今回は、Farcaster上のテキストメタバースを標榜する「Farcastles」の概要や、Metaの最近の取り組みについて解説しながら、メタバースにおけるオープン対クローズド論争について考察します。
さて最近、一周回って「メタバース」に関するニュースを頻繁に目にするようになってきたと感じています。
例えば、先日マクドナルドがシンガポールの顧客向けにメタバース体験「My Happy Place」を導入したと発表しました。
このニュースに関して、NFT Plazasの記事でマクドナルドの担当者は、「My Happy Placeのデジタル体験を通じて、顧客がアバターにマクドナルドの衣装を着せ、夢のレストランをデザインし、さらに毎日のフィジタル(物理とデジタルの融合)報酬を獲得できることに大いなる期待と興奮を抱いています」と述べています。
また2024年6月には、「The Sandbox」が2,000万ドルの資金調達を実施し、その存在感を再び示しました。さらに、ソフトバンクの子会社であるソフトバンク・コンサルティングがリードインベスターとして参加するPixelスタイルのメタバースプロジェクト「Song of Rising」も資金調達を実施し、注目を集めています。
これらの動きを含め、第二四半期だけでメタバースプロジェクトの資金調達事例は10件近くに上り(※イーサリアムnavi調べ)、その活況ぶりを如実に物語っています。
しかし、メタバースには依然としていくつかの課題が存在することも確かです。
例えば、メタバースプロジェクトがサービスを終了すれば、その世界は完全に消失してしまいます。さらに、ユーザーが購入した土地NFTなどのアイテムは、相互運用性の欠如によりデジタルの瓦礫と化してしまいます。
こうした問題はメタバースに限ったことではなく、いわゆるブロックチェーンゲームにも共通する課題と言えるでしょう。
そうした課題を解決するための一助として、今回はメタバースへの注力を鮮明にするため社名変更とリブランディングを敢行したMeta(旧Facebook)の最新の取り組みや、Farcaster上で展開されるテキストベースのメタバースの萌芽について紹介しつつ、AI時代における今後のメタバースの在り方について考察していきたいと思います。
でははじめに、この記事の構成について説明します。
まずは、Metaのリブランディングおよびソーシャルグラフに相互運用性を持たせる取り組みについて紹介し、クリプトの文脈におけるメタバースの再評価を行います。
次に、Farcaster上で展開されるテキストベースのメタバースの萌芽「Farcastles」について簡潔に紹介し、「共につくり上げるメタバース」という新たな概念を解説します。
最後に、メタバースにおけるコンポーザビリティや、AIの進化がオープンなメタバースの発展を後押しする可能性について言及し、今後のメタバースの進展について筆者の私見を交えながら考察を深めます。
本記事が、Metaの最近の取り組みやFarcastlesの概要、生成AI時代におけるメタバースの戦略案などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。
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Metaの最近の取り組みについて
Metaのリブランディング
2021年10月、Mark Zuckerberg氏はFacebookをMetaに改名し、メタバースへのシフトを宣言し、世間の注目を集めました。
この発表でMark氏は、メタバースを「具現化されたインターネット」と位置付け、なおかつユーザーが「単なる参加者ではなく体験の一部となる」ことをビジョンとして掲げました。
そして、このビジョンを目の当たりにした多くの人々は、VRヘッドセットやアニメーションアバター、そして最新の空間コンピューティング技術を駆使した仮想現実の世界を想起したことでしょう。
しかし、個人的にメタバースを「仮想環境や最新ハードウェアありきのもの」に限定するのはあまりにも狭義的ではないかと、最近は考えるようになりました。
メタバースの枠を広げる
オンラインのやり取りは、すでに仮想的なものになっています。例えば、コロナ禍の影響もあり、対面の会議をビデオ会議で代替することは今では一般的なものとなりました。
さらに、前回の記事でも解説したように、オンラインメディアの台頭によりSNSが登場し、インターネットはますます社会的な存在となっています。
現在、世界人口の半分以上がインターネットを利用し、その多くがSNSやYouTube、TikTokなどを通じて可処分時間の奪い合い競争に巻き込まれています。
つまり、私たちがデジタル空間で過ごす時間は、オンラインメディア創世記と比較して圧倒的に増加したのです。
このような現状を踏まえると、物理的な世界とデジタル世界がますます融合している中で、メタバースは仮想環境や最新ハードウェアに依存した未来の概念ではなく、既に私たちの現実の一部となっていると言えるでしょう。
では、こうした仮説に基づいた時、クリプトの文脈におけるメタバースはどのような概念を提唱し、その枠を広げることができるのでしょうか。
クリプトの文脈におけるメタバースを再考
Metaリブランディングという触媒を経て、短期的にクリプトの文脈におけるメタバースプロジェクトは、トークン価格の変動などを通じて一時的に注目を集めました。
しかし、その波はすでに静まり、中長期的な視点からメタバース関連プロジェクトが持続可能な価値を提供できるかどうかを考える時期に差し掛かっています。
というのもここ数年、ブロックチェーンゲームやweb3事業を展開する企業が相次いで倒産し、私たちが築いたソーシャルグラフやアイデンティティが消失する場面を、嫌というほど目にしてきました。
サービスが終了すると、ブロックチェーンゲームの多くはNFTだけが残され、ゲームデータやステータスはサービス終了とともに消えてしまいます。ユーザーにとってみれば、NFTだけが残り、自分がゲーム内で積み上げてきた実績や構築したソーシャルグラフが消えるという事態は、従来のゲームと何ら変わらない体験とも言えます。
このような現象の背後には、ゲーム事業間でのコンポーザビリティの欠如やインセンティブの不足といったビジネス的な要因が大きく影響していると個人的には考えています。そして、メタバースにおいてもこれと同様の課題が今後出てくるのかもしれません。
例えば、メタバース内の土地をNFTとして販売しているプロジェクトが事業閉鎖した場合、土地NFTの保有権は確かにユーザーの手元に残るかもしれません。しかし、それを別のメタバースで活用したり、第三者が派生プロジェクトとして拡張することは、現行の仕様では難しいでしょう。
したがって、現状の「メタバースが存在する」という構図から、『存在(オンチェーン情報)がメタバースの姿をしている』という構図に変えることで、クリプトならではの強みを活かした新たなメタバースを構築する余地が広がると考えられます。
例えば、以前ご紹介したPhi(土地)やWawa(アバター)も、その一例だと思います。
要するに、無から有を生み出すのではなく、既に存在するパブリックな情報を元に世界を具現化するというアプローチは、クリプトならではのメタバースを考える上で参考になるアイデアの一つと言えます。
それが、Metaのソーシャルグラフに相互運用性を持たせる取り組みです。
Metaの「ソーシャルグラフに相互運用性を持たせる取り組み」
Metaの強みは、FacebookやInstagramを通じて「世界中の人々のデータベースとソーシャルグラフ」を構築した点にありますが、最近ではそのソーシャルグラフをサービス化することを検討しているようです。
自社アプリ間での相互運用性
例えば、Metaが展開しているSNS「Threads」は、最近APIを公開してサードパーティーアプリの開発を可能にしたり、月間アクティブユーザー数がリリースから1年で1億7500万人を突破するなど、話題になっています。
そしてThreadsは、「Instagramのソーシャルグラフをそのまま移行している」点が特徴的であり、個人的にはこの取り組みがソーシャルグラフに相互運用性を持たせる試みとして、非常に興味深いと感じています。
By launching Threads through Instagram, the new app has a leg up on other would-be Twitter alternatives. For starters, Instagram users can keep the same username on Threads. And, during setup, Threads users can opt to follow the same accounts they already follow on Instagram.
Instagramを通じてThreadsを立ち上げることで、Threadsは他のTwitterの代替となりそうなアプリに一歩リードしている。 まず、InstagramのユーザーはThreadsでも同じユーザー名を使うことができる。 また、セットアップ中に、ThreadsユーザーはすでにイInstagramでフォローしているのと同じアカウントをフォローすることを選択できる。
出典:https://variety.com/2023/digital/news/instagram-threads-launch-twitter-competitor-1235662171/
他社アプリ間との相互運用性
また、最近Threadsは分散型SNSインフラであるFediverseに加わり、Fediverseエコシステム内(Mastodonなど)のSNSとコンテンツやソーシャルグラフを共有できるようになりました。
先のThreadsのような自社アプリ間での相互運用だけでなく、他社アプリともソーシャルグラフにおいて相互運用性を持たせることで、プラットフォーム間で行ったり来たりする必要がなくなるので、ユーザー体験が向上すると期待されます。
こうした最近のMetaの取り組みは、将来的にSocial Graph-as-a-Serviceとしてメタバースの基盤になる可能性があると同時に、クリプト領域のメタバースやFarcasterなどのweb3ソーシャルサービスは、MetaやFediverseとは異なる「クリプトならではの優位性」を強調していく必要性があるでしょう。
では、こうしたMetaの最近の取り組み事例を踏まえた時、「クリプトならではの優位性」を前面に出したメタバースやSocial Graph-as-a-Serviceとは、具体的にどのようなものが考えられるでしょうか。
Farcastlesについて
「Farcastles」とは何か
Farcastlesは、Farcasterの/farcastlesチャンネル内でプレイする「テキストベースのソーシャルゲーム」です。
以下の画像のように、ゲームに参加するプレイヤーはWarpcastなどのFarcasterクライアントアプリを使用し、!attack north
や!attack south
といったコマンドを入力することで、北または南の城を攻撃します。
Farcastles botがこれらのコマンドをキャプチャし、城に与えたダメージの量をFarcasterのオープンソーシャルグラフに登録していきます。
そして、各プレイヤーは北と南に好きに分かれ、相手の城のHPを5000から0にすることで1試合が終了するという、シンプルなルールとなっています。
さらに、Farcastlesでは特定のトークンを保有する必要がなく、誰でも参加可能なオープンなゲームを目指しています。
ここまでの説明を読んで、「どのようにして攻める城を選べばよいのか?」や「そもそもなぜ城を攻めるのか?」といった疑問を抱く方もいるのではないでしょうか。
しかし、Farcastlesのユニークポイントは、それらがすべてプレイヤーの想像力次第であるという点にあります。
要するに、プレイヤーが後から機能や意味を追加できるように、画像・伝承・ステータスなどの具体的な内容はあえて省略し、余白を残しているのです。
Farcastlesの着想に至った背景
ここまでのFarcastlesの設計を見て、イーサリアムnaviのコア読者の方々には、Lootとの類似性にお気づきになるかもしれませんね。
そうです。実はFarcastlesは、Lootからインスピレーションを受けて構築されたソーシャルゲームであると明言されています。
ご存知の通り、Lootは黒い背景に白いテキストで表示された8行のテキストを特徴とするNFTで、コミュニティがそのテキストを基に独自のストーリーやゲームを作り上げる「ボトムアップアプローチによるNFT」です。
そして、Lootの影響を受けたFarcastlesも、シンプルなゲームループと最小限のナラティブのみを提供し、プレイヤーが自由に世界を構築できるように設計されています。
これによってFarcastlesは、プレイヤーが独自の機能・アート・ストーリー・ミームなどを追加できるようにすることで、無限の拡張の可能性と余白を秘めています。
この辺りは、PixeLAWの設計思想と似ていますね。
こうしたFarcastlesの持つ可能性と余白は、ローンチ初週に2300人以上の参加者を引きつけました。
多くのプレイヤーがダッシュボードを作成したり、新しいNFTコレクションを立ち上げたりするなど、コミュニティの活発な活動が見られ、密かな盛り上がりを見せていました。
共につくり上げるメタバース
このように、Farcastlesの全てのゲームアクションはキャスト(投稿)を通じて行われるため、その履歴はオープンソーシャルグラフに保存され、他の開発者もその情報を利用することができます。
過去には、南の城を攻撃したプレイヤーに「$CASTLE」というコインを配布するbotがコミュニティから自発的に誕生したり、勝利した側のプレイヤーにNFTを配布する開発者も現れました。
これは、FarcastlesがLootの影響を受けてシンプルなゲームループと最小限のナラティブのみを提供し、無限の拡張の可能性と余白を秘めていることがもたらした現象だと考えられます。
こうした点を踏まえると、Farcastlesは運営チームだけでなく第三者も巻き込んだ「共につくり上げるメタバース」を提唱しているのではないかと個人的に考えています。
クリプトの強みの一つとして「コンポーザビリティ」が挙げられますが、これが従来のメタバースには欠けていました。
メタバースに限らず、ブロックチェーンゲームにおいても、「ゲームプロジェクトAのNFTを保有していると、他のゲームでもそのNFTが利用できる」といった分かりやすいメリットが長らく提唱されてきましたが、先に述べたようにビジネス的な理由から、そのようなブロックチェーンゲームはほとんど実現されてきませんでした。
しかし、クリプトの強みを活かしたメタバースを考える時、特定の企業一社が実現できることよりも、第三者を巻き込んで共に世界を作り上げることの方が、より強力なものを創り上げることができるはずです。
そもそも、クリプトでよく使われるcomposabilityやcombine、componentというワードには、「com-」という、ラテン語のcum(with)に由来するプレフィックスが付いていますから、言葉遊びではないものの、方向性としては共につくり上げる方向性を志向した方が自然なのかもしれません。
メタバースにおけるオープン対クローズド論争
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まとめ
今回は、Meta(旧Facebook)の最新の取り組みや、Farcaster上で展開されるテキストベースのメタバースの萌芽について紹介しつつ、AI時代における今後のメタバースの在り方について考察しました。
本記事が、Metaの最近の取り組みやFarcastlesの概要、生成AI時代におけるメタバースの戦略案などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。
また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。
🧵メタバースにおけるオープン対クローズド論争
— イーサリアムnavi🧭 (@ethereumnavi) July 9, 2024
1/ メタバースブーム再到来の予兆
2/ 現状のメタバースの課題
3/ Metaのリブランディング
4/ メタバースの枠を広げる
5/ クリプトの文脈におけるメタバースを再考
6/ Metaの「ソーシャルグラフに相互運用性を持たせる取り組み」
1/… pic.twitter.com/TCSL63Rpm8
クリプトのエッセンス書いてあった。意外に聖典レベル https://t.co/XEqGy68C9O
— consome↑ (@ZkEther) July 9, 2024
メタバース再考・最高への変化 https://t.co/SOzojn618T
— ONIちゃん👹喋るケーキ屋 (@oni_cyan_nft) July 11, 2024
世界は必ず拡がる
— oan (@nao09831256) July 13, 2024
https://t.co/jm9BiCEZh8
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