピックアップして、おさらいします。
続いて、The MeshやThe Metagameを通して見えてくる「自然に近いNFTコレクション」というジャンルへの理解を深めるために、ブロックチェーン/web3という限定的な業界から少し距離を取り、私たちが暮らす自然界における生態系や生物多様性について見ていきます。
最後に、ダイナミックNFTの基本概要やその意義、「自然に近いNFTコレクション」というジャンルへの理解が深まったところで、新しい表現の主体として興味深いNFT(オンチェーン・インフラストラクチャー)である「Perpetual」について、筆者の私見を交えながら解説します。
本記事が、Perpetualの概要や特徴、「自然に近いNFTコレクション」というジャンルなどについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。
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「Ethereumチェーンの状態によってイラストが成長し続ける」とは
オンチェーン・インフラストラクチャー「Perpetual」の概要をご説明する前に、まずは準備運動として「Ethereumチェーンの状態の変化によって、発行済みNFTのイラストが動的かつ自動的に成長していくプロジェクト」について、以下の2つをもとにその意味と意義について考えていきます。
- The Mesh
- 「Perpetual」の作者Takens Theorem氏の過去作品
- The Metagame
- Ethereumチェーン上におけるオンチェーンアクティビティを視覚化するための、3つのNFTプロジェクトの総称
- Birthblock
- Token Garden
- Heartbeat
- Ethereumチェーン上におけるオンチェーンアクティビティを視覚化するための、3つのNFTプロジェクトの総称
事例1:The Mesh
「The Mesh」は、Ethereumブロックチェーンの状態によって、NFT(発行済みのNFTも含む)のイラストが動的かつ自動的に変化していく、フルオンチェーンNFTプロジェクトです。
最終章でご紹介する「Perpetual」の作成者 Takens Theorem氏によって、『パブリックブロックチェーンの社会的側面を視覚化する』ために、2022年2月に小規模な実験的プロジェクトと銘打ち展開されました。
「The Mesh」の活動内容を簡潔に説明すると、以下の5つの各NFTプロジェクトの保有状況に応じて、NFTのイラストが動的にかつ自動的(※)に成長するというものです。
- CryptoKitties (2017)
- KnownOrigin (V2, 2018)
- Cryptovoxels (2018)
- Avastars (2020)
- Art Blocks (V2, 2021)
そして、これら5つのNFTプロジェクトの保有状況から、各ウォレットアドレスの
- 経済活動
- NFT保有傾向
- 所属するNFTコミュニティ
などを明らかにし、Ethereumチェーン上のデータを用いてソーシャルネットワークを視覚化しています。
このように、「Ethereumチェーンの状態に応じてイラストが成長し続ける」という概念を具体化した事例であり、『NFTの保有とは何を意味するのか』について考えさせられる作品となっています。
事例2:The Metagame
「The Metagame」は、Ethereumチェーン上におけるオンチェーンアクティビティを視覚化するための、3つのNFTプロジェクトの総称です。
まず、1つ目の「Birthblock」は、2021年11月半ばにローンチされた、ウォレットアドレスの『年齢』を木や年輪といった表現方法で視覚化したNFTコレクションです。
それぞれのNFTのアートワークにはウォレットアドレスごとの『年輪』が表現されており、年輪の色や大きさはウォレットアドレスの古さによって成長・変化する仕様となっています。
「ウォレットアドレスの古さ」が価値になるという考え方は、以前ご紹介したWawaというNFTプロジェクトでも採用されており、いかに古参であるかを視覚的に表現する試みとして、非常に興味深いものです。
続いて、2つ目の「Token Garden」は、自身がミントして得たNFTコレクション群をもとに、3Dのお花畑がどんどん広がっていくというコンセプトのNFTです。
こちらは、先程の「Birthblock」に続くThe Metagameプロジェクトの第2弾作であり、2021年12月末にローンチされました。
庭に咲く花の数・大きさ・色は、ウォレットアドレスごとの『既存のオンチェーンデータ』を元にして特徴づけられます。
本プロジェクトのミソは、OpenSeaなどの二次流通マーケットから購入したNFTではなく、自身で直接ミントしたNFTを元にアートワークや属性が特徴づけられるという点にあります。
つまりToken Gardenでは、何らかの別コレクションのNFTをミントするたびに、アートワークに描かれた庭の花が芽を出し、一度ミントした後でも大きく育っていきます。
この『Ethereumアドレスを育成する』『一度ミントしたNFTを育てる』という概念は、NFTの来歴に価値があることを視覚化した本プロジェクトならではの特徴であり、とても興味深いものとなっています。
最後に、3つ目の「Heartbeat」は、「オンチェーンアクティビティに基づいた鼓動する心臓」を表現したNFTコレクションです。
Heartbeatは、先程までの「Birthblock」「Token Garden」に続くThe Metagameプロジェクトの第3弾作であり、2022年1月末にローンチされたもの。
自身が保有するheartbeatは、最新のオンチェーンアクティビティに基づいて毎日更新され、トラッキングはマルチチェーンに対応しています。
また、動的なNFTであることに加えて、webサイトやOpenSea上で操作ができるインタラクティブNFTとなっていることも特徴的です。
以上、「Ethereumチェーンの状態によってイラストが成長し続ける」プロジェクトの事例について概観しました。
ご覧の通り、これらのNFTは一度ミントされた後もイラストが固定されるわけではなく、Ethereumチェーンの状態に応じて常に変化し続ける点が特徴的です。
つまり、一度保有したNFTの内容が永遠に不変であるとは限らず、常に変化するEthereumチェーンの世界、すなわち諸行無常の状態を反映し、人工的なものではなく”自然に近い”NFTコレクションと言えます。
“自然に近い”という言い回しは、という表現は、パブリックブロックチェーンが持つオープン性や改ざんに強い特徴、つまり「一度解き放たれると恣意的には止められない」性質を指しますが、この理解が深まると、The MeshやThe Metagame、そして今回の主題である「Perpetual」に対する理解も深まるでしょう。
生物間における相互作用と種の多様性
さて、地球上のすべての生物は、何らかの形で他の生物と関わって生きているため、「生物間の相互作用のあり方」が生物多様性の命運を握っていると言われています。
つまり、生物間の相互作用が種の多様性に大きな影響を与えるという訳ですが、では「生物間の相互作用のあり方」とは一体どのようなものなのか。まず簡単な例で考えてみたいと思います。
例えば、5種類の生物が存在し、そのうち1種がいなくなると、残りは何種になるでしょうか。
当然、5種類の生物から1種がいなくなる訳ですから、残りは4種類ですよね。簡単な問題です。
しかし、実はこれは『生物間に相互作用がない場合』に限った話です。相互作用がなければ、ある生物がいなくなったとしても、他の生物に影響を及ぼすことがないですからね。
ただ、生物間に相互作用があると話は変わってきます。例えば、競争能力に秀でた種がいなくなると、これまで排除されていた種が新たに侵入し、逆に種数が増加します。また、共に利益を分かち合っている2種のうち一方の種が絶滅すると、もう一方の種は生きていけなくなり同様に絶滅することもあります。
なんとなくイメージが湧きづらい方もいらっしゃるかもしれないので、具体的に「ラッコ」と「ウサギ」を例に考えてみます。
まず、海の生態系でウニを大量に食べ、ケルプという海藻にくるまって眠るラッコは、ケルプの海中林の維持にとって必要不可欠な存在の動物だと言われています。しかし、乱獲によって海からラッコがいなくなり、ケルプを食べるウニが爆発的に増えてしまうことで、海中林が破壊されてしまった例も知られています。
また、陸の生態系では、大量に植物を食べる消費者(≒体の比較的大きい草食動物)が、そのような役割を果たしていることが知られています。例えば、多くの島で、人間が持ち込んだウサギが植生を大きく変えてしまう例が認められています。
以下イラストのように、ウサギが持ち込まれた生態系では森林が失われて、まばらな草原になってしまいます。しかし、一部でも森林が残されている区画にフェンスを張り、草食動物が入れないスペースを設けておくことで、フェンス内では樹木の芽が育ち、再び森林への遷移が進みはじめるのです。
このように、相互作用のあり方(相互作用の多様性)によって、種の多様性もまた大きく変わってしまいます。他の生物と何の関わりも持たず、単独で生きている生物はいないため、自然生態系では生物間の相互作用のあり方が、生物多様性の命運を握っていると言えます。
そして、この生物間における相互作用は、種の多様性を大きく左右しており、種の多様性は彼らが『どのような関係で結ばれているか』に依存しています。言い換えれば、「相互作用のネットワーク構造」が、生物多様性との関係を紐解く重要な手がかりとなるのです。
先に取り上げたThe MeshやThe Metagameも、『Ethereumチェーン上で起こる相互作用によってNFTのアートワークが動的に変化していく』という意味で、生物間における相互作用と種の多様性の関係と仕組みが似ています
そして、「The Mesh」を構築しているTakens Theorem氏は、『Ethereumチェーン上の相互作用性』にフォーカスしたNFTコレクションを作成し続けている人であり、NFTの相互作用性から生まれる文化的要素に可能性を感じながら、オンチェーン作品の意義を啓蒙し続けている方です。
参考資料:
シリーズ 群集生態学 全6巻
生物多様性科学のすすめ 生態学からのアプローチ
生物の多様性ってなんだろう? 生命のジグソーパズル
絵でわかる生物多様性
絵でわかる生態系のしくみ
ラッコが消えれば海が死ぬ――たった一種の絶滅が招く生態系の崩壊
オンチェーン・インフラストラクチャー「Perpetual」について
概要
「Perpetual」は、NFTコレクションではなく、Ethereumブロックチェーン上で動作する『オンチェーン・インフラストラクチャー』を標榜するプロジェクトです。
一見すると、ユーザーに対してNFTの発行を促すことからNFTプロジェクトのようにも感じられますが、作者のTakens Theorem氏は、「Perpetual」が単なるNFTコレクションではないことを強調しています。
では、「Perpetual」が提唱している『オンチェーン・インフラストラクチャー』とは一体何なのか。
端的にいうと、「コーディネーター」と呼ばれるコントラクト(coordinator.sol)を頂点とするインフラであり、このコーディネーターが計算の中心となり、他のコントラクトを呼び出しながら相互作用を生み出し、新しいフルオンチェーンNFTを作ろうとするものです。
ただ、「Perpetual」のwebサイトを見ると、上写真のようなイラストとともに文章による説明が記載されているのみで、正直初見では何をやっているのか理解するのが難しいです。
なので、作者のTakens Theorem氏に質問をしつつ、それを踏まえた筆者なりの解釈で分かりやすく加筆を加えたイラストを以下に掲載し、解説していきます。
この続き: 5,316文字 / 画像10枚
まとめ
今回は、Ethereumチェーン上にある情報や、それらが生み出す相互運用性によって、NFTアートワークが動的に成長・変化していくことの意味や意義について考えつつ、オンチェーン・インフラストラクチャーを標榜する「Perpetual」の概要やその実態などについて解説しました。
本記事が、Perpetualの概要や特徴、「自然に近いNFTコレクション」というジャンルなどについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。
また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。
◤ Perpetual ◢
— イーサリアムnavi🧭 (@ethereumnavi) November 29, 2023
♾️『Ethereumチェーンの状態によってイラストが成長し続ける』概念について
♾ 人工的ではなく”自然に近い”NFTコレクションの実態を、生物間における相互作用と種の多様性の観点から解説
♾ 作者の死後もシステムが動き続けるための設計とは
詳細はこちら👇@takenstheorem pic.twitter.com/wRYUXLp15D
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