今回は一青窈さんの名曲「ハナミズキ」を題材に、ボトムアップで二次創作を生み出すプロジェクト「Rework with ハナミズキ」を解説し、CC0 NFTやweb3カルチャーを踏まえて「音楽×NFT」の可能性について考えてみたいと思います。
さて、過去2年間にわたって、「音楽×NFT」の様々な試みや事例が世界中で生まれています。例えば、イーサリアムnaviでは、Arpeggi StudioやAudioglyphs、そして後述するSnoop Dogg氏の「Dogg on it: Death Row Mixtape Vol. 1」といった、含蓄に富んだ音楽NFTプロジェクトを紹介してきました。
これまでの「音楽×NFT」は主に、『個人アーティストがストリーミング収益を得ることが難しい問題に対する解決策としての側面』で注目され、実践されてきたと、筆者は認識しています。
そして、数多くの実験を経て、近い将来には大手レーベルや著名なアーティストたちも、『楽曲を長期的に活用するための手段』としてNFTやDAOの仕組みを導入し、既存の実証実験を参考に新たな取り組みを始めるべき時期に来ていると感じています。
そんなことを考えていた中、以下のツイートが筆者の注目を集めました。
TuneCore Japan 新プロジェクト『Rework with』開始🚀
— TuneCore Japan (@TuneCoreJapan) June 26, 2023
第一弾は一青窈とコラボ『Rework with ハナミズキ』@hitotoofficial
二次創作を通じ音楽クリエイターエコノミーを支援!
〜『Rework with』〜
TuneCore… pic.twitter.com/7uk9PGkVRf
こちらの「Rework with ハナミズキ」は、現時点ではNFTプロジェクトではありませんが、その発想と実践内容はweb3カルチャーに大いに共鳴するものがあります。
ということで本記事では、「音楽×NFT」の取り組みが単に投機的な需要に依存することなく、パブリックブロックチェーンを根本的に有効活用する価値を見出すヒントを探求するため、「Rework with ハナミズキ」について解説・考察していきたいと思います。
でははじめに、この記事の構成について説明します。
まずは、一青窈さんの『ハナミズキ』について、表面的には美しい恋愛ソングとして知られているものの、実は平和を願う心強いメッセージが込められた歌であることを中心におさらいしていきます。
続いて、ボトムアップに一青窈さんの『ハナミズキ』の派生作品の創出を促したプロジェクト「Rework with ハナミズキ」の詳細を解説していきます。
最後に、「Rework with ハナミズキ」がweb3カルチャーにどのように近いかを整理し、既存のCC0 NFTプロジェクトの問題点も踏まえつつ、今後の発展可能性などについて、筆者の私見を交えながら考察していきます。
本記事が、「Rework with ハナミズキ」の概要やweb3カルチャーとの関連性、投機的な需要以外の価値で評価される『音楽×NFT』などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的または投資上のアドバイスとして解釈されることを意図したものではなく、また解釈されるべきではありません。ゆえに、特定のFT/NFTの購入を推奨するものではございませんので、あくまで勉強の一環としてご活用ください。
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一青窈さんの『ハナミズキ』について
『ハナミズキ』は、日本のシンガーソングライターである一青窈(ひととよう)さんによって、2004年にリリースされた楽曲です。
『ハナミズキ』は発表から長い期間にわたり人気を博し、オリコンの週間シングルランキングでは累計で136週にわたりチャートインするという偉業を達成しました。また、カラオケランキングにおいても高い評価を受け続け、90週連続でTOP5に名を連ね、リリースから約15年が経った現在でもTOP10に位置しているという驚異的な記録を持っています。
さらに、『ハナミズキ』は映画化もされました。2010年に公開された映画『ハナミズキ』は、この曲が持つイメージを基にした「互いを想いながらもすれ違い続ける男女の恋の行方を描いたラブロマンス作品」として描かれており、新垣結衣さんと生田斗真さんが主演を務めています。
そんな『ハナミズキ』ですが、表面的には美しい恋愛ソングとして知られていますが、実は平和を願う心強いメッセージが込められた歌であることを、皆さんはご存知でしょうか?
この曲は、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を受け、ニューヨークにいた友人からのメールに心を痛めた一青窈さんが、涙を流しながら詞を綴ったといいます。
そのため、彼女の当初の詞には「テロ」「散弾銃」「ミサイル」などの言葉が使われ、テロへの怒りと戦いの連鎖を象徴していました。
そして、彼女はテロに対する自分の想いを全部吐き出した後で、詞を何度も削ったり修正したりしながら、最終的に「君と好きな人が百年続きますように」という有名なフレーズに辿り着いたのです。これは、引き算の美学とも言えるでしょう。
そんな、平和を願う一青窈さんの想いが込められた『ハナミズキ』は、次章で詳しく取り上げる「Rework with ハナミズキ」というプロジェクトを通じて、音楽アーティストやクリエイターに楽曲のパラデータ(楽器ごとの各音源データ)が広く提供されることになりました。
このプロジェクトに参加するクリエイターは、「ハナミズキ」の音源を使って、歌唱やラップ、リミックス、楽器のセッション、サンプリングなど自由に二次創作が可能となり、その中でも優れた作品に選ばれると、日本テレビの「SENSORS」という番組で紹介されるという特典付きでした。
最終的に「SENSORS」の中で、HUSKYakaDaNas (ハスキーエーケーエーダナス)さんの二次創作ラップ作品が「一青窈賞」を受賞したのですが、その選抜理由についても『戦争やテロに対する考えを、ストレートにラップで表現されている』と評価されていました。
このことからも、オリジナルの『ハナミズキ』という曲が、平和を祈念する想いを込めて作られたものであることが分かります。
このように、元々平和を祈念するメッセージが込められたオリジナルの楽曲「ハナミズキ」が、他のアーティストの手によって新たな形で表現され、二次創作として生まれ変わる過程で、web3カルチャーやCC0 NFTムーブメントと相通ずるものがあると筆者は感じています。
実際に配信されている二次創作曲の数々はこちら
参考資料:
一青窈「ハナミズキ」の歌詞の意味は?”君と好きな人が百年続きますように”に込められた想い
「Rework with ハナミズキ」優秀作品、発表!
「Rework with ハナミズキ」について
前提:『TuneCore Japan』について
TuneCore Japanは、個人が自作した楽曲を世界中の配信ストア(185ヶ国以上)で販売できる、音楽配信ディストリビューションサービスです。
このサービスは、国内外の配信ストアに楽曲を販売する機能を提供するだけでなく、アーティストをサポートする新機能も継続的に追加しており、『個人アーティストを支援する』という姿勢を示しています。
また、2012年10月に日本でサービスを開始したTuneCore Japanは、昨年でサービス開始から10周年を迎え、アーティストへの総還元額は393億円を超えました。
「Rework with ハナミズキ」の概要
「Rework with」は、TuneCore Japanが実施するアーティストサポートプロジェクトで、個人アーティストの活躍と音楽環境の大幅な変化に貢献し、音楽クリエイターエコノミーの普及を目指しています。そして、その第一弾として、デビュー20周年を迎えた一青窈さんとコラボしたものが「Rework with ハナミズキ」になります。
「Rework with ハナミズキ」では、一青窈さんのヒット曲「ハナミズキ」の楽曲パラデータを提供し、クリエイターによる二次創作を促します。
そして、その二次創作群の中から優秀作品に選ばれると、日本テレビの番組「SENSORS」内で紹介されると言うのが、一連の企画の流れでした。
要するに、この取り組みは、アイデアや作品をボトムアップで広く募集し、優れたものに対して賞を与えることで、新しいプロジェクトの発足へと繋がる可能性を探るものです。運営側としても、自分たちのクリエイティビティだけでは生まれなかった多様な作品が誕生することに期待を寄せており、それによって新たな動きが生まれることを望んでいるのです。
一青窈さん自身も、別媒体のインタビューで「ハナミズキを様々な形でアレンジしてもらい、新しい『ハナミズキ』を見るのが楽しみ」とコメントされていました。
とても大切な曲である『ハナミズキ』をアレコレいじってもらって新しい『ハナミズキ』が生まれるのが楽しみです!今まで知り得なかった違う側面を引き出してもらったり、皆様の素晴らしい才能で『ハナミズキ』に自由な魂を吹き込んでください。新しい音に出会えるのを誰よりも心待ちにしています!
出典:PR TIMES|TuneCore Japan 新プロジェクト『Rework with』、二次創作を通じ音楽クリエイターエコノミーを支援! 第一弾は一青窈とコラボ『Rework with ハナミズキ』
さらに、アーティストは「ハナミズキ」の二次創作をTuneCore Japanを通してリリースし、配信収益の50%を収益化する機会も与えられています。
ちなみに、ボトムアップに派生音楽作品を創出させる取り組みとしては、本記事の冒頭でもご紹介したSnoop Dogg氏の「Dogg on it: Death Row Mixtape Vol. 1」が記憶に新しいでしょう。
🆕記事をアップしました🆕
— でりおてんちょー|derio (@yutakandori) March 5, 2022
今回は、Snoop Dogg氏がリリースした音楽NFTについての記事です📝
🥦「Dogg on it: Death Row Mixtape Vol. 1」の概要
🥦『音楽×NFT』として斬新かつ挑戦的である要素
について解説🌿
励みになるので、参考になりましたら拡散の方お願いします🙏https://t.co/BgawE8DKtP
「Dogg on it: Death Row Mixtape Vol. 1」は、同氏が初めてOpenSea上でミックステープをドロップしたものであり、購入したNFTのデータに関しては自分の曲としてリミックス・マスタリングなど自由におこなって良いルールとなっています。
また、「Dogg on it: Death Row Mixtape Vol. 1」には
- フルソングver
- インストゥルメンタルver
- アカペラver
- フック&ビートver
の4種類に分割された音源データがNFTとしてリリースされており、アートワークはBored Ape Yacht ClubやDoodlesなど、既存のNFTコレクションのイラストが用いられています。
話が少し逸れましたが、「ボトムアップな二次創作スタイル×音楽」という組み合わせは、権利関係の複雑さ等の要因から、実現が難しいものです。特に『ハナミズキ』のような有名曲においては、「ボトムアップな二次創作スタイル×音楽」としての事例は非常に稀で珍しいため、「Rework with ハナミズキ」の試みはweb3カルチャー的な視点からも非常に興味深いケースであると感じました。
参考資料:
大ヒット曲『ハナミズキ』を自由にイジってOK! 謎の最先端音楽プロジェクトの全貌が見えてきた
「バーやクラブで自作CDを怪しげなオジサンに配り……」一青窈、歌手デビューの裏ワザを明かす
TuneCore Japan 新プロジェクト『Rework with』、二次創作を通じ音楽クリエイターエコノミーを支援! 第一弾は一青窈とコラボ『Rework with ハナミズキ』
魔改造して!ハナミズキ 一青窈さん、なぜ二次創作解禁
「Rework with ハナミズキ」優秀作品、発表!
筆者の論考・考察
この続き: 5,687文字 / 画像6枚
まとめ
今回は、「音楽×NFT」の取り組みが単に投機的な需要に依存することなく、パブリックブロックチェーンを根本的に有効活用する価値を見出すヒントを探求するため、「Rework with ハナミズキ」について解説・考察について解説しました。
本記事が、「Rework with ハナミズキ」の概要やweb3カルチャーとの関連性、投機的な需要以外の価値で評価される『音楽×NFT』などについて理解したいと思われている方にとって、少しでもお役に立ったのであれば幸いです。
また励みになりますので、参考になったという方はぜひTwitterでのシェア・コメントなどしていただけると嬉しいです。
◤ Rework with ハナミズキ ◢
— イーサリアムnavi🧭 (@ethereumnavi) November 5, 2023
🌺11月5日は、"音楽NFTの日"
🌺一青窈さんの「ハナミズキ」の楽曲パラデータを提供し、第三者による二次創作を促す野心的なプロジェクトをご紹介
🌺投機的な需要以外の価値で評価される『音楽×NFT』について考えてみよう
詳細はこちら👇https://t.co/nTqHE7kMO1
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